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古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』

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古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』

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 “紫電”との手合わせは、当初予定されていた場所から南西方向に移動した上空で行われる……そのはずだった。

『はぁ!? オレに生身で戦えだぁ!?』
 完全装備の『機体』で現れた“紫電”に、風森 望(かぜもり・のぞみ)ノート・シュヴェルトライテ(のーと・しゅう゛るとらいて)の希望を伝える。尤もそこには、彼女らの搭乗する『シグルドリーヴァ』では機動力の点で差がありすぎ、実力以前の話になってしまうため、こちらの土俵に相手を引きずり出さなければ勝負にならない……という思惑があった。
「全力で来いとおっしゃったのはそちら。なら、勝負の方法をこちらで決めても問題はありませんよね?
 ……まぁ、人型デバイスでは勝算が低い、と言う事でしたら、下がりますが」
『オマエ、挑発のつもりか?』
「挑発? 何のことでしょう? 私達はただ、あなたに伝えるべき事を伝えるために必要な事をしているだけです。
 これからお相手するノートお嬢様は馬鹿で脳筋で猪突猛進で馬鹿で仕方がありませんが、諦めない馬鹿の目標を定めた時の突進力は馬鹿には出来ませんよ」
「望! あなた4回もわたくしの事を『バカ』と言いましたわね!?」
 背後からノートの抗議する声が飛んでくるが、望は無視して“紫電”の反応を待つ。ちなみに最後の馬鹿は『馬鹿には出来ない』なので馬鹿にはカウントしないでいいだろう。それ以外の馬鹿は馬鹿である……さて、一体何回『馬鹿』と言っただろう。
『…………ちょっと待ってろ』
 人型の『機体』からそんな声が聞こえ、『機体』が膝をつく形でしゃがみ込み、全身から光が消える。
 『機体』の背後から現れた人型の“紫電”は、フードを被ったどこかチャラい印象を与える青年だった。
「……確かに、オレはオマエらをぶっ潰すためにこんな場を用意した訳じゃねぇ。いいぜ、オマエの提案に乗ってやる。
 ちなみに、オレの武器はコイツだ」
 言って、“紫電”が手に二丁の拳銃を握る。人型の『機体』の戦い方と同じであった。
「おや、銃使いに対してお嬢様は剣使い……まあ、お嬢様ならその辺、馬鹿力でどうにかするでしょう」
「キー!! さっきからバカバカバカバカと!!
 この怒り、全部あなたにぶつけさせてもらいますわ!」
 激昂したノートが二振りの剣を抜いて、そして“紫電”と対峙する――。

 デュプリケーターの出現に備え、『シグルドリーヴァ』に搭乗した望が見守る中、ノートは“紫電”の浴びせるエネルギー弾をかわし、避け切れない分は両方の剣で弾く。エネルギー弾に負けないパワーであればいいため怪力である必要はないものの、いかんせん“紫電”の射撃が的確なため、ノートは行動の制約を強いられる。
「いい加減な格好してる割に、戦いは丁寧ですのね!」
 叫んだノートの足元を穿つように、エネルギー弾が地面を擦って消える。一発の威力こそ低い――もちろん当たれば相応に痛いだろう――ものの、対応の難しい箇所を集中的に狙うスタイルは、ノートにとって難敵と言えた。なまじ体力がある分抵抗出来ているように見えるが、実際は“紫電”が一方的である。
「オマエも龍族のヤツらみてぇにしぶてぇな!」
『お嬢様はそれだけが取り柄ですので』
「通信でまでツッコまなくていいですわよ! このスットコドッコイ!」
 わざわざ補足を入れてくる望に叫んで、このままでは完全に封じられてしまうと踏んだノートが、一度限りの賭けに出る。
「相手の前へ、正々堂々勝負してこそ勝利を得る!
 ラド! ウル! ティール! 『ルーン』よ、我に力を!」

 三種の護符を発動させたノートが、“紫電”の懐へ一直線に飛び込む。その速度はこれまでの数倍速く、応戦する“紫電”のエネルギー弾が直撃しても怯まない。
「譲れぬモノがあるのはこちらも一緒! 力を見せろと仰るのならばとくと御覧あれ!」
 ノートの手にした一刀が振り抜かれ、“紫電”は両手の銃による防御を余儀なくされる。そこで当然懐がガラ空きになるので、そこを狙ってノートは二刀目を浴びせようとするのだが。
「オマエの狙いはお見通しなンだよっ!」
 懐の高さで振られる剣の、腹を踏み台にして飛び上がった“紫電”が空中で回転しながら、エネルギー弾の乱射をノートに浴びせる。
「きゃあああぁぁぁ!!」
 技の途中で受けた攻撃を、ノートはろくに防御も出来ずにもろに喰らって吹き飛び、手を離れた剣が地面を転がって止まる。
「……ふぅ。ケレヌスほどじゃねぇが、なかなか緊張させてもらったぜ」
 一息ついて、相手への賞賛を口にする“紫電”。
「ふふ、これでも『剣の戦乙女』ですもの」
 態度だけは優雅な振る舞いを見せるノートだが、外見は受けた傷やら埃やらでボロボロであり、もはや意地で立っているのみであった。
「あの女の言う通り、確かにオマエはバカだな。でもオレはそういうバカ、嫌いじゃないぜ」
「あ、あなたまでわたくしのことをバカとおっしゃいますの!?
 バカと呼ぶのも大概になさい――」
 そこまで言った所で、ノートがぐらり、とよろめきそのまま倒れ伏す。どうやらここが限界であるようだった。


『お次は……って、オマエも生身なのかよ。オレはまた降りなきゃなんねぇのか?』
 ノートを退けた“紫電”が、次に現れた相田 なぶら(あいだ・なぶら)を見下ろして嘆くように呟く。彼もノート同様剣士スタイルで手合わせに挑む予定になっていた。
「いや、そのままでいいよ。素の状態? での手合わせは考えてなかったし」
 しかしノートと違っていたのは、彼は“紫電”の『機体』搭乗時での戦闘を検討していた点にある(尤も、望とノートの申し出が特殊であったとも言えるが)。決して無謀な挑戦ではなく、それなりの対策も持っての手合わせである。
『そうは言うけどよぉ、どう戦ったもんかな……。
 ぶっちゃけオレがマジで戦ったら、オマエを消し飛ばしちまうぞ?』
 “紫電”の言葉に、なぶらは実の所彼は結構、契約者に好意を持っているんじゃないだろうかという憶測を抱く。なら何故彼は手合わせなどという場を用意したのかという疑問に対する答えは、多分踏ん切りのようなものを付けたかったんじゃないかなという憶測でまとめる。
「俺は簡単にミンチになるつもりはないけどね。
 じゃあ……考えていたのと違うけど、こうしよう。俺がキミを本気にさせる、キミは俺を本気になる前に倒す。
 折角の機会だ、俺はキミの戦いぶりを知れるなら知っておきたい。だから本気を出させるように、全力で当たらせてもらう」
『……ヘッ、面白れぇ。そういうのは嫌いじゃねぇ。
 いいぜ、それならそれで決まりだ。オレにオマエの全力を見せてみろ』
 『機体』を人型に変形させた“紫電”が、二丁の銃装備でなぶらに立ちはだかる。なぶらは三対の羽を展開させて機動力を確保、向けられるビームの筋をかわしながら、剣から繰り出す衝撃波で牽制し、隙が出来た所へ斬り込む作戦を取る。

「オラーなぶらー! とっとといてこましたれー!
 避けてばっかで勝てへんぞー! もっと攻めぇや!」
 なぶらと“紫電”の戦いぶりを、ブリジット・クレイン(ぶりじっと・くれいん)がジュース片手に観戦する。今の所は両者とも決定的な一撃を与えられていなかった。人型でも十分速い“紫電”はなぶらの攻撃を尽く回避するし、なぶらもその小ささと機動力を生かして回避するしで、見ている方とすれば何かの曲芸を見ている気分になっていた。
「ったく、踏み込みが足りんなぁ。
 余計な事ごちゃごちゃ考えてからに、そんなんだからいっつも出遅れるんやないか」
 ブリジットにしてみれば、ちまちま避け続けているくらいなら覚悟を決めて突っ込んで一撃浴びせるか返り討ちにされるかどっちかにせい、という気分であった(別になぶらがやられてもいい、と思っているわけではないが)。
「……それにしても、はぁ。紫電もごっつい綺麗な機体やなぁ。後で乗せてもらえへんかなー」
 赤色の『機体』、“紫電”をブリジットがうっとりした目で見る。本人の性格はともかく、機械の『美』を嗜む者であれば“紫電”のフォルムは惹きつけるに足る魅力を備えていた。
(ブリジットもムチャクチャ言うなぁ。……まあ確かに、避けてばかりじゃ勝てないんだけど。
 ちょっと、誘ってみようか。人型なら自由に飛ぶことは出来ないはずだし……)
 なぶらが背中の羽を広げ、高度を上げる。ビームの射程からも逃れ、“紫電”を空中へ誘うつもりであった。
『ちっ、そうくるか。そうなりゃ本気でやり合うしかねぇなぁ!』
 どこか喜ぶように、“紫電”は飛び上がり戦闘機へ変形して後を追う。両者の速度差は歴然であり、瞬く間に“紫電”はなぶらのバックに付く。
(チャンスは一瞬、これを逃せば機会はない!)
 覚悟を決め、なぶらが背中の羽を全て弾けさせると、それらをいわばチャフ代わりに“紫電”へぶつけんとする。
『小細工を!』
 “紫電”がビームで羽を撃ち落とすと、羽は消える前に光を放つ。その光に紛れるようになぶらは“紫電”の懐へ飛び込み、必殺の一撃を放つ――。
『チッ!』
 悔しがるような舌打ちが聞こえ、“紫電”はなぶらの斬撃を変形してかわすと、背後から抜いた銃でなぶらの手にした剣を弾き飛ばす。
「う、うわあっ」
 後方から突き飛ばされるような衝撃をもらって、なぶらは体勢を崩したまま地面へ落ちていく。いかな契約者でも、この高さから落ちればただでは済まない。
『ねーちゃん、ソイツを拾ってやれ!』
 その時“紫電”の声と同時に、なぶらの身体が何かに吊られるようにして、それ以上の落下が止まる。
『もー、しーくん、私が間に合わなかったらどうするつもりだったの?』
『間に合ったんだからいぃじゃねぇか。
 ……オレに変形回避をさせるたぁ、ちっとはやるじゃねぇか。楽しませてもらったぜ』
 “紫電”のおそらくそれは賛辞であろう言葉を耳にしながら、なぶらはとりあえず生きてることにホッとするのであった。