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リアクション
インテグラル・ルーク1
キロスは鬼神さながら次々飛んでくる魚雷を切り捨てながら同じくルークを目指す契約者たちとルークめがけて距離をつめていた。ヘクトルはそんなキロスを半ば諦観をこめて見つめていた。リネン・エルフト(りねん・えるふと)のエーデルリッターから通信が入る。アックスの代わりにアダマントの大弓を装備しているのが、古式ゆかしいケンタウロスを思わせる。
「大丈夫よ、彼は。貴方に負けてるところ多いれど、勝るところも多いって私は思いますから。
足りないところは…私たちもついてますし……身内だからこそ評価が厳しくなってるのかもだけど少しは信頼してあげて」
ヘクトルはため息に似た声音をもらしただけだった。リネンのパートナー、ヘリワード・ザ・ウェイク(へりわーど・ざうぇいく)はインテグラルナイトの母艦役としてキロスらの上空で待機している。今回配下の空賊団員にはルークの方へ先行してもらい、イレイザー魚雷を索敵する任に当たってもらっていた。魚雷の発射時の様子を母艦を通じ即ルーク攻撃部隊に連絡し、効率的に迎撃と接近ができるようにという計らいだ。
「インテグラルナイト各機に通達。今回は索敵があるから、お守りはできないわよ。絶対に無茶しないこと!」
ナイトに機乗する面々にヘリワードから通信が入る。
「ヘイリー、バックアップをお願いね。私はキロスと同行する」
「ああ、任せといて」
リネンはヘリワードに応えたあと、眉間にしわを寄せた。
「搭乗者の報酬系における神経伝達物質を介した神経細胞間の活動を活発にって……なんか余計わかりづらいわね」
エーデルリッターの右翼に展開していた清泉 北都(いずみ・ほくと)のファーリス、ルドュテが一気に前に飛び出し、飛来する魚雷をナパームランチャーで一気に破壊した。
「ルークを倒さない限り、魚雷はいくらでもわいてくる。魚雷を防いでいるだけではジリ貧になるのは目に見えてる。
キロスさんがルークに挑むようだし、僕達は魚雷を出来るだけ破壊しつつ、ルークへの道を切り開く!」
クナイ・アヤシ(くない・あやし)が各種センサーに忙しく目を走らせながら同意する。
「魚雷のこの数の多さが厄介ですね。 確かにこのままでは防ぎ切れなくなるのも時間の問題でしょう。
本体のルークを早く叩く必要がありますね。
魚雷はこちらで落とせるだけは落とし、味方機に任せられる分はお願い致しましょう」
ドクター・ハデス(どくたー・はです)はオリュンポス・ナイトに同化したアルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)に向かっていつものセリフを口にする。
「フハハハ!我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクターハデス!
ククク、アルテミスよ!
お前は今回もオリュンポス・ナイトで出撃し、インテグラル・ナイトに搭乗しているキロスの援護をおこなうのだ!」
「了解しました、ハデス様! 騎士アルテミス、オリュンポス・ナイトで出撃します!
キロスさんの援護をおこないますっ!キロスさんは私が守ります! キロスさん!
今回も援護は任せてくださいっ!
あえっと……こ、これは、騎士として当然の行為なだけですからね!別に深い意味はありませんっ!」
キロスからは短くああ、頼んだ、という返答が返っただけだが、アルテミスは真っ赤になった。ハデスはアルテミスにさらに呼びかける。
「ククク、さらに今回はリミッター解除の許可が出ているからな。
まず荷電粒子砲を遠距離から撃ち込み、キロスと共に敵陣に突撃だ! 星滅のカルタリの二刀流で敵を滅せよ!
チャンスとなったら、リミッターを解除したデュランダルで敵を一網打尽にするのだ!」
「わかりましたッ!!」
すでにアルテミスのテンションは通常状態にない。飛来する魚雷群が雨霰とキロス機――と無論僚機にも――降りかかってくる。それはキロスのピンチと、アルテミスの目には映った。
「キ、キロスさんが危ないっ! いきます! リミッター解除の聖剣デュランダル!」
アルテミスはリミッターを解除し、魚雷に突っ込んだ。縦横無尽に剣を振り回し、単機で飛来する魚雷群を切り捨ててゆく。だが……。
「きゃ、きゃああっ、機体の制御がききませんっ!」
アルレミスの悲鳴が通信機から飛び出してくる。
「くっ、やはり俺が調整したオリュンポス・ナイトでも暴走を抑えることはできないかっ!」
(無論、調整細胞を投与したのはアクリトであり、ハデスが行ったわけではない)
アルテミスのナイトは、今はまだ魚雷群を相手に暴れ狂っているだけだが、魚雷がひと段落すればすぐにでも味方機に刃を向けるのは間違いない。
「近くにいるイコンはキロスが乗るインテグラルナイトだけか……!
キロスよ! すまないが、暴走しているオリュンポス・ナイトを止めてくれないか!
アクリトの話では、アルテミスを気持ちよくさせれば、オリュンポス・ナイトは止まるはずだ!
気持よくさせる方法は、お前に任せる!
どさくさに紛れて、アルテミスに何をしても許すので、とにかく暴走を止めてやってくれ!」
「な、何ッ!」
いきなりネタ(?)を振られてあせるキロス。北都がクールにキロスに言う。
「最悪の場合、四肢を狙い撃つか、腹をぶち抜けば止まる」
「回収はこちらが行うから安心して」
ヘリワードもバックアップのためオリュンポス・ナイト上空で待機態勢に入った。
「いやあれはショックがでかいし……機乗者は女の子だろ? ……参ったな」
キロスはぼやくが、放ってもおけない。即座にオリュンポス・ナイトに向かって自機を移動させる。ハデスとキロスの会話を聞き、キロス機が近づくのを見てアルテミスは完全にパニックに陥った。
「ハ、ハデス様っ、何を言ってるんですかっ?! キロスさんが私を気持ちよくさせる……?
方法は問わない? 何をしても許すって……? いやああ! そ、そんなっ、私、まだ心の準備がっ!」
機体のコントロールを完全に失い、縦横無尽に暴れるアルテミス機はスキだらけである。キロスはなんなく背後から接近し、上半身の二本腕でがっしりとアルテミスのナイトを羽交い絞めにした。
「キ、キロスさんが後ろから私を抱きしめているッ! は……はうううぅぅぅ……」
都合よく事態を脳内変換したアルテミス。好きな人に抱きしめられる。これはもう誤解であろうがなんであろうが、本人にとっては報酬刺激に間違いない。見事オリュンポスナイトの暴走は止まり、操縦者のアルテミスが半失神状態に陥ったためそのまま動かなくなった。ヘイリーがアルテミスを保護するべく、即座に動いた。
「ハハハハハ。さすがキロス、見事なものだ」
「……とりあえず動きを止めようとしただけなんだが……何がおきたんだ一体??」
相変わらず鈍いキロスである。
そうこうしている間にも、魚雷の第二波が飛来し始めている。キロスも無論すぐに反応したが、それより早くルドュテがフォローに入った。キロスをメインとする対ルーク部隊の露払いだ。心眼で誘爆率を上げ、ウィッチクラフトピストルで次々と撃ち落としながら前進する。撃ちもらしたものはソウルブレードで串刺しにして振り払う。力をこめて突かずとも相手の加速度がそのまま攻撃力となる。機体への衝撃もは急所狙いで核のみを貫く事で衝撃を減らす対策も忘れない。クナイは魚雷に紛れて別の攻撃手段が来る可能性を考え、禁猟区で警戒しながらさらに前進する。その上部に一体化した光の老人を視認できるまでの距離に、彼らは迫っていた。北都がキロスに声をかける。
「見せてよ、三度目の正直を。万が一暴走するような事があれば、僕達がまた止めてあげるから。
だから全力で戦って!」
クナイがルドュテの機動性を活かして飛び回り、時折ブレードで間接部分を狙って攻撃し、敵の目を惹きつける。リネン
も同様に陽動行動にでながらキロスに注意を呼びかける。
「今回はキッチリ話を聞いてもらうわよ、キロス!
私見だけど、暴走の理由がわかった気がするわ……あなた、ナイトに無茶させすぎなのよ!
貴方ならわかるはずよ!飛竜を思い出して! 鞭を入れたら、休ませないといけない!
奮起させたら宥めないといけない。『気持ちよくさせる』ってそういうことよ!!」
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