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古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』

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古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』

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 ――死者は語る。一人はナコト・オールドワン(なこと・おーるどわん)。一人はラズン・カプリッチオ(らずん・かぷりっちお)
 彼女らが語る間に、一人、また一人と死者は増えていく――。


 生まれた意義を考え
 そう在ろうとした

 正しく在ろうとした
 正しさが単純であればあるほど、正しくあれるのだから

 間違えたくなかった
 間違わない方法であった

 だから正しく在れた
 最後のその瞬間まで

 共にあれた 正しくあれた
 ただそれだけである

 狭い狭いそんなコミュニティでなければ、
 自分自身に最後まで『自分は正しかった』と言えないのだ

 より多くに認めてもらうのがより良い正しさであるならば
 より多くの正しくないものが生まれてしまう

 矮小? 卑小? 結構なことではないか
 ささやかな望みで何が悪い

 正しく在れたのだ
 あの方は正しい
 故に、正しい

 幸せな事だった
 結構な事だった



「ルゥゥゥピナァァァアスッ! 殺しに来たぞ!
 生きろ生きて見せろ! 殺してやるっ! 恨みも憎しみも無く殺す! ただ殺すっ!!」



 シーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)とユニオンしたアルコリアが叫び狂いながら武器を振るう度、契約者は傷つき、気力も体力も尽き果て、倒れていく。
 まず最初に割って入ったエヴァルトは銃で応戦、急所を狙い撃つ事で本気を見せるが、アルコリアのそれはエヴァルトの本気を軽く凌駕していた。そもそも比べる位置に無かったかもしれない。


「約束だ! 約束を果たしに! 果たしたい果たしたくないではなく、果たさなければいけないでもない!
 意志などなく、果たすのだ!」



 優と聖夜は、何か一つ行動を起こせる状態にすらなれなかった。
 一薙ぎで聖夜が、もう一薙ぎで優が倒された事でも、二撃かかったねと評されてしまう、そんなレベルだった。


●ザナドゥ:ロンウェル

「うっ……」
 いつものようにヨミの仕事を手伝っていた神崎 零(かんざき・れい)、そして陰陽の書 刹那(いんようのしょ・せつな)が突如呻いたかと思うと、相次いで倒れてしまう。
「わ、わわわ!? ふ、二人ともどうしたですかー!?」
 突然の事にヨミはあたふたとするばかりで、ぺちぺちと頬を叩いてみても反応を返さない。
「ロノウェ様、ボク、どうしたらいいですかー!?」


 争いが嫌だった、諍いが嫌だった
 気弱い自分を磨り潰すされるのが嫌だった

 それでも世界はそうではなかった
 だから磨り潰されて、摩耗して

 もう受け入れられないのに、世界は注ぎ込まれた

 なぜ争うのか?
 正しく在りたいからだ

 正しさは間違いがなければ成り立たない
 だから間違わせるために争うのだ

 手っ取り早いだろう?

 あいつは間違ってるから虐げられて当然
 感情移入できる点を描写されなかった者が倒されるのが勧善懲悪
 中身には触れず、テロリストと貼り付ければ撲滅すべき存在

 総て同じことだろう?
 だが、それを言ったら自分も含まれる、だから言わない

 耐え難い、世界だよ



「力も、殺しも、争いも否定したモノの姿だ、これがっ!!」
 世界よ平和になぁれ、争い止めて手を取ろう、誰かが誰かを殺すことがないように――だから死ね! だから殺すっ!!」

「殺さない限り僕は止まらない、殺して否定して見せろ!
 争い、殺しを否定した僕を殺して、殺す世界が正しいと証明して見せろよォォォォッ!!」



「ううぅ、流石にヤバイよね、これは!」
 サタナエルを喚び出したベリアルも、アルコリアの振る舞いに手も足も出ないといった様子で立ち尽くし、ルピナスに纏うドレスも事の成り行きを見守る他なかった。魔神ですら畏怖するであろう力をぶちまけるアルコリアに対し、唯斗と樹月 刀真(きづき・とうま)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)、それに桐生 円(きりゅう・まどか)オリヴィア・レベンクロン(おりう゛ぃあ・れべんくろん)ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)は力を合わせ、必死の抵抗を繰り広げていた。
(一撃がやべぇ。たった一撃でももらえば、どこかしらが飛ぶ)
 鬼種特務装束【鴉】を起動させた唯斗が、肩から腕、拳に光を集めて渾身の一撃を見舞う。アルコリアの反撃が届く前に両足に光を集め離脱して事無きを得るが、肝心のダメージはさっぱり与えられない。……否、そこそこなダメージは出ているものの、アルコリアの体力がずば抜けていた。シーマとのユニオンの効果もあり、数値上の話ではあるがアルコリアの体力は4000を超える。そこに10や20のダメージを与えた所で状況は何も変わらない。これだけの体力がある相手ならば体力切れという概念も存在しない。正直これがゲームなら、コントローラーをぶん投げてもいいだろう。それほどに無理ゲーだった。
「契約者の能力封じの道具も、これではあまり効果が無いね。一個は封じてるんだろうけど、一個じゃとても足りない」
 円の持つ道具『Pキャンセラー』による効果も、相手は10を超える能力持ちである。その一つが封じられた所で、先程の体力の話ではないが状況は何も変わらない。
「パートナーが殺されているのもあるのかしらね。もう歯止めが利かなくなっている。
 私達の力を全て合わせても、彼女を上回るのは難しいかもしれない。世界樹の力とか、天秤世界の力とかそういうのを使わないと無理ね」
 オリヴィアの分析は、的を得て欲しくないだろうが的を得てしまっている。
「出来るのか、そんな事が?」
「出来たらこんなに苦労してないわ」
「……確かに」
 その回答で、刀真は覚悟を決めた。世界樹の力だの天秤世界の力だのを、そもそも個人が――この場合は契約者という意味で――運用出来るはずもない。

「皆さん!」

 しかしこの場に、ミーミルが登場する。彼女ならば世界樹の力を、天秤世界の力を、行使出来るかもしれない。
「ミーミルさん、こんな事をお願いするのはどうかなって思うけど……でも、私達の力ではどうにもならない。
 だから……お願い、力を貸して!」
 漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)の訴えを耳にして、ミーミルは目の前の人物、アルコリアを見据える。無尽蔵に力を振るい続ける彼女を、果たして力で止めていいものだろうか――。
「ちょっと、いいかしら。試してみたいことがあるの。
 少しだけ時間かかるから……お願い、その間時間を稼いで頂戴!」
 リカインが場に割って入り、策を提案する。策の内容をかいつまんで聞かされた刀真はなるほど、と理解し、リカインに協力することを決める。
「時間はどれだけ必要だ?」
「一分……いえ、40秒で支度するわ!」
「分かった。その間何とか持ちこたえてみせよう……月夜、援護を頼む!」
 背後の月夜に言い、オリヴィアから潜在能力解放をもらった刀真がアルコリアへ突っ込む。この僅か前に唯斗が力尽き、今はミネルバが防御系スキルを存分に駆使して耐えていたが、ものの十秒も持たずに息切れしようとしていた。
「ミネルバ、退け! ここからは俺が相手する!」
 礼を言う気力すら切れかけ、何とか視線だけで感謝を伝えたミネルバがその場を退き、刀真とアルコリアの一騎討ちが繰り広げられる。威圧感を醸し出しながらの刀による斬撃は、アルコリアの肉体に損害を与えているにも関わらず、一向に動きが衰える気配がない。相手の動きを捉え、その僅か先を行く動きも20秒経つ頃には動きを追えなくなり、防戦一方に回らざるを得なくなる。
(正直、40秒ならなんとかなると思ったが、きついな……)
 背後からは月夜が、敵以外の全てを透過するように設定した弓、高エネルギー体を発射する弓で刀真を援護するが、それによって与えるダメージはせいぜい時間を5秒稼いだに過ぎない。時間にして僅か10秒、たった10秒の間に刀真の体力はみるみる削り取られていく。なおこの間、オリヴィアが回復魔法を行使し続けての結果である。
「準備完了! ……正直、どんな効果になるか分からないけど……お願い、上手く行って!」
 スキルの準備を終えたリカインが、術を展開する。――それは世界を創造するものが行使できる、創造主の考えた展開で物語が進行する術――。
 では、リカインはどんな物語を進行させようとしたか、それは――。


『アルコリアが味方になって、敵に攻撃を行い味方を回復させる』


 …………


 …………


「…………む…………」
 意識を取り戻したシーマが最初に見たのは、よく分からない空ではなく、澄んだ青空。しばらくしてそれが、パラミタでよく見てきた空であることに気付く。
「……ここは……パラミタ……? どうして……? ボクたちは、天秤世界に――」
 身体を起こして、隣を見たシーマはそこに、あるはずのない姿を2つ認める。
「…………」
「…………」
 それは、ルピナスに殺されたはずのナコトとラズンだった。目こそ閉じているもののちゃんと生きている。
「……生き、返った……? どうして――いや、ボクが考えても仕方ない、か。
 ……よかった、と言うべきだろうな、これは」
 表情を柔らかくして、そういえばアルコリアはどこに、と辺りを見回し、少し離れた場所に倒れ伏す姿を見つける。
「! ……これは……」
 それは、一言で言うならひどい、というものだった。四肢は全てどこかしらが折れており、もちろん服はボロボロ、正直これで生きていると言っても嘘をつけ、と言われても仕方が無いほどであった。
 だが、自分達がこうして存在している以上、アルコリアは生きている。もはやしぶといと評するか、これこそ契約者と評するか。
「……まぁ……いいさ」
 吐き捨て、シーマは再び横になると、暫くの間空を見上げていた――。