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インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

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インベーダー・フロム・XXX(第3回/全3回)

リアクション


【2】 NOAH【2】


 制御不能に陥ったアウストラリアスの小型飛空艇は甲板に突っ込んだ。衝突と同時に機体は爆発してばらばらになったが、彼女はその直前に飛び降り、事なきを得た。
 しかし状況は絶望的だ。
「囲まれた……」
「我等、神に祝福されし理想の尖兵。我等が道を遮る理想の敵に安らぎを。安らかなる眠りを」
 黒のライダースーツにヘルメットのクルセイダー達が歩を揃え、彼女に迫る。
 甲板にいる仲間達はそれぞれ目の前の敵に対処するのに手一杯で、こちらに援護は望めそうもなかった。
 万事休す、と思われたその時、ミスター バロン(みすたー・ばろん)が現れた。
「レディースアンジェントルメン! これより本日のメインイベント! プロレスラー・バーニングドラゴン対グランツ教団の60分一本勝負を行います!」
 マイクを手に宣言するバロンに敵の目が奪われる。
「赤コーナーよりバーニングドラゴン選手の入場です!!」
 結城 奈津(ゆうき・なつ)は上空に待機させた飛空艇から飛び降り、ド派手に甲板に着地を決める。客がおらずとも魅せる事を怠らない、それがプロレスラーと言うものだ。奈津はクルセイダーを見回し、そしてビシィと指を突き付ける。
「時は来た! 海京にいるプロレスファンを救うため、あたしは戦う! それだけだ!」
「奈津よ、これを使え!」
 バロンは魔法少女仮契約書を取り出す。しかし奈津は首を振った。
「……何故、受け取らん?」
「あたしはプロレスラーの闘い方しか知らねぇ。今更、魔法少女にはなれねぇよ……」
 だが魔法少女でなくてはこの空間に適応出来ない。現に今、彼女は両手両脚に重しを付けられたような感覚に陥っている。とても戦えるような状態ではない。
「……フッ、そんな事で悩んでいるようではプロとは言えんな」
 バロンは彼女の心を見透かすように目を細めた。
「プロレスラーはプロレスラー。魔法少女になった所で、レスラー魂を忘れるようなトレーニングは積んでいないはずだぞ!」
「ガ、ガガーン!」
「魔法少女から逃げるな! レスラーは逃げることは許されない! どんなアングルも技もガチンコも全て受けきる! それがレスラー! プロレスラーだ!!」
 奈津はうなだれる。
「すまねぇ、師匠。あたしはとんだ甘ちゃんだった。とんだアマレスラーだった……。契約書を貸してくれ!」
 公開調印を済ませると、身体から重圧が消えた。バロンは魔鎧化し、彼女の身体を包み込む。
「お前は他の何者でもない。プロレスラーだ」
「そう、あたしはプロレスラー。バーニングドラゴンだ!」
 炎を模した大胆なリングコスチューム。覆面から覗く瞳には烈火の如き闘志が燃える。
「ケガはないか、アウストラリアス?」
「ええ」
「ここはリングにするには広過ぎる。一気に中に突入しちまおう」
 船内に通じる扉までは100メートルほど。二人は走り出した。
「アウストラリアス・ディフレクター!」
 アウストラリアスが光の壁で撃ち込まれる弾丸を防御し、その間にバーニングドラゴンが扉までの道を切り開く。
「うおおおおおおおおっ! どきやがれぇーーーっ!!」

「…;この状況、早々に解決せねば! 海京のためにも、大文字先生の外見的にも!」
 甲板に降り立ったエヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は、迎撃に現れたクルセイダーを前に魔法少女仮契約書を取り出した。しかしアウストラリアスの持っているものとは微妙に形状が異なる。
「見せてやろう、この俺の真なる力を!」
 調べによれば、この契約書。元は大文字がヒーロー認定証として考案したものと言うではないか。ならば、わざわざ恥を忍んで魔法少女になる必要もない。エヴァルトは出撃前に大文字に頼み、ヒーロー認定証に改良してもらったのだ。
 手にしたヒーロー認定証は七色の光を放ち、エヴァルトに正義を執行する力を与える。
「うおおおおおおおおおおおお!!」
 ピンク色の全身タイツに、同じ材質のテロテロのスカート。胴に『女勇者』とデカデカ書かれた……なんともはや、デパートの屋上のヒーローショーで戦隊もののピンクやってるバイトの兄ちゃんを彷彿とさせる出で立ちに。
「お、思ってたのと違う!」
 大文字も自身の技術力を超えるものに手直しするのは難しかったようだ。あるいは、魔法少女仮契約書の矜持がそうさせたのかもしれないが、結果としてヒーロー認定証風魔法少女仮契約書になったようである。
「……なんか著しくダサくて中途半端だが、ヒーローは見た目じゃない、心だ!」
 襲い掛かるクルセイダーの攻撃を得意の体術で躱し、胸と顔に掌打、怯んだところで投げ飛ばす。宙を舞った敵は悲鳴を上げて甲板を越え、地上に落ちていった。
「ふむ。いちいち戦闘不能にまで叩きのめすより、こっちのほうが手軽でいいな」
「神に仇なす不心得者め」
 敵は聖剣アシュケロンを斧に変化させ斬り付ける。攻撃を避けて、エヴァルトは後退しようとしたが、敵は複数、横から入った敵が槍状の聖剣アシュケロンでエヴァルトを突く。身を逸らし致命傷は避けたものの、血飛沫が飛んだ。
「……ぐっ!」
 更に別の敵が短剣を構え、迫る。
「まったく……便利な武器を使う!」
 エヴァルトは真空波を放った。怯んだその瞬間、胸ぐらを掴んで投げ飛ばす。残った敵も間髪入れず、背負い投げで空中に放り出した。
「次に空を飛びたいのはどいつだ!」
 再び構えをとったその時、ふと、足元に転がるアシュケロンに気付いた。
「ほう?」
 手に取ると、アシュケロンは長剣状に姿を変えた。
「お前達には勿体ない玩具だな。こいつは先生への手土産にするか」
 目の前の敵を素早く斬り伏せ、甲板を駆け抜ける。アウストラリアスとバーニングドラゴンと合流し、飛空艇内部に突入する。
「追っ手は俺が止める! ファンブロウさんは先に!」
「ありがとうございます、ご武運を……!」
 エヴァルトは入口で立ち止まり、敵の前に立ちはだかった。
「……とは言え、中もヘルメット野郎の巣窟じゃねぇか」
 しばらく進むと、クルセイダーの一団が待ち構えていた。紙の一枚も通さぬ程に整列し行く手を遮る。
 しかし、バーニングドラゴンはその様子に怯むどころか、更に闘志を熱くたぎらせた。
「それであたしらの道を塞いだつもりかよ。笑わせるぜ!」
「何か作戦があるんですか?」
「ああ。とりあえず連中を怯ませてくれたら、あとはあたしがなんとかする」
「わかりました。では……アウストラリアス・パーミット!」
 アウストラリアスの放った魔法の閃光が、一瞬、クルセイダーの視界を奪った。バーニングドラゴンはその隙に距離を詰め、一人を叩き伏せ、それから哀れなその敵の足を持ってジャイアントスイングを繰り出す。
「おりゃあああああああああ!!」
 真空波とヴォルテックファイアを回転に乗せる。見えない刃と火焔が渦を巻き、クルセイダーを片っ端から薙ぎ倒していく。狭い通路に整列していたのが仇となったようだ。
「これがヴォルテックハリケーンだっ!」

「うう……。ど、どうしてこんな事に……」
 端守 秋穂(はなもり・あいお)は涙目だった。
「男だし、マスコット希望だって言ったのに……」
 すみれ色のフリフリ魔法少女衣装を怨めしそうに見つめる。海京を守るため立ち上がった彼だが、魔法少女になるつもりはなかった。
 ちゃんとマスコットになるつもりで契約書にサインしたのだが、書類は魔法少女の契約書にすり替えられていたのである。信頼すべきパートナー、セレナイト・セージ(せれないと・せーじ)の手によって。
「きっと何か手違いがあったにゃね〜。しょうがないのにゃ。こういう事はよくあることにゃよ」
 ふわふわ白猫風マスコット・ほわいと☆せれにゃんに変身したセレナは、完全すっとぼけの方向で、落ち込む秋穂を慰める。
「絶対、おかしいよぉ。僕、ちゃんとマスコットになれる契約書をお願いしたのに。きっと誰かがすり替えて……」
「人を疑うのはよくにゃいのね〜」
 せれにゃんは魔法少女姿で可憐に戦う秋穂を見たかったのだ。
「秋穂ちゃん、かわいー。すごく似合ってるよー」
 もう一人のパートナー、ユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)は紅と黒が基調のゴスロリフリフリ魔法少女衣装に変身している。秋穂と一緒に魔法少女を出来るのが嬉しくて、彼の腕に手を回し無邪気に笑う。
「僕、男なのに……」
 先ほどのキャロリーヌの乱に乗じ、彼らはゴールドノア内部に潜入した。運がいいのか、今の所、敵とは遭遇していないが、ふと通路の先が騒がしくなってきた。
「ん?」
 角からクルセイダーの一団が飛び出して来た。ヴォルテックハリケーンに崩された陣形を立て直すため後退した一団だ。彼らは秋穂の存在に気付くと、すぐさま襲い掛かって来た。
「わ、ちょ、ちょっと待って!」
 秋穂は短過ぎるスカートを押さえて隠す。
「ず、ズボン履くから待って! ズボンどこー?」
 無論、待つわけがない。
「……うう、も、もういいです!」
 秋穂は羞恥心を捨て覚悟を決めた。
「少女じゃないけど魔法少女、ハーモニック・アイオライト! 海の都を滅ぼす悪をぶちのめす為に、唯今参上っ!」
「お菓子大好き魔法少女、ラプソディック★ブラッドストーン! 華麗にさくさく参上なのー♪」
 どこか吹っ切れた様子の秋穂に並び、ユメミも決めのポーズを見せ付ける。
「はああっ!」
 クルセイダーの攻撃を日曜朝のヒーロー然とした、キレ良く格好良い体捌きで躱す。魔法少女に関する知識がないので、アイオライトにとって変身ものと言えば特撮ヒーローなのだ。
「秋穂ちゃん、かっこいー。かっこかわいー」
「ううううう……」
 褒められても嬉しくない。
「アイオライト・ウェーブ!」
 半ばヤケになって技名を叫ぶ。彼の心を映し出すように、怒りと悲しみに満ちたカタクリズムが敵の身体を持ち上げ、壁や天井に何度となく叩き付ける。
「悪い子たちはー……めいっぱい刻んじゃえー!」
 ブラッドストーンもカタクリズムを放つ。研ぎすまされた思念は見えざる剣となり、敵の身をズタズタに斬り裂き、トドメを刺す。
「ち、違うにゃ……」
 バタバタと倒れていくクルセイダーを見ながら、せれにゃんは唸った。
「魔法少女の可憐な戦いが見たかったのに、なにこの荒々しいバトル……!」
 そこにアウストラリアスとバーニングドラゴンが現れた。
「先ほどの一団はどうにか片付いたようですね」
「おお、全滅してる! やるじゃねぇか!」
「ハーモニック・アイオライトにかかれば雑作もないことですよ! は、ははははは、ははははは!」
「……なんで涙目?」
 とその時、せれにゃんの耳に複数の足音が聞こえた。ここは敵の中枢。また別の一団が迎撃に出てきたのだろう。
「いちにゃん去ってまたいちにゃんにゃ」
 彼女は驚きの歌で一同を回復させる。
「またヴォルテックハリケーンを食らわしてやるぜ」
 バーニングドラゴンは拳を鳴らす。
「真空霊剣、セブンス・ブランチ! その悪意ごと断ち切ります!」
 アイオライトは七支刀を構え、アウストラリアスに言う。
「僕たちがここで足止めします。あなたはメルキオールの元に急いで下さい」
「ドラゴンさん、アイオライトさん……。すみません。ここはお願いします」
 アウストラリアスは踵を返し、先を急ぐ。