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【帝国を継ぐ者・第二部】二人の皇帝候補 (第2回/全4回)

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【帝国を継ぐ者・第二部】二人の皇帝候補 (第2回/全4回)

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【錯綜する思惑:1】




 エリュシオン帝国、オケアノス領。
 その最も中心となる都市の中心に建つ、宮殿とも見紛うような立派な屋敷が、オケアノス選帝神ラヴェルデ・オケアノスの邸宅である。
 そこへ客人として招かれたクローディス・ルレンシア(くろーでぃす・るれんしあ)と、その護衛という名目で訪れた面々が通されたのは、応接室だ。荒野の王も、同じ室内でラヴェルデを待っているようだったが、こちらは自分の部屋であるかのように堂々と落ち着いている。おかげでやや話しかけ辛く、思い思いに視線をめぐらせていた。

「ちょろっと触っただけなのにセルウス可愛そう」
 呟くように言ったルカルカ・ルー(るかるか・るー)に、「必然かもしれないぞ」といったのはダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)だ。どういうこと、と首を傾げるルカルカに、ダリルは続ける。
「あの接触で、大帝から何かを受けた可能性がある、ということだ」
 それが、意識等の類か、それとも力であるかは判らないが、と、葬儀の際の記憶を遡らせながら続けるダリルに夏侯 淵(かこう・えん)も頷く。
「セルウス殿の宿命が引き寄せた”機会”かもしれんしの」
 あるいは試練、とも言うだろうか。そう付け加えて淵は苦笑した。
「心配ではあるが、これを乗り越えられんことには、始まらぬよ」
 自分たちは自分たちの仕事をするほかあるまい、と続けて、淵はちらりと氏無を見やった。
(程好く監視もついておるしな。”シャンバラ国軍は、セルウスをどうにかしようと、外部から忍び込んだりはしてはおらぬ”ということで良いのであろ?)
 自分たちがここに居ることで、そうアピールできる、と淵はテレパシーを通じて言ったが、氏無は難しい顔だ。
(現実問題として、僕らはあくまで護衛であって代表じゃあないからねぇ……それに、この監視体制を見る限り、多分ここの主人は”万事に疑いを解かない”タイプだろうし)
 スカーレッド達が成功すれば良いが、失敗、あるいは事態が明らかになった時点で、教導団の関与は疑われるだろうから、と氏無は苦笑する。
(まぁ、いざという時は傷の赤を切るまで、なんだけど)
 比較的顔が割れ易い君らがここにいてくれるほうが、発覚の確率が低くなるから助かるのは確かだね、と続けたものの、その顔色はあまり良くない。
(出来るだけ穏便に事を運んでくれればいいけど……まあ難しいかな)
(件の、テロリストの件かの?)
 ぶつかったら確かに、隠密ではすまなくなるとは思うが、と淵が尋ねたが、氏無は首を振った。
(うっかりかち合う可能性もまあ、気になるんだけど……問題は、その後、かな)
 何のことか、と問いかけようとしたが、その前にひょい、と近付いたのはアキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)だ。
「ピリピリしてんなぁ、氏無の旦那。何がそんなに引っかかってんだ?」
「うん? そんなに変な顔してたかい?」
 ぽん、と肩を叩いたアキュートに、参ったねぇ、と氏無は苦笑した。
「何か心配事かい?」
「まぁ色々と、ね」
 隠すでもなく、はぁ、と溜息をつき、氏無は煙草の吸えない口寂しさを誤魔化すようなふりで、天井を仰いだ。
「問題やら心配やら山積だよ、あっちもこっちもさ」
「大陸がヤバイって話か」
 確信を持ったアキュートの問いに、氏無が「そうそう」と頷いたのに、「そのことで思い出したのですが」と口を開いたのは源 鉄心(みなもと・てっしん)だ。
「例の巨人族の宝玉について、報告にあったディミトリアスの話は……」
 その言葉に、氏無は軽く眉を寄せた。遺跡龍の心臓部の秘宝を見たディミトリアス・ディオン(でぃみとりあす・でぃおん)が口にした、巨人族の青年が、偉大なる力の目覚めを求められ、秘宝を用いたという話だ。その後、アスコルドの崩御に、葬儀の一件など落ち着く時間が無かったため、詳しい話がまだ聞けていないのである。
「ただ印象としては、アトラスのことと考えた方が良さそうだねぇ」
「やはり……そうですか」
 頷きつつ、氏無は小さく溜息を吐き出した。ディミトリアスの持つ知識は、現在から一万年も前であるという、大きな隔たりがあるのだ。こちらから紐解かないと、判らないこともまだ多い。厄介だなぁ、という思いは思わず口から出ていたようで、アキュートは苦笑した。
「旦那も大変だなァ」
「判ってくれるぅ?」
 労わるような言葉に、氏無は大げさに肩を竦め、ちらり、とその視線を他所へと向けた。
「その上この状況だよ。参っちまうよねぇ」
 向けた視線の先に、別の誰かと話している様子のクローディスに気付くと、アキュートは「ああ」とつられて肩を竦めた。
「あんたらが関わって、何事もなかったためしがねぇもんな」
「……すみません」
 話を向けられて、肩身が狭そうに苦く笑ったのは、調査団サブリーダーのツライッツだ。チェイニ達他の調査団の面々の姿が見えないのは、その何事か、が起こったときのことを考えて、シャンバラで留守番をしているらしい。
「まあここまで来た以上、本当に何事もなく、とはいかないのは判っていますし」
 どこか諦めた調子のツライッツに「そのことですが」と鉄心が僅かに言い辛そうにしながら、口を開いた。
「ツライッツさんに、ご相談したいことがあるんです」