天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』

リアクション公開中!

古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』

リアクション

 
 『天秤宮』の攻勢は主に『天秤世界』の西側が舞台となっていた。そちらには龍族と鉄族の長が居たし、『ポッシヴィ』と『うさみん星』もあったからである。
 しかし、世界の東側にも鉄族の拠点などがあり、そちらにも数は少ないものの『天秤宮』の軍勢が出向いていた。まさに彼らは自分達以外の全てを敵とみなしているようであった。

 そして舞台は、鉄族の戦士“回流”が守ってきた植林地へと向けられる。
 それは、天秤世界の中ではほんの小さな戦い。けれど当人にとっては全てとも言える戦い――。

 “回流”の機首から放たれたレーザー弾は、羽を持った機体の脚部を貫いて破損させる。僚機が反撃にと撃ったビームは、左右に二度旋回することで回避する。
「……来たわ、これね。……これでいいのかしら?」
『ええ、それでいいです。……なるほど、彼らはかつてこの世界で僕たちと同じように戦った『マガメ族』のコピーみたいです』
 “回流”に搭乗する多比良 幽那(たひら・ゆうな)の操作により、今現在交戦している者たちのデータを取得した“回流”が幽那に説明する。龍族と鉄族が最終決戦を行っている最中、森を守るために出撃した彼らであったが、交戦する前に両者が停戦に至った事を知る。ならばと森に帰還しようとした時『天秤宮』が現れ、そこから見たこともない者たちが次々と出現、一部が森へ向かっていると気付いた二人は森を守るため急ぎ帰還し、問答無用で襲いかかってきた敵と交戦に至っていた。
「彼らの素性はどうでもいいわ。彼らは私達の森を破壊しようとしているのよね? だったら叩き潰すまでよ、“回流”!」
『はい、幽那さん!』
 幽那の宣言に“回流”が応え、二人は次なる目標を定める。“回流”は単独で飛行・攻撃を行える――先程のような場合は幽那のサポートを必要とすることもある――ため、幽那は基本的には何もせずともよい。だが幽那がただ黙って座ったままで居るはずもなく、この状況でどのように戦えるかを模索する。
(森へは空から『フライヤー』と『ボムキャリアー』が迫っている。フライヤーは“回流”に任せるとして、ボムキャリアーは近付かせたくないわね。まずはそれを狙いましょう。
 ……移動する目標を、地上から迎撃するのは難しいわね。……いけるかしら)
 方針を決め、幽那は“回流”に翼を借りるわ、と言い、翼に繋がっている部分に手を当てると、魔力を込める。すると翼を伝い蔦が伸び、宙に放たれた蔦はフライヤーの包囲網を抜け、爆弾を満載したボムキャリアーに絡み付いた。絡み付いた蔦がボムキャリアーから飛行の力を奪い、高度を落としたボムキャリアーは森のすぐ近くに落下、大きな爆発を引き起こす。
(いけない!)
 それを見た幽那の顔に、しまった、という表情が浮かぶ。下では幽那のパートナー、アッシュ・フラクシナス(あっしゅ・ふらくしなす)キャロル著 不思議の国のアリス(きゃろるちょ・ふしぎのくにのありす)ハンナ・ウルリーケ・ルーデル(はんなうるりーけ・るーでる)が戦っていたのだ。

「ぐっ……皆、無事か!?」
 焼け焦げた臭いの中、一番先に立ち上がったアッシュがアリスとハンナに呼びかける。
『フィールドがなければ即死だった』
「爆撃するのもされるのも慣れてるネ」
 反応が返り、目立った怪我の無いことにとりあえず安堵の空気が流れる。さらに幸いなのは、今の爆撃でちょうど交戦していたトコトコの一体が巻き込まれ、戦闘不能になっていた。彼女たちではせいぜい足止め程度にしか出来ないため、これで負担が一つ減ったことになる。
「残る敵は2体……奴らをまとめて爆撃に巻き込めれば、森を守り切れる」
『やっちゃう? やっちゃう?』
「やるしかないわネ。お祖母ちゃんにはワタシが伝えるカラ、頑張ってチョウダイ」
 ハンナが決めた方針を幽那に伝えるため一旦戦場を離脱し、その間の戦闘はアッシュとアリスが請け負う。
「母の足を引っ張るのだけは、ごめんだー!」
 真っ直ぐに向かってくるトコトコへ、アッシュの覚悟を込めた咆哮が襲う。直接ダメージを与えるものではないが、それまで等間隔で進んでいたトコトコの足がこの時だけは止まった。
『切り札が何枚あってもいい、そうじゃないかな?』
 アリスがまず『切り札』の一枚を取り出せば、それは銃に変化する。次いで取り出した4枚の『切り札』を直線状に展開、先に見える2体のトコトコを最終的な標的に定める。
『ロイヤルストレートフラッシュ』
「カードの種類が違うだろ!」
 アッシュのツッコミを背後に受けつつ、アリスの放った弾は4枚のカードを貫く間に力を持ち、2体のトコトコを氷漬けにしてしまう。
「お祖母ちゃん、今ヨ! さっきみたいに落っことしちゃって!」
『でもそれだと、あなたたちが――』
 通信の向こうで、幽那の心配そうな声が聞こえてくる。さっきはたまたま結果オーライだったものの、今度も上手く行くとは限らず、運悪く彼女たちを爆撃に巻き込む可能性があった。
「ワタシはお祖母ちゃんを信じてるワ。大丈夫、二度の爆撃でやられるようなタマしてないワ」
『ボクは死にましぇーーん!!』
「我は母の役に立てるのなら、この身、犠牲となっても構わぬ! ……痛いのは嫌だけど」
『本音漏れてるよ』
「うるさいそこだけ冷静にツッコむな! いいからやるのだ、母よ!」
『……分かったわ』
 通信が切れ、そして“回流”の翼から蔦が伸び、それは見事ボムキャリアーを捉える。今度は“回流”と蔦とが離れず、“回流”は爆弾をぶら下げた状態で目標とするトコトコへ急降下、ギリギリの所まで接近した後蔦を離し、ボムキャリアーをトコトコにぶつける。
「皆、爆風に備えろ!」
 アッシュの声が、爆風にかき消えた――。

 生じた爆発が晴れるのを、幽那は焦る気持ちを抑えつけて見守る。やがて煙が晴れ、跡形もなく粉砕された様子のトコトコ、そして付近で無事を知らせるように手を振る三人の姿が確認出来た。
『皆、無事です。地上の脅威は退けられました』
「……ふぅ、心配させてくれるわね、まったく」
 安堵の息を吐いて、幽那は戦いが終わったらぜひ彼女たちを労ってあげようと誓う。
「さあ、今度はこっちね。“回流”、私達の森を私達で守るわよ!」
 幽那の言葉に、“回流”は目の前のフライヤーに直撃弾を浴びせて撃墜することで応えた――。