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古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』

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古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』

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 必中を期した『フライヤー』のビームは、確かに目標に命中した気がした。……しかし実際は目の前に突如現れた赤色のカラーリングが特徴的の機体に武器を弾かれ、攻撃手段を失う。幸いなのはその損失を嘆く間もなく、やはり突如として現れた赤色のカラーリングが特徴的の機体に腹部を撃ち抜かれ、活動を停止させられたことだろう。

『うっひょお! やべぇわこれ、人の姿のまま戦うってこんなに楽しいのかよぉ!!』
 声色から明らかにテンションマックス! といった様子の“紫電”の無線が入る。
 グラルダ・アマティー(ぐらるだ・あまてぃー)が最初に組み上げ、“大河”が手を加えた事で完成した『SyDEN』は、『グラルダと“紫電”が同じ対象をロックオンしている時に、それぞれの機体の性能が向上する』ものに進化した。その効果により、人型では満足に空中戦を行えなかった“紫電”は『SyDEN』発動中はグラルダの愛機『アカシャ・アカシュ』と同じ――つまり、人型でもイコンのように振る舞える――挙動が出来るようになっていた。
「……随分と楽しそうね」
『当たり前だろぉ!? こんなに楽しいことはねぇよ。あー、ずっとこうして飛んでたいわ』
「……ッ。ほら、楽しむのはいいけど、周りは敵だらけなんだから。切るわよ」
 『ずっと飛んでいたい』という“紫電”の言葉を聞いたグラルダの表情に、苦いものが浮かぶ。グラルダは早々に通信を切って、はぁ、と重いため息を吐いた。

『……お? おいグラルダ、勝手に切んなって……あー、なんだよあいつ』
 “紫電”の不満そうな声を聞いて、“大河”はピコーン、と思い当たった。それはきっと、女のカン、というやつ。
「ねぇしーくん、そろそろ補給に戻らない?」
『ん? あぁ、そういやそーだな。なんかいつもより腹減ったしな。
 うし、帰還するか』
 “紫電”に補給に戻るように促して、“大河”はグラルダにも母艦に戻るように告げた――。

「……はぁ」
 母艦に戻り、機体から降りて歩くグラルダの足取りは、重い。正直機体から出たくなかったが、帰還するや“大河”が「わたしといいことしましょー」なんて謎なことを言い出し、結局連れて来られる形になったのだった。
「……で、“大河”。何するつもりなのさ」
「んー、特に考えてなかったー。ごめんね〜、グラルダちゃんを連れ出す口実は、なんでもよかったの」
「……はぁ。どうせそんなことだと思ったわ」
 ため息を吐いたグラルダは、きっと“大河”のこと、自分の様子にある程度気付いているのだろうと推測する。
「体調が悪いわけじゃないから、気にしないで」
「んー、身体の不調じゃないと思うのよね〜。……いい、グラルダちゃん。わたし、真っ直ぐに言っちゃうからね?」
 何か身構えるような仕草の後、“大河”がビシッ、と指をグラルダへ差して言う――。

「ずばり! グラルダちゃんはしーくんに恋をしています!」
「…………………………は?」

 呆然とするグラルダを見て、自信たっぷりだった様子の“大河”があたふたと慌てる。
「あ、あれれ? もしかしてわたし、間違えちゃった?
 おかしいなぁ、絶対そうだって思ったのに〜」
「……………………」
「? グラルダちゃん?」
「………………違う」
 グラルダの口から溢れる、否定の言葉。それは自分の心に生まれた、生まれてしまった感情を否定するための言葉。
「違う! 違う違う! アタシは認めない! 認めちゃいけないんだ!」
「グラルダちゃん、落ち着いてっ」
 “大河”が止めようとするが、グラルダは身体を捩って逃れようとする。
「も〜、暴れちゃういけない子は、こうだぞっ♪」
 ならば実力行使とばかりに、“大河”がその豊満な胸にグラルダの顔を埋める。
「どう、落ち着いた?」
「……………………離しなさいよ」
 言う通りに“大河”が離してやると、顔を少し赤くしたグラルダが“大河”を忌々しげに睨みつける。
「で、どうなのどうなの?」
「…………分かんないわよ」
 それは照れ隠しでもなんでもなく、本音だった。グラルダは自分の中に生まれた感情を、分からずにいた。
「きっと、この戦いが終わったらアンタたちとは、別れなくちゃいけない。だってアタシとアンタたちは、本来は別の世界に生きてるんだから。
 ……そう思ったら、なんか、凄く悲しくなった。苦しかった。でもどうして悲しいのか、苦しいのか、分からなかった」
 グラルダの言葉を聞いて、“大河”は二度目のピコーンを発動させる。思いついたそれを、どうやったらグラルダに分かってもらえるか考えて、“大河”は口を開く。
「グラルダちゃん、お願い。わたしのこと、おねえちゃん、って呼んで」
「……………………嫌だ。絶対に嫌」
「え〜、どうして〜?」
「なんか分からないけど、嫌。絶対呼ばない」
「絶対に?」
「絶対よ。どうしてこんな事しなくちゃいけないのよ」
「うーん。グラルダちゃんのため、かな〜?」
 含み笑いを浮かべる“大河”へ、グラルダが何かを言い返そうとして、艦内に緊急放送が流れ込んでくる。
『敵の大型兵器、出現! 出撃可能な機体はただちに出撃、これを迎撃せよ!』
「あらら、ボスさんが来ちゃったのね。
 残念、グラルダちゃんにおねえちゃん、って言ってもらえなかった」
 本当に残念そうな素振りを見せて、“大河”がくるり、と背を向け立ち去ろうとする。
「……待ちなさいよ」
 グラルダの声に、ぴた、と“大河”が足を止め振り返る。
「……お……お……あ〜、やっぱやめやめ! 下らないわこんなの」
 身体をぶんぶん、と振って悶えるグラルダを見て、“大河”はふふふ、とおかしそうに笑う。
「元気出た?」
「ええ、おかげさまで。覚えてなさいよ」
 ふん、と言い捨て、グラルダが機体へと駆け足で戻っていく。
「……ちょっとは、気付いたかな?
 わたしも、そしてしーくんもきっと、大丈夫。グラルダちゃんのことがちゃんと、好きだから。
 だから……ね♪」

「……出撃、ですか」
 放送を耳にし、シィシャ・グリムへイル(しぃしゃ・ぐりむへいる)は閉じていた目を開ける。機体に待機していた彼女はグラルダが戻ってくる前に出撃の準備を済ませ、そして彼女の帰りを待つ。
(先程の戦闘中、グラルダの心には大きな揺らぎがありました。それは機体の性能に直結するほどのもの)
 戦闘データに目を通し、シィシャはグラルダの精神が不安定になっている事を理解する。けれどそこまでで、どうしてそうなったのかについては分からなかった。……いや、触れようともしなかった。
 だからといってシィシャが冷たいかと尋ねられれば、答えは辛うじてノーである。シィシャはあえてそのように接することで、今のグラルダを守ってきたのだから。
 シィシャはそれを『罪』と呼ぶだろう。そうしなければグラルダが壊れていたと分かっていても。
「それが、罪だというのなら、私は――」
 本人も知らぬ所で漏れた言葉は、駆け足で戻ってきたグラルダにかき消される。
「準備は出来ているわね」
「ええ、各部異常ありません。出撃可能です」
 報告に耳を傾け、グラルダは操縦桿に触れる。『アカシャ・アカシュ』が起動、出撃のためカタパルトに移動する。
(何だというのよ、もう。……“大河”も、“紫電”もよ)
 半ば八つ当たり気味に心に吐き捨て、グラルダは操縦桿を思い切り前に倒す。身体を襲うGにほんの僅か意識が持って行かれ、そこに一つの言葉が生じる。

 ――それが、愛だというのなら、私は――


「ボスのお出まし、といったところか。“灼陽”ほどではないが、デカイな」
 『マガメ族』の長、『マクーパ』を目の当たりにし、真司はそんな感想を口にする。
『隊長、指示をお願いするっす!』
『……隊長に従う』
 同伴する“雷電”、ハンスへ真司は、自分が大出力の近接攻撃でマクーパを狙い、二人にはマクーパの気を逸らしてほしいと指示する。
『合点承知!』
『……了解した』
 指示を受け、二人はマクーパに接近、攻撃を行う。マクーパの装甲は二人の攻撃を難なく跳ね返すが、その間に接近する真司の姿までは捉えられなかった。
「この一撃で……決める!」
 『ゴスホーク』の抜いたブレードに、膨大なエネルギーが注ぎ込まれる。そうして生まれた巨大な刃を、マクーパの巨体へぶち当てる。
「マクーパの弱点、と呼べるのかどうかは分かりませんが、頭部は比較的弱いはずです」
「分かったわ! じゃあ、頭を狙って全弾発射よ!」
 『ゴスホーク』の攻撃が見舞われた直後、後方から加速してきた『シルフィード?』がマクーパを射程に捉えた直後、持てる弾を全て発射する。うさみん族のマガメ族へ込められた思いの効果もあってか、着弾するたびにマクーパは悲鳴を上げ、苦しんでいるように見えた。

『遅ぇじゃねぇか。早くしないと契約者に手柄を取られちまうぞ』
「ここから挽回すればいいだけよ。ある程度攻撃してくれた方がトドメを刺しやすいでしょ?」
 “紫電”からの通信に、グラルダは以上のように返す。それはほぼ普段通りの返答とも言えた。
『へっ、違いねぇ! んじゃちょっくら遊んでくっか!
 グラルダ、『SyDEN』発動だ!』
 “紫電”の言葉に呼応するように『SyDEN』を発動させながらグラルダは、そういえば“紫電”はいつの間に私のことを“BOOBY”ではなく名前で呼ぶようになったのだろうと考えていた――。

(さあ、いよいよこれが、最後の戦いだ。
 行くぞ、ソーサルナイト。これまで培った経験を力に変え、マクーパを倒すんだ。
 そして友であるケレヌスや“紫電”と、堂々と元の世界に帰ろう)

 味方のイコンが波状攻撃をマクーパに浴びせ、不沈艦として存在し続けてきたマクーパも抵抗力が大分落ちてきていた。そのマクーパに対し涼介は『ソーサルナイト?』を『進化』させ、一時的に絶大な出力を得る。高らかに抜いた聖剣を天に掲げ、その発生した出力を聖剣に注ぎ込む。
「行くぞ、マクーパ! 絆の力を、受けろぉ!」
 聖剣を突き出し、そこから溢れる力は『ソーサルナイト?』を包み込んでまるで一つの槍と化す。マクーパは向かってくるそれに最後の力を振り絞り炎を吐きかけるが、炎を突き抜けて『ソーサルナイト』は突き出した剣をマクーパの眉間に突き刺す。
「未来を、切り拓けぇぇぇ!!」
 涼介の叫びに応え、『ソーサルナイト?』の出力がさらに上がる。突き刺した箇所からヒビが入っていき、やがて弾けるように砕け散った。
 砕けた欠片はキラキラと空をさまよったのち忽然と消え、同時に空と地上を埋め尽くしていた『Cマガメ族』と『Cヴォカロ族』も姿を消し、契約者はこの場での戦いが勝利に終わったことを確信した――。