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ナラカの黒き太陽 第二回 委ねられた選択

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ナラカの黒き太陽 第二回 委ねられた選択

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「なんなのよ、見せつけられただけじゃない! ちょっと萌えたけど!! ……う〜〜もう、まだるっこしい手なんかやっぱやめるわ! こんな街、ぜぇぇんぶぶっ壊してやるんだからぁ〜〜〜〜!!!」
 ニヤンは地団駄を踏んで叫び、巨人たちを再び起動させた。今度は、珊瑚城を目指すということでもない。ただ手当たり次第に、片っ端から都を破壊しようというのだ。
「いい? 教えてあげる。あんたたちがいくら守るのなんの言ったって、どうせいつかはぜぇぇんぶ滅びちゃうのよ? そうやって、世界はいつだって滅びてきたんだからね。愛だのなんだので、ホントに世界が救えるわけがないのよッ!」
 地響きを鳴らし、砂煙をあげ、巨人は闇雲にただひたすらの破壊を繰り返す。応戦に出た悪魔たちなど目もくれず、巨大な手のひらは家屋を潰し、木々をなぎ払い、すべてを飲み込んで瓦礫と化していく。
「やっちゃえやっちゃえー!!!」
 小躍りするニヤンが、不意にその動きを止めた。
 そして、腐的な笑みを浮かべ、派手な髪のリボンを揺らして顔を上げる。
「……ようやくおでましね、ババア」
「年だけで言うならば、そなたは我より年上であろう。もっとも、我は年ふることを嘲りの対象とはせぬがな。するとすれば……経た年月に何も学んでおらぬ愚かさのみよ」
 共工は、天守閣のさらに上……上空にその姿を現していた。
 どちらも半ばテレパシーのようなもので会話しているため、そのやりとりはタングートにいる者の耳にはほとんど全てが聞こえていた。
「我の都を我が物顔で蹂躙する大罪……もはや万死をもってしても赦さぬ」
 これまでひたすら守りに徹してきた共工だったが、それをかなぐり捨て、彼女は自ら攻めることを選んだ。
「相柳。すまぬな」
「……いえ。主上のなさることに、異論などありません」
 一度は任せた勤めをとりあげることを詫びる共工に、相柳は首を横に振った。
「ごちゃごちゃわかりにくいのよ。理屈っぽい女ってサイテー」
「浅薄よりは良かろうよ」
 舌戦も平行しつつ、共工はその身を躍らせ、ニヤンと巨人に対峙した。
 タングートの大地が震え、風が逆巻き、砂嵐が天を突き上げて巻き起こる。
「目障りじゃ」
 共工の呟きとともに巨人の足下の大地が二つに裂け、その巨体を瓦礫ごと引きずりこみ、飲み込んでいった。
 同時に激しく地下水が地割れから迸り、タングートの都に長大な水柱が林立する。
「あとは、そなたか」
「自分だってけっこう都ぶっ壊してんじゃーん。……まぁ、いいわ。ババア相手ってのがつまらないけど、相手してあ・げ・る!」
 ニヤンを取り巻く闇の色が深くなる。空気が淀み、歪んでいく。
 その様を眉一つ動かさず見守り、共工は薄く笑った。

 同時に、ニヤンも、また。
 ――ニヤンの目的は、共工を引きずり出すことだったのだから。


 共工による反撃が始まってすぐのことだ。

 密かに、それとは全く別の影が、珊瑚城に向かって密かに侵入を試みていた。
 巨人たちが派手に暴れ出した裏側で、少数精鋭の幽鬼たちをひきつれた影は、静かに静かに、人気のない街路を用心深く抜けていく。
 だが、しかし。
「やはり、その手で来ましたわね!」
「その程度の浅知恵、リリお姉様の予想済みですわよ!」
 影たちの前に立ちはだかったのは、密かに珊瑚城付近に潜んでいたKSG……共工好き好きガールズの面々であった。
 ちなみに、KSGとは彼女らが勝手に名乗っているだけだが、辺境自警団としてはそれなりに名は通っている。ただし実力というよりは、容姿端麗で女子力が高くなければ入隊不可というその規律のためだが。
 そのKSGに力を貸すことにしたのが、以前タングートを訪れた際にひどく彼女らに気に入られた、リリ・スノーウォーカー(りり・すのーうぉーかー)ララ・サーズデイ(らら・さーずでい)だった。
「ここは通しませんわよ!!」
 幽鬼たちには物理攻撃はほとんど通らないとリリに教えられていたKSGは、火術によって呼び出した炎を操り、幽鬼へと対抗する。
 だが、彼らは他の幽鬼よりも強い魔力を有しており、そう簡単に払いのけることはできなかった。むしろ、襲いかかる黒い風に、体力を蝕まれていくのを防ぎようがない。
 すると、KSGへ攻撃を集中させている幽鬼たちへと、さらに背後から別に伏せていたララが一息に加速して突撃すると、『ライトブリンガー』の光で幽鬼たちを蹴散らした。その勢いのまま、傷ついたKSGの前に立ちはだかってみせる。
「気をしっかり持て! 君達がその名を冠した、愛する者の眼前で敵に膝を屈する気かッ!」
「……ララお姉様!!」
「素敵ですー!」
 颯爽と現れたララの姿に、少女たちは拍手喝采である。
 そして、別方向でやはり姿を潜めていたリリも合流し、すかさず『清浄化』で彼女らを癒やした。
「ありがとうございます、リリお姉様」
 ここぞとばかりに抱きついてこようとする少女を、「礼は後なのだ」とリリはさりげなく拒否する。
「油断するな。まだ敵はいる!」
 ララは再び聖騎士槍グランツを構えなおす。幽鬼は未だ、ゆらゆらと陽炎のように揺れながら、反撃の機会をうかがっているようだ。
「さすがララお姉様、死の穢れにもその強さは揺らぎませんのね……」
「でも、何故ですの??」
 不思議がるKSGに、ララはややおいて、断言した。
「私は……。そう、私がルドルフ親衛隊だからだ!」
 さすがに、「好き好きガールズ」の名前を使うのは躊躇われたらしい。
「……半分はデスプルーフリングの力なのだよ」
 リリがぼそりとそう付け加えていたが。
「私はその名のために屈することを己に許さない。故に君たちも、共工のためにそうできるはずだ!」
 若干頬を染めつつも、ララはそうKSGの面々を鼓舞する。
「……そうですわね!」
「わかりましたわ!」
 彼女らも武器を手に、立ち上がった時だった。
「お可愛らしいことね。私、感動してしまいますわ」
 幽鬼たちに混じり、最も濃い影が姿を現す。
 ショートカットに整えられた髪と、大胆に背中の開いた細身のドレスを纏った、やや肌の浅黒い……男であり女。ソウルアベレイターの、ナダがそこにいた。
「…………」
 ララの眼光が鋭くなる。今すぐにでも戦おうとするララを、リリが片手で押しとどめた。
「会えるとは思わなかったのだよ。レモに用事か?」
「まぁ、正直、そういうことですわ。あら、貴方、地球人でいらっしゃるのね。……どう? 私たちと、ご協力しませんこと? ……その、ルドルフとやらの心でも、さしあげてよ?」
「リリはもらっても困るのだよ。……しかし……」
「……そのような……そのような取引に、ルドルフの名前を使うだと……」
 ナダのセリフは、むしろララの逆鱗に触れたようだ。
 当然だろう。ララにとって、一番の誇りを傷つけられたようなものだ。
「落ち着くのだよ、ララ」
「しかし……」
「お引き取り願うのだ。どんな条件にせよ、リリはここを通すつもりはないのだよ」
 リリがそう告げるなり、炎に包まれた鳥がまばゆい光とともに現れ、ナダにむかって飛びかかっていく。
 幽鬼たちがそれに対抗し、光と闇が混じり合い、激しく音をたてて弾けとんだ。
「ではまた、ごきげんよう」
「……っ!!」
 引き連れていた幽鬼をほぼ殲滅することには成功したが、肝心のナダは、その爆発に紛れて姿を消してしまっていた。
「取り逃がしたな……」
 悔しさを滲ませるララに、リリは冷静に「リリたちだけでは、どちらにせよ相手にはできぬよ。急ぎ、城内に伝えるのだ」と促した。