天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』

リアクション公開中!

古の白龍と鉄の黒龍 第3話『信じたい思いがあるから、今は』

リアクション

 
(『伊勢』が敵の一部を引き付けながら奮闘しているな……おかげでこちらの行動に余裕が生まれた。
 イコン部隊の補給・修理は『ウィスタリア』がいる限り問題ない。全体指揮は『Arcem』がこなしている)
 装着した電子ゴーグルがもたらす情報を流し読みし、現状を把握した和輝の下に、パイモンが戻ってくる。ロノウェは別の契約者と行動を共にしていると報告し、和輝の言葉を待つ。
「……現在、契約者は巨大生物の軍勢を押し留め、戦線を少しずつ上げている。このまま拠点内部に契約者を送り込み、事態が変化するまで戦闘を継続する」
「分かった。お前の援護、頼りにしている」
「……期待には応えよう。だがあんな変態機動では、誤って撃ち抜いてしまうかもしれないぞ?」
 和輝が少しの冗談を込めた発言をする。パイモン自身は飛行能力を持っていないものの、跳躍して上空を飛ぶ龍やイコンを足場にして軌道を変えながら戦う様は、さながらかつて舟を飛び渡りながら戦った武者を彷彿とさせる。
「お前も似たような事をしているだろう」
「俺にあんな真似は出来ん」
 和輝も重力操作と瞬間移動で、飛行ではなく跳躍移動をしている点はパイモンと似ているが、高速で飛んでいる物体を足場にする(かつ、飛んでいるものに影響を与えない)芸当は出来ない。パイモンだけかと思いきやロノウェも出来ているので、どうやら魔神の技能のようだ。
「まあまあ、ケンカはやめよーよ。
『そうよ、仲良くやりなさい』
 アニスと、和輝に纏われるスノーが二人をなだめる。パイモンが先行して巨大生物へ向かった後で、スノーが和輝に声を飛ばす。
『護衛が必要ない感じで、気に障った?』
「……そうではない。ただ何となく、パイモンが優し過ぎるような気がするのが気に入らないだけだ」
 和輝の言葉を待ったり、わざわざ「頼りにしている」などと言葉をかける所に、和輝は何となく違和感を抱く。彼にはもう少し、『魔王』としての威厳を示してほしくもあった。
「……俺がこの格好だからだろうか」
『あら、私のせいにするつもり? そんな事言うとどっか行っちゃうんだから』
「…………それは困る」
『もう、即答してくれるくらいじゃないと。……冗談よ、嫌がっても纏ってもらうつもりだったから、離れるつもりなんてないわ♪』
 ふふ、と悪戯っぽくスノーの笑う声が聞こえる。息を吐いて、和輝もパイモンの後を追うべく前方を見据え、駆け出す。
「和輝とパイモンを援護するのが、アニスのお仕事なのだ〜♪
 魔神の力と聖霊の加護を受けたアニスの攻撃をいっぱいくらうがいいのだ〜♪」
 和輝の後方から、アニスの生み出した鋭く、速い光線が巨大生物の群れに炸裂し、強烈な光で視界を奪う。そこに速度は普通の、しかし威力を高めた魔弾が山なりの軌道で飛び、巨大生物の周囲で爆裂する。
(……お前か)
 アニスの攻撃で最も損害を受けたであろう敵をターゲットに定め、和輝は両方の手に銃を握り、跳躍と同時に発射する。弾丸は狙い違わず巨大生物の急所を撃ち抜いて、粘性の液体へと変化させる。仇討ちとばかりに反撃する他の巨大生物の攻撃を、地面を蹴って回避しつつ和輝はパイモンの動向を確認する。
「ハッ!」
 と、前方でパイモンの二刀が、巨大生物の急所に深々と突き刺さるのが見えた。最期の足掻きに見舞われた背中の羽からの射撃も、既にパイモンが飛び立った後の空間を空しく飛ぶばかりであった。

「ふむ、戦況はこちらに順調に推移しているようだな。
 ……この分だと、和輝に例のアレを伝えるのもそう遠いことではないか」
 後方で戦況を睥睨しながら、リモンが口元に妖しげな笑みを浮かべる。
「ここで契約者を“二人”とも失うのは困るしな。
 ……ふふ、和輝はどのような顔をするのであろうな」
 その時を楽しみにしつつ、リモンはもし怪我人が来た時のために待機する。


「出撃シマス。輝夜様、ネームレス様、オ気ヲツケテ」
 『アームドベース・デウスマキナ改』を装着したアーマード レッド(あーまーど・れっど)緋王 輝夜(ひおう・かぐや)ネームレス・ミスト(ねーむれす・みすと)に一言告げて、機動要塞から出撃する。
「……ターゲット確認。コレヨリ攻撃ニ移リマス」
 一瞬とも呼べる速度で巨大生物の眼前に現れると、両腕に装備した二丁のレーザーライフルを見舞う。損害を受けつつも耐えた巨大生物は反撃を行おうとするが、その時には既にレッドは巨大生物の視界から逃れ、空中で素早い切り返しを行うと再度攻撃に移る。死角からの攻撃は必中かと思われたが、事前に展開していた背中の羽の一対が接近を察知し迎撃を行った。
「回避シマス」
 しかしそれも、レッドの攻撃機会を一度奪う程度に留まる。何かで横から弾いたような軌道で羽の射撃を回避したレッドは巨大生物を通過し、再び切り返すと今度は狙い違わず巨大生物をライフルで射抜く。直撃を受けた巨大生物が粘性の液体へと変化するのを見届け、遥か遠くに見える巨大生物の集団へ照準を定めると、右肩部に据えられた荷電粒子砲を発射する。
「……敵ヘノ命中ヲ確認。引キ続キ攻撃ニ移リマス」
 効果を確認したレッドが、休み無く攻撃を継続する。エネルギーや弾薬が切れるまで、彼の行動は続けられるだろう。

「よし、レッドが巨大生物を相手してる間に、あたし達は中に入るぞ。
 ルピナスって奴が何か企んでる、そいつを阻止しねぇと面倒みたいだからな」
 レッドが地上で奮闘する間、輝夜とネームレスは露出した入口から拠点内部へと侵入する。地上に出てきた戦力が拠点に配置していた戦力の大半だったのか、拠点内部ではさしたる戦闘も起きないまま順調に進んでいく事が出来た。
「にしても、聖少女だかなんだか知らないけど、皆、ルピナスを説得だの話し合いだの言ってたなぁ。
 ま、それで分かってもらえる相手なら、まずこんなトコに放り込まれないと思うけどね。説得や話し合いをしたいなら止めないけど、たぶん相手はそんなラインはとうの昔に超えた場所に居ると思うんだけど」
 奥への道を急ぎながら、輝夜が思ったことを口にする。「話をすれば分かってくれる」という思考は、彼女にとってはお花畑思考にしか思えなかった(そんな思考を契約者の誰かがしているかどうかは別問題として)。
「数人位は、力ずくでも止める準備をしとかないと。そうじゃないと此方側の大事な人を失うコトになるじゃん?」
「そう……ですね……ですが姉君……もし戦闘になったとして……どのように彼女を止めるのです?」
 ネームレスの問いに、輝夜は足を止めず考え込む。うっかり接近し過ぎて捕まりでもしたら、そのまま『食われて』しまうだろう。だからといって消極的な行動は無視されるだけだ。
「相手が自由に行動できない程度にする、しか出来ないよな、うん。
 とりあえずは時間稼ぎだ。あたし達はそいつを頑張ろうぜ」
「ええ……時間稼ぎでしたら……もってこいです……」
 方針を定め、二人はルピナスの下へと向かう――。


『周囲の巨大生物の反応、減少。内部から新たに出現する気配もありません』
 『グラディウス』で巨大生物と対峙していた美羽の耳に、ベアトリーチェの状況報告が届く。パイモンとロノウェ、他の契約者の働きもあり、巨大生物は一体、また一体と沈黙させられ、今ではその数を大きく減らしていた。このまま状況が大きく変化することがなければ、巨大生物が契約者に制圧されるのは時間の問題であった。
「中の様子はどうなってるかな?」
『まだ主だった連絡はありませんが……どうします? 私達も行ってみますか?』
 ベアトリーチェの提案に美羽とコハクが賛同する形で、一行は『グラディウス』を降りて拠点内部の入口へと向かう。拠点内部はそれなりに入り組んでおり、イコンなどの機動兵器では満足に移動することが出来ないという情報を受け、一行は生身での行動を選択する。
「あっ、ロノウェとパイモンも居る!」
 一行が拠点内部への入口に来た所で、他の契約者と共に内部へ向かおうとするロノウェとパイモンと合流する。
「ロノウェ、ルピナスと戦う時は一緒だよ!
 ロノウェに負けないように、私もハンマーの使い方覚えたんだから!」
 美羽がロノウェに、この日のために持って来た電気を帯電するハンマーを見せて、ルピナスと戦闘になった時は一緒に戦う旨を告げる。ベアトリーチェも戦闘になった時は光魔法でサポートをする旨を伝え、ロノウェも二人に頷いて進む。
「……なんか、こんな時にこんな事を言うのも不謹慎かもしれないけれど、本当に人間と魔族が手を取り合って戦えるようになったんだなぁ、って思うよ」
 そんな美羽とロノウェのやり取りを背後で見ながら、コハクがパイモンに聞こえるように呟く。
「……ええ、私もそれは、実感しています。あなた方と共闘出来る事を、私は嬉しく思いますよ」
 コハクや、同じく付いて来てくれている契約者を一人一人視界に収めた後、パイモンは心からの同意として口にする。
 彼らとなら、どこまでだって戦える――その思いはしかし、この場では意外な形で終わりを迎える。

『!!!!!!』

 前方から大きな音と衝撃が襲い、一行は足を止めざるを得なくなる。
「美羽さん! 道が!」
 ベアトリーチェが警告を発する、進もうとしていた道が天井からバラバラと崩れ、それはこちらにも迫ってくる。
「危険ですね、ここは一旦退きましょう」
 パイモンの発言に従い、一行は来た道を戻り避難する。――そして、彼らが地上に出た時見た光景は、おそらくルピナスの拠点があったであろう部分が、地面から大きく下に陥没する形で瓦礫に埋もれてしまった景色であった。


 イコンと巨大生物の戦闘は、多数の巨大生物に対し機動要塞と精鋭のイコンが連携と後退・補給を繰り返しながら戦う構図になっていた。イコンは巨大生物を圧倒するほどではないが、既に拠点内部に契約者を送り込んでいるし、巨大生物をこの場に釘付けにしている点で十分以上の戦果を上げていた。
「アレが、パラミタの生物を模したという巨大生物か……。
 思ったより数が多い……それに、多彩な攻撃方法を有している。契約者もよく戦っているが、戦況は拮抗していると見える」
 セリス・ファーランド(せりす・ふぁーらんど)が、搭乗するイコン『女帝キシオムバーグ』から戦況を睥睨する。そろそろ俺達も出るべきなのでは、そう思った所へ機体の出撃準備をしていたマネキ・ング(まねき・んぐ)が乗り込んでくる。
『セリスよ、我がイコン『女帝キシオムバーグ』の出撃準備が完了した。
 この混沌とした戦況を決定的に塗り替え、真の支配者は座して相手を塵も残さず圧倒するということを教えてやろうではないか!』
 マネキングが意気揚々と語る、そこでセリスは『女帝キシオムバーグ』の兵装が異常な重量を計上していることに気付く。
「……マネキング……何を積んだ?」
『決まっておろう、戦況を決定的に塗り替えるのに必要な装備だ』
 さも当然と語るマネキングに、セリスは首を傾げつつもそれ以上は追求せず、マネキングのサポートに徹する。
「さあ、我にひれ伏すのだ万物共よ!」
 そして、『女帝キシオムバーグ』がその勇姿を晒す。マネキングの用意した兵装は、全方位ホーミングミサイルを10ダース、計120発一斉発射するものである。
 そのあまりの重量に『女帝キシオムバーグ』はそこから一歩も動けず、状況が状況なら即座に的になっただろうが、今は幸運にも他のイコンが巨大生物を抑えているため、『女帝キシオムバーグ』は一度限りの必殺攻撃を行うことが出来た。
「ミサイル発射!」
「……発射する」
 マネキングの指示を受け、セリスが発射トリガーを引く。『女帝キシオムバーグ』から解き放たれた120発のミサイルは一旦上空に打ち上げられ、後に巨大生物をターゲットとして飛来すると、拠点のあちこちで盛大な爆発を生じる。
「ふはははははは! 見ろ、巨大生物がゴミのように消し飛んでいくぞ!!」
 気分よくマネキングが口にした所で、前方の景色に異変が生じる。
「……!? 地面が……崩れる……!?」
 セリスがそれに気付き、驚愕の声を漏らす。何と前方の、ルピナスの拠点があるであろう区画一帯の地面が、まるで積み木がバラバラと崩れ落ちるように崩壊していったのだ。
「な、なん、だと……? さ、流石は女帝キシオムバーグの最終兵器、我が想像した以上の威力だ」
 マネキングもこの事態は想定外だったらしく、言葉の端々に「あ、ちょっとヤバイかもこれ」という雰囲気が滲んでいた。
「……ひとまず……崩落に巻き込まれた者が居ないか確認しに行くのがいいのではないか……?」
「うむ、そ、そうだな。我とて多少の慈悲はある、味方を巻き込むのをよしとは思わん」
 ミサイルを発射したことで身軽になった『女帝キシオムバーグ』を駆り、セリスとマネキングは状況の把握に努める――。