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リアクション
【揺れる天秤の上で――カンテミール】
「うーん、やっぱりいいなあ、これ。PSも改造してくれないかな?」
『こっちが落ち着いたら、考えておくのだぜ』
応えたエカテリーナの言葉に、鳴神 裁(なるかみ・さい)が指を鳴らす。
彼らがいたのは、カンテミールの地下を走るドワーフ達の坑道だ。
こちらでは丁度、ユリ・アンジートレイニー(ゆり・あんじーとれいにー)がリリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)とララ・サーズデイ(らら・さーずでい)の二人と合流し、エカテリーナのイコンに備え付けの工房が、先の遺跡で使ったものに似た高速移動用のトロッコを完成させた所だった。逃亡の際に選んだ入り口からは、何とか潜り込むことこそ出来たものの、元々広さのない場所だ。追撃を避けるため、工房もフル稼働で何とか身を隠せる場所まで移動はしたが、そこから先のオケアノス方面については確実に行き詰ってしまう。
『一応通れる道もあるわけだが……』
「それはあくまで最終手段だ」
エカテリーナの歯切れの悪い言葉をあっさりと切り捨てて、ドミトリエは地下に残った全員の顔を見回して「それじゃあ」と息をついた。
「俺たちはオケアノスへ向う。合流できるかは判らないが、ここでじっとしているわけにも、いかないからな」
その言葉に、そうか、と独り言のように呟いたのはサビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)だ。
「……キミは動くのか」
その言葉の真意がわからず、首を傾げたドミトリエに、ザビクが不意に口元を緩ませるのに、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は意外な思いで目を瞬かせた。
「シリウスが何か言ってたけど……ボクは、キミの助けになりたいと思ってるよ」
ドミトリエがミルザムの血を引いているのなら、それはザビクの仕えるシャンバラ王家の人間ということだから、と言うのも理由の一つだ。だが勿論、それだけではない。その上で、ドミトリエが前を進んでいく人間であるからだ。ザビクの中でのドミトリエの評価が変化したのを感じで、シリウスは息をつくと「そういうわけだから」ととん、と自身の胸を叩いた。
「心配すんな。ドミトリエは自分のやることが見えてるんだろ?」
じゃあやるしかないよな、と言う言葉に背中を押されるようにして頷いたものの、ドミトリエは、どこか後ろ髪を引かれ手居る様子だった。ここへ残していく義妹のエカテリーナのことを、彼なりに心配しているのだろう。
「……後は、頼んだ」
それでも首を振って割り切ると、同行するリリ達と共にトロッコに乗り込んだ。
情報収集を担当する者達は既に地上へ出て行動を開始しているし、オケアノスからも、荒野の王がセルウスの討伐へ向かったと言う連絡が入っている。余り悠長にしている時間はない。
「任せとけって。こっちは”何とかする”さ」
そんな彼らを見送る南臣 光一郎(みなみおみ・こういちろう)は、同じくトロッコに乗り込んだ黒崎 天音(くろさき・あまね)とドミトリエのそれぞれの視線に応えるように、意味深に肩を竦めた。それを合図にするように加速するトロッコはあっという間に敷かれたレールの上を滑走し、目的地へと突き進んでいく。
「……大丈夫、でしょうか」
心配げに言ったのはユリだ。戦闘は終わったとはいっても、エカテリーナ達は、相手にとって敵対勢力だ。黙って見過ごしてくれるのだろうか、と不安げだ。戦闘時に味方側からの裏切りがあったりしたのだから、その心配も仕方が無いことだろう。だがその様子に、天音はドミトリエをちらっと見やると「大丈夫」とにっこりと笑った。
「勿論、対策はしてきたよ」
そうして、高速のトロッコが去るのを見送って「さて」と光一郎は息をついた。
「悠長にニートやってる時間も惜しいからな。まずは状況の確認と分析から行くか」
言って、その場に残った三船 敬一(みふね・けいいち)達を眺め、最後にびしっとエカテリーナを指差して光一郎は続けた。
「先ず最初に認識とかなきゃいけないのは、エカテリーナたんの立場だが、ズバリ、ドミトリエのアキレス腱だ」
冷静で皮肉屋な部分の強いドミトリエではあるが、万が一エカテリーナの身柄を押さえられれでもすれば、流石に動揺を隠し切れはしないだろう。見捨てるのが最良策だと判っていても、それをすればセルウス陣営の混乱を狙う2の矢を有効打にさせてしまう。そう語って「つまり」と光一郎はさしたままの指をくるりと回した。
「チミは一粒で二度美味しい垂涎の的なんだよ。それをあちらさんが見過ごすはずは、まあねーわな」
「そりゃそうだな」
シリウスが頷き、キュべリエ・ハイドン(きゅべりえ・はいどん)も「そうですわね」と同意した。
「この狭さです。よもや大群が押し寄せはしないでしょうが、こちらもこの人数。迎え撃つ準備が必要ではないでしょうか?」
「そうだな……」
敬一は考えるように間をあけると「よし」とパワードスーツを着込みなおした。
「俺はこの辺りを調べてくる。迎え撃つなら、舞台は把握しておく必要があるしな」
「ああ、頼むな」
何か判ったら教えてくれ、とすぐさま踵を返す敬一に頼むと、光一郎は意味深な意味を湛えたままパートナーを振り返った。
「ってわけで、準備しよーぜ?」
「こここここここ、光一郎よ」
が、その視線の先ではオットー・ハーマン(おっとー・はーまん)は何故か酷く動揺しているようだった。
「鯉くん、今度は鶏になったのか?」
「鯉ではないっ、それがしはドラゴニュートである! って何回目だこの会話!?」
思わずお決まりのツッコミを入れたオットーが何かを言うより早く、光一郎はてしてし、とその肩を叩いた。
「今は四の五言ってる場合じゃねーよ、OK?」
その、言葉とは裏腹に気迫と覚悟の覗く光一郎の目に、しぶしぶと黙ると、キュベリエと共に入り口に罠を仕掛ける相談を始めた光一郎を見やって、オットーは僅かに溜息を吐き出した。
『…………』
一方で、この状況についてか、それともドミトリエのアキレス腱と言う事実が堪えたのか、エカテリーナはモニター越しにも沈んでいるのが判った。そんなエカテリーナに、シリウスは「なあ」と口を開いた。
「エカテリーナ、それから四天王の皆も、落ち込むのはまだ早いんじゃねーか?」
返答は無いが、耳を傾けている気配を感じて、シリウスは続ける。
「復帰プレイ、って知ってるか?」
古いゲームの話だが、一度やられると、ゲームオーバーではなくパワーアップがリセットされた状態での復帰となるシステムがあったのだが、ゲーム終盤での復帰プレイは、ノーミスでクリアするよりも更にプレイ難易度が高くなるのだ。何しろまっさらな状態でラスボスを倒せ、と言われているようなものなのだ。
「……でも、いるんだよな。そういう状況から、華麗に復活を決める変態どもが……オレはゲーマーってのは、そういう人種だと信じてるぜ」
その言葉は、まさにその変態レベルの廃人ゲーマーであるエカテリーナ達を揺さぶった。
『……うん』
小さい呟きは、珍しいエカテリーなの肉声だった。
『リアルって単語に惑わされんなってことだな。よく考えたらこの状況、縛りプレイって奴なんだぜ?』
続いたエカテリーナの合成音声に『一理ある視点ですな』と四天王が沸いた。
『しかも難易度ナイトメア、オートセーブの復帰プレイとかmjd? ちょwwたwwぎwwっwwてwwwきwwwたwww』
最早合成音声でも表現できないような羅列が画面に並んだかと思うと『キターーー!』やら『神のたぎった頂きましたー!!』等、理解不能な盛り上がりを見せ始めたのに、シリウスは笑った。
「ゲーム上等じゃねえか。復帰プレイで、クリア目指してやろうぜ!」
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