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フューチャー・ファインダーズ(第2回/全3回)

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フューチャー・ファインダーズ(第2回/全3回)

リアクション


【1】


 2046年の海は、2023年の海と変わらないように見える。
 けれど、歴史というのは積み重ねだ。過去の上に時代が重なっているのだ。連続性だ。連続性の中に歴史というものがある。
 潮風に揺れる海原の底には、かつて栄えた海京の都が沈んでいるし、降り注ぐ太陽と海鳥が影を落とす蒼天の空には天沼矛はなし。
 確かにこの世界は2023年を過ぎ去った向こう側に存在しているのだ。

 ナインポートを出航したサルベージ船は、サルベージラグーンに一時停泊し、大規模な作業に備え準備を整えている。
 陣頭指揮をとるのは、サルベージ組合のボスにして、日本国防衛省から派遣された救國軍・特務隊『朝焼』隊長、太公望だ。
 麦わら帽子に釣り竿、くたびれたシャツにサンダル履きというおよそ軍隊のイメージとは程遠い出で立ちは、真なる姿を眩ますためのカモフラージュ……なのか、ただ単に彼がズボラなだけなのかは、おおよそ判断に困るところである。
「……長い一日になりそうだねぇ」
 波止場に腰を下ろす太公望はあくびをしながら、釣り糸を垂らした。
 サルベージ船には今、改修工事が施されている。
 設備投資を提案した及川 翠(おいかわ・みどり)の指示の元、各サルベージ船に簡易ドックを追加しているのだ。
 この設備が備わることで、船上でも修理・整備が可能となる。一度にイコン一機を格納するのが限度の手狭なものだが、回収と整備を同時進行で行えるのは効率がいい。
「……あの太公望とかいう奴は信用出来そうだな」
 狩生 乱世(かりゅう・らんぜ)グレアム・ギャラガー(ぐれあむ・ぎゃらがー)の二人は、特務隊に協力することに決めた。
 港の人間の素性がわからないので身を隠して様子を見ていた二人だったが、彼らの正体が明らかになった今、隠れる必要はない。敵の敵は味方とは言い切れないものだが、ことこの件においては敵の敵は味方である。
「それに彼らと協力する事は、僕らの任務を達成するのに都合がいい」
”ガーディアン・ナンバーゼロ”の時空転移を阻止する、か……」
 浮かび上がる記憶を繋ぎ合わせた結果、導き出されたのはその答えだった。
「……ところで、閃崎の奴の姿が見えねぇがあいつらまだ隠れてんのか?」
 閃崎 静麻(せんざき・しずま)レイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)も乱世達と同じようにラグーンの倉庫に身を潜めていたはずなのだが、乱世が潜伏を止めて出てきてからも、彼らは一向に出てくる気配がなかった。
「敵を欺くには味方から……ではないが、こちらはこちらで行動させてもらう」
 静麻は言う。
「伏兵になるのは理解しました……が、なんでまた段ボールになんですかっ!」
 二人は引き続き段ボールを被っていた。段ボールを被って港の隅っこに。
 スニーキングミッションと言えば、段ボール。段ボールと言えばスニーキングミッションというぐらい、潜入操作に欠かせないアイテム、段ボール。
 とは言え、段ボールの中に入っているだけなら、捨て猫にだって出来る。別働隊として独自に動くにせよ、敵に対抗するだけの”力”がなくては。
「イコンのサルベージか……」
 無農薬みかんと書かれた段ボールに、人差し指で空けた穴から、静麻はハードボイルドにサルベージ船を見た。

 テレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)に憑依する奈落人マーツェカ・ヴェーツ(まーつぇか・う゛ぇーつ)はラグーンにあるレストランにいた。
 身を隠すため潜伏していたレストランなので、サルベージ船に乗る前に顔を出してみたところ、予想だにしなかったものを目の当たりにしてしまった。
 そう。トランスフォームカーで颯爽と店に乗り付ける、行方不明(だった)のパートナー瀬名 千鶴(せな・ちづる)の姿を。
「あなたぁ〜アイロン掛けした仕事着、持って来たわよ〜〜」
「あ、あのぉ……」
 困惑する店主に、千鶴はまっ白なコックコートを押し付ける。
「昨晩も言いましたけど、こんなことされても困るというかですね……私とあなたはほとんど初対面みたいなものですし……」
「ひと目惚れってあるのねぇ、ウフフ。あ、今日は手料理を作りに行ってあげる。肉じゃがは好き?」
「い、家にまで押しかけてくる気!?」
「御頭領(おかしら)! 御頭領じゃねぇか! 何してんだ、こんな所で!」
 完全にどうかしちまってる彼女を前に、マーツェカは叫んだ。
「……あら? どちら様?」
 けれども、彼女は彼女のことをわからないほど記憶を失っている。
「最低限の記憶まで飛んでやがる……しかも団地妻とか通い妻の類いになっちまってるし……しゃーねぇ、こうなったら手っ取り早く最後の手段だ……名付けて”デスワード作戦”!」
 ゴクリと唾を飲んで、マーツェカは言い放つ。
「”年甲斐も無くまた男を引っ掛けてんのか。BBA無理スンナ”」
 言葉の矢が耳を貫いた瞬間、千鶴の背後に雷鳴が轟き、燃え上がる紅蓮の炎が見えた……ような気がした。
「……あらあら、マーちゃんじゃないの。今日は一段と面白い冗談に磨きが掛かっているのね。で? 誰がBBAですって?」
「……死ぬな、我」
 マーツェカの頬を冷たい汗が伝う。
「わ・か・る・わ!」
 首元に巻き付いた仕置器【闇縫糸】が、マーツェカの顔が茄子色になるまで締め上げる。
「ぎにゃーっ! 御頭領、我が悪かった……ってゆーか、これテレサの身体だから!? パートナーロストになちまう!!」