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古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』

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古の白龍と鉄の黒龍 第5話『それが理だと言うのなら、私は』

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「はうぅ……イルミンスールを枯れる心配しなくていいようにすると、世界樹の力を浪費する可能性のある争いを止めるというお仕事が追加されて、そーしない場合は枯れないようにする為に今までみたいにこーいう事件に首を突っ込んでいくわけですよね? ……はわわ、どっちを選んでもとらぶるいっぱいじゃないですか〜」
 ミーナの話を横から聞いていた土方 伊織(ひじかた・いおり)がうぅ、と頭を抱える。
「まぁ、どうやらどっちになっても関わる事になるのは変わらんだろう。我はどっちを選んでも大差ないと思うのじゃが。
 伊織……はセリシアに委ねとるしのう。……うむ、我も面倒だし、任せるのじゃ」
「あうぅ、それでいいのですかー、って言えない僕が居ます〜……」
 サティナ・ウインドリィ(さてぃな・ういんどりぃ)の態度に、伊織は当初からセリシアの味方をすると決めているため、何も言う事が出来ない。
「お嬢様、ただいま戻りました。
 要所への人員の配置、防衛柵の設置を可能な限り済ませておきました」
 そこへ、サー ベディヴィエール(さー・べでぃう゛ぃえーる)が戻り、伊織に報告する。この場所は『天秤宮』に最も近く、いつ『天秤宮』の軍勢が攻め込んでくるか分からない。それを懸念した伊織がベディヴィエールに防衛の準備をお願いしていたのだ。
「ありがとうなのです。これでもしもの時も守ってあげられるのです」
「……ふむ。恋する伊織君はセリシアの事を思うとそわそわしちゃうの、ってやつだの」
「なんですかそれはー。そういうのじゃないですー」
 伊織の抗議の声に、サティナがははは、と笑った所で、どうやら五精霊とミーナ・イルミンスール勢の方針がまとまったようで、代表してミーナが決まった方針を口にした。

「皆さん、決まった方針を伝えます。
 これからここ、契約者の拠点に伸びる根を深緑の回廊と繋げることで、『天秤宮』とイルミンスールを繋げ、力をイルミンスールに渡します。
 根を少しずつ太く、強くしていく段階でおそらく、『天秤宮』の妨害が入ると思います。どうか皆さん、僕たちを護ってください」

「というわけで、元々張ってあった結界を利用して、侵入者を防ぐわよ。
 みんな、協力してちょうだい」
 カヤノとセリシアの指示の下、秋月 葵(あきづき・あおい)がカヤノと、伊織がセリシアと契約者の拠点を護る結界の強化にとりかかる。サティナとベディヴィエールはペアを組み、侵入者に対して備えにつく。
「刀真さんの方に、私たちの現状をお伝えしておきますね。刀真さんの方からルピナスさんについて何か連絡があれば、すぐにお伝えします」
 ミーナのサポートについたセイランへ、封印の巫女 白花(ふういんのみこ・びゃっか)がそう告げ、自身も手を貸す。
「ケイオース様も、こちらに?」
「ああ、結界のコントロールも、ミーナへの協力もしないといけないからな。幸いここにはその両方が用意されているからな」
 ティティナへ言って、ケイオースは契約者の拠点を内側から包み込む結界の展開準備に入る。そのことにティティナはほっ、と息を吐いて、作業を続けるケイオースの背中を見つめる。
(……ケイオース様。もしこの戦いが無事に終わり、ひとときでも平和な時間が訪れた時には、わたくし……)


 ミーナ達が方針を検討している間、博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)リンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)モップス・ベアー(もっぷす・べあー)『エールライン・ルミエール』に搭乗、拠点のすぐ傍から警戒を行っていた。今はまだ『天秤宮』は彼らを攻撃対象としていないのか、攻め込んでくる様子を見せていない。
(それでも、今後の決定次第で、ここにも攻め込んでくる可能性はある。
 どこに敵は来るだろうか、その時どうやったら守れるだろうか……)
 そんな事を思案していた博季は、くいくい、と袖を引っ張られる感覚にそちらを振り向く。見ればリンネが微笑み、湯気を立たせる飲み物を差し出してきた。
「博季くん、お疲れさま。ちょっとだけ、休憩しよ?」
「警戒は大事だけど、あまり根を詰めすぎても肝心な時に疲れるんだな。休めそうな時に休んでおくのも大切なんだな」
 どうやらモップスが仕込んでいたのだろう、彼の手元には水筒があった。
「……そうですね。休憩、しましょうか」
 博季は微笑み、警戒のために起動させていた額の『眼』を閉じて、リンネから飲み物を受け取る。

「リンネさん、ありがとうございます」
「ふぇ? どうしたの博季くん、急に改まって」
 博季の口から放たれた感謝の言葉に、リンネが口を付けていたコップから口を離して博季の方を向き、尋ねた。
「先日の戦いの時、リンネさんは僕を信じて、任せてくれました。
 リンネさんのおかげで、僕はきちんと自分の意見を皆に伝えられた。リンネさんのおかげで、迷うことなく自分を信じられた。リンネさんのおかげで、今もこうして迷わず自分の信じる道を貫ける。
 ありがとう。リンネさん。僕の心をきちんと支えていてくれて、ありがとう」
「えへへ……なんだか恥ずかしくなっちゃうな。
 うん、博季くんが思った通りの事が出来たのなら、私も嬉しい。博季くんがあそこで龍族と鉄族に訴えたから、戦いを止めてくれたんだよね」
「そ、それはちょっと大げさな気もしますけど……でも、こうして戦いを止めてくれたことは嬉しい。
 『天秤宮』は僕たちのしたことに否定的だけど……彼は僕たちよりもずっと、ずっと長い間自分の役目を果たしてきたから。僕はそれを否定しない」
 『天秤宮』もまた、譲れぬものがあって戦いを続けようとしている。その点は戦いを嫌う博季であっても、認めていた。
「もうちょっとだけ、戦いになりそうだね。今度こそ終わるといいね」
「はい。……僕はリンネさんに支えられました。だから今度は僕が、しっかりリンネさんを支えます。
 思い切り、リンネさんの思い描くまま……リンネさんらしく、羽ばたいてください。僕も、お手伝いしますから」
「私の、思い……。うん、そうだね。
 私、色んな所に行って、いっぱい色んな物を見てみたい。イルミンスールが力を得たら、パラミタ以外の世界に行くことだって出来るんだよね?」
 リンネの問いに、博季は多分、と答える。自由に様々な世界を行き来出来るようになるのとは違うが、結局数多の世界で事件が起きている以上、様々な世界に行く機会は用意されていると言っていいだろう。
「その為にはまず、ここの問題を片付けないとね! 最後まで頑張ろっ、博季くん」
 リンネが微笑み、博季もつられるように微笑んだ。

「……ん? これは……ボク宛に通信? 誰からなんだな」
 目の前の微笑ましい光景を、他人事といった様子で見ていたモップスは、自分宛てに通信が送られて来たのに気付き、早速目を通す。

『ねえ、私、事が落ち着いたら……イルミンの購買で働きたいのだけど。どうかしら?』

「…………」
 目の前のリンネと博季を見てられなくなったな、そう心に呟いたモップスは、この通信――それはウィンダムからのものだった――に対し以下のように返答する。
「好きにしたらいいんだな……」


『皆さん、決まった方針を伝えます。
 これからここ、契約者の拠点に伸びる根を深緑の回廊と繋げることで、『天秤宮』とイルミンスールを繋げ、力をイルミンスールに渡します。
 根を少しずつ太く、強くしていく段階でおそらく、『天秤宮』の妨害が入ると思います。どうか皆さん、僕たちを護ってください』

 ミーナからの通信の後、『深緑の回廊』と試しに繋いだ根を中心として、2本目3本目の根が絡み合いながら伸びていく。すると『天秤宮』から出撃していた軍勢のうちの一部が、その根を断ち切らんが如く向かってきていた。
「リンネさん、『Cマガメ族』の一部が、こちらへ向かっています!」
「確認したよ! モップス、配置について! エールライン、出撃準備!」
「忙しくなりそうなんだな」
 博季とリンネ、モップスが配置につき、『エールライン・ルミエール』が起動すると目下の集団へ攻撃態勢に入る。
「近付かせはしないよ! ファイア・イクス・アロー!!」
 声とともに放たれた矢は『フライヤー』の編隊を襲い、直撃を受けたフライヤーは地面に落下、爆散すると同時に忽然と消え、後には抉れた地面の痕が残った。

 『深緑の回廊』を抜けて『天秤世界』にやって来た非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)の搭乗する『E.L.A.E.N.A.I.』は、ミーナ救出のために契約者の拠点へ向かっていたイグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)を乗せ、ミーナからの通信により方針が定まったことを確信する。
「もし、今進めているものが全て終わった暁には、イルミンスールが調整役を引き継ぐ事になるのでしょうか。
 そうでしたらアルティア達は、和解を教える使者になるのでございましょうか?」
「おそらく、多くの契約者の方針を鑑みれば、そう振る舞うようになるでしょうね。
 しかし、『天秤宮』は……この世界は、ここに送られた者たちに“和解”という道を教えてこなかったのでしょうか。確かにここに送られるような方々は、少なくとも元の世界では和解という道を歩めなかったのでしょう。……ですが決して、道を理解出来ない者たちではなかった。こうして和解という道を知ることが出来た彼らは、既に滅ぼされるべき存在ではないように思うのですが」
 アルティアの疑問に答えながら、近遠は『天秤世界』に対する疑問を口にする。言ってしまえば前提が崩れたわけで、そうなった時には方針が切り替わってもいいのだが、そのような機能は持ち合わせていないのかもしれないな、そんな事を思う。
「そういえば、この世界に残された人達はこの後、どうするのでしょう?
 パラミタに来られるのかしら? 帰りの道が開ければ良いですけれど……」
「天秤宮の言葉とやらを聞かせてもらいましたが、まあ、天秤宮との戦いに勝って“勝者”となれば、出ることが出来るように思います。
 パラミタに来るのか、それとも元の世界に帰るかは、当人次第でしょうね」
「ふむ。……既にここ以外では戦いが、始まっているのだな……。
 皆、無事で居てくれるといいのだが――!」
 イグナが、滞在していた街の事を頭に思い描いた直後、直感的に反応するものを得てそちらを向く。同時にアルティアの確認するレーダーにも、おそらくイグナが得たものと同様の反応が現れた。
「『天秤宮』からのものと思われます方々が、こちらへ向かっています」
「どうやら接続のための根を破壊しに来たと見えるな」
 直後、契約者の拠点から応射が行われ、炎の矢に撃ち抜かれた敵機が爆発を起こし、直後に忽然と姿を消すのが確認出来た。
「どうしても……戦う以外の、幕引きを認めないみたい……ですね。
 それなら、それの維持を行っている力を奪う作戦に、乗るしかないです……色々と、上手くいくのか?とか、不安要素もありますけれど……ね」
「そっちの方はミーナやコロン、エリザベート校長やアーデルハイトに任せるしかありませんわ。
 近遠ちゃん、操縦を任せますわ。あたしは根に接近する彼らを狙い撃ちますわよ!」
 射撃を担当するユーリカが狙い撃ちやすく、また突然の敵機の接近にも対処しやすいよう、近遠はなるべく高高度を保つ。空の戦いにおいて後ろを取られるのと同じくらい、頭を抑えられるのは不利になる。逆にこちらが頭を抑えれば、それだけ有利になる。
「ファイヤー!」
 照準を定め、そして放たれた魔弾は見事、フライヤーを直撃して戦闘不能に陥らせる。基本性能ではこちらが上回っており、一対一の戦いでは常に優位を保つことが出来た。
(争いは……滅ぼす事は、解決策ではない……と思います。寧ろ、解決を永久に放棄する行為ですね。
 龍族と鉄族は、講和を成立させました。……この世界の意思は、和解に応じますかね? そもそも、和解を知り得ていますかね?)
 近遠の心の声に反応するべき、『天秤宮』の声は聞こえてこない――。