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インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

リアクション


【3】 G【2】


「……う、ぐ、こ、断る!」
 ダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は突き付けられた魔法少女仮契約書に露骨に拒絶を示した。
「だって、魔法少女にならないとこの空間じゃまともに行動出来ないんだよ?」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が言うものの、ダリルは大文字の姿を見て、完全に戦慄していた。
「絶対嫌だ。何故このキャンペーンに今まで参加せず、カルキに任せてきたと思ってるんだ。ああなりたくないからだぞ」
「大丈夫だよ。コスチュームには個人差があるし、契約者のイメージが重要だと思うの。カッコイイ男装の麗人的な服を思い浮かべたら何とかなるよ。たぶん。きっと」
「たぶんでサインが出来るか」
「そんなこと言わないで。ダリルだって体力と気力が尽きたら空間に飲み込まれてしまうわ。皆の未来が掛かっているの。お願い、ダリル」
「うぐ……!」
 とうとう観念し、ダリルは契約書にサインをした。戦闘時の百倍意識を集中して、イメージしたおかげで、変身後の衣装は麗人的スーツになった。
「はぁはぁ……、どうにか生き恥を晒さずに済んだか……!」
 気合いを入れ過ぎたせいで息が荒い。
「ほらほら。ちゃんと決めポーズ」
「?」
 軍服をベースにした魔法少女コスチュームに変身したルカルカはダリルを誘う。
「新たな時代に誘われて、キャプテン☆ルカルカ、華麗に見参♪」
「………………」
「ちょっとぉ、なんで一緒に言わないの?」
「言えるか!」
 グリーンベースの短パン魔法少女となった夏侯 淵(かこう・えん)は、ダリルをしげしげと興味深そうに見つめる。
「ほう。人間その気になれば、まともな魔法少女に変身出来るものなのだな。博士のようなダリルも見てみたかったが……」
「死んでもドレスやスカートなど履くものか」
「けど、剣種族の初期装備って白いドレ……ぐおおおおおおっ!!」
 ミニドラゴンマスコットになったカルキノス・シュトロエンデ(かるきのす・しゅとろえんで)に、ダリルは積極電極を押し当てた。
「ドレスやスカートなど履かん!」
 それから、大文字のもとに集まった仲間に合流する。ちょうどグランガクインのエネルギーをどうするか、それぞれが意見を出し合っているところだった。意見に耳を傾けながら、ダリルも自身の意見を言う。
「……エネルギーがなければ集めればいいのではないか?」
 彼らの視線がダリルに向く。
「説明してもらえるか?」
 大文字が言う。
「天学のイコン関係部を除いた全ての海京、天沼矛の動力ケーブルを使っての空京、海底ケーブルを使っての日本東京。そこから電力と魔法動力をかき集める!」
「な、なに……?」
「幸運にも寿子の置いていった魔法少女仮契約書は十分にある。これを使って海京各所の意識のある契約者と、東京と空京の各公的施設に協力を要請し、ますは導線を確保する。変電回路の設計はこれだけ技術者が居ればなんとでもなるだろう」
「ぬうう。思いつきもしなかった。三都市のエネルギーをグランガクインに託す、か。それだけエネルギーがあれば、グランガクインを起動させてもお釣りがくる。よし、これよりグランガクイン起動作戦をこの小さな人工島にちなんで『コジマ作戦』と名付ける」
 大文字は高らかに宣言した。
「鈴木くん、すぐに海京の行動可能な契約者、及び空京と東京に連絡をとるのだ!」
「無理です」
 鈴木は一刀のもとに斬り捨てた。
「ど、どういうことだね?」
「どういうことも何も、我々が置かれている状況を忘れたのですか。今、海京はシャドウレイヤーによって”閉鎖”されているのですよ」
「あ……」
「したがって空京及び東京に連絡することは出来ません」
「だが、海京内なら連絡がとれるのではないか。全域がシャドウレイヤーの範囲に収まっているのなら、空間は分断されていない。したがって通信遮断も発生していないはずだ」
 ダリルは指摘する。
「ええ。それは可能です。ですが、海京中の電力を集めるのは不可能です。それを行うには大掛かりな作業が必要になります。作業に従事可能な人間を集め、必要な資材を確保し、エネルギーを学院に集める設備の建設をするとなれば、通常時であっても一週間は必要となるでしょう。ましてやこの非常時ではそれ以上の時間はみてしかるべきかと。我々に集められるのは、この学院のエネルギーが関の山です」
「ダメか……」
 コジマ作戦は発令して間もなく頓挫した。

「……なんや辛気くさい顔しよってからに」
 ブラウニー(小人の妖精)風マスコットの七枷 陣(ななかせ・じん)が言った。
 傍らに立つ、ミニスカメイド服風魔法少女の小尾田 真奈(おびた・まな)の淹れた紅茶を飲みながら、一同を見回す。
 意見は出たものの、これといって決め手になるものには恵まれず、大文字も含め、グランガクインの起動には諦めの空気が漂いつつあった。そもそもこの土壇場に、これまで不可能だったことを成そうとするのは間違いだったのだろうか。
「これ以上、考えても埒があかん。イーリャ君の提案したプランBのほうを……」
「博士。そいつはまだ早いで」
「しかしだな……」
「諦めたら先には進まれへん。この土壇場だからこそ成せる事もあるんや」
「?」
 陣は立体モニターに映るゴールドノアを見つめるイーリャに気付き、不敵に笑う。
「あんたも気付いたみたいやな?」
「ええ。上手くいくかもしれません」
「……何の話だね?」
「エネルギーと制御回路が無いから無理って……つーかさ、あるやん両方」
「え?」
「博士。逆に考えるんや。現行の技術で必要なものを生み出せないなら、もう完成している部品を使えばいいやと考えるんや」
 陣はコンソールパネルを叩き、モニターにゴールドノアを拡大して映し出す。
「あの船についとるビッグバン・ボム。アレって、機晶タキオンエネルギーが動力で、制御回路もあるんやろ。アレをちょっぱってしまえば、グランガクインに転用出来るんやないの?」
 一同は顔を見合わせる。
「ああああーーーーーーーーーーっ!!!!」
「カードに封印してた万馬博士はさっき出したら、まだ固まっとって使いモンにならんけど、ここにはグランガクインの開発を総括する大文字博士がいるし充分可能やろ?」
「そ、その手があったか!」
 死中に活とはまさにこのこと。教団もまさか、自らの持ち出した兵器が、自らの最も恐れる存在を目覚めさせることに繋がろうとは思いもしなかっただろう。
「これよりグランガクイン起動作戦を発令する。本作戦の要は教団の持つビッグバン・ボムだ。雅香さんは敵船に潜入した生徒に連絡をとり、爆弾を回収するよう伝えてくれ」
「了解よ、大文字指令」
「それから、桂輔と長谷川くんは格納庫に行って使えるイコンから動力を出来るかぎり集めてほしい。グランガクインの起動に必要なエネルギーを爆弾からのエネルギーで全て補填出来るとは限らん。他の手段でもエネルギーを確保しておきたい」
「よーし、俺に任せてくれ!」
「了解しました。作業の段取りはこちらで進めますので、ご心配なく」
「ダリル君らには学院に残されたエネルギーの管理、統括を頼む」
「制御プログラムの構築なら容易い仕事だ。心得た」
「そして、陣くんとイーリャ君は、私とともにグランガクインのコアに来てくれ。ビッグバン・ボムから取り出したエネルギーと制御回路を組み込む作業を手伝ってもらいたい」
「ああ。いっちょ気合い入れてやったるわ」
「私の知識と技術がお役に立てるのなら光栄です。よろしくお願いします」
 かくして作戦は始まった。