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【アナザー北米戦役】 基地防衛戦

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【アナザー北米戦役】 基地防衛戦

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グレースと庇護すべきもの

 
 
 
 カルの話によると、事の顛末はこうだった。
 グレースは熟練の契約者にすら匹敵する身のこなしで、火車を始めとした基地に侵入してきたダエーヴァの怪物たちを次々と撃退していった。その働きはまさに獅子奮迅とでも言うべきで、強さに憧れを持つカルはさらにグレースに惹かれていく自分を自覚していくのだった。
「ここは通さない……って気持ちでやって行こう。司令部まで、抜かせるな! グレースさんに続け、そして討たせるな!」
 カルたちのパワードスーツ隊フライシャッツを中心とした部隊は、基地中枢へと通じる道の中の一つの防衛を任されていた。そこでグレースとともに闘いながら、ある種鬼気迫るグレースの戦いぶりを、カルは見守っていたのだ。
 そしてまた、不可視の何かがグレースを守っていたのをカルは見逃さなかった。それは淵のフラワシであり、契約者である以上知識はあったので誰かがフラワシを使っているのだろうとは思いつつも、害にはならないのでそのままグレースとともにダエーヴァを撃退し続けていた。
 途中でグレースが立ち止まり、前回のようにしゃがみこんで嘔吐をしていたのだが、気にかける兵士やカルたちの心配を他所にグレースは再び立ち上がると、それまでにもまして激しい戦いを繰り広げた。
(極端なやり方で戦闘力を底上げしたというのであれば、何か反動があるかもしれんとは思っていたが。もしやあれが?)
 グレースとともにダエーヴァとの戦いを繰り広げつつそんなことを考えるのは夏侯 惇(かこう・とん)だった。
 たしかグレースはダエーヴァの細胞を移植したと聞いている。その反動なり副作用なりがあの嘔吐だとしたら、もしかしたらグレースは危うい綱渡りをしているのかもしれない。そして、そのような強さをカルに求めさせる訳にはいかない。惇はそんなことを考える。
 そして、ドリルが機関銃で【弾幕援護】をしている際に、その異変に気がついた。
 ビー玉からピンポン球サイズの大きさの巨大な蝿のような虫達が、グレースに群がり始めたのだ。
 それらは、四肢の一部が欠損した青年の姿を取りながら、グレースの前で赤く発光を始める。
 そして、それとともにグレースの表情が変わっていった。
「あ、ああ……ダニエル。良かった……無事だったのね」
 グレースの口から漏れたのはそんな言葉。
「ねえ、ダニエル。もうすぐ大統領の息子よ。感想は?」
 催眠状態にあるグレースには、時間の概念はないのだろう。アイザック大統領は時には大統領であったり、就任直前であったり、選挙戦の最中だったりと、言っていることがバラバラだった。それでも、グレースは夢の中で年下の恋人との幸せな時間を過ごしていた。虫達に捕食されながら――
「やばいっ!」
 そんなふうに叫んで姿を現した淵は、【小型精神結界発生装置】をグレースに対して使用する。しかし、その催眠は強力なため、直ちに解除することは出来なかった。
「ちっ、グレースの様子が変だ、コイツの所為か? ジョン、なんだかおかしい、他所はどうだ?」
 ドリルはすかさず、司令部に詰めているジョンに通信を入れる。すると、司令部ではハイナが、その他のところでも特に妻子持ちの米兵などがこの蝿に似た群体生物の餌食になっているという。
 そして、ジョンは各所から挙げられてくる報告を元にドリルに対処法を伝える。曰く――青いリーダーを殺すか赤い兵隊をある程度減らせ、と。
 だが、ドリルがその指示を受けている間に淵は結界の強度を装置が壊れそうになるギリギリまで強化する。そのことによってグレースにかけられていた催眠は解除されたようなのだが、その間際グレースはダニエルという男性の名前を大声で叫び、そのあとはずっとダニエルに対して間に合わなくてごめんなさい、助けられなくてごめんなさいと謝り続ける状態になっていた。
「強いけど、お姫様だかんねー! しゃあない、【戦略的撤退】だ。ここはいったん引こう」
 ドリルがそう言うと、ジョンからも通信で指示が入る。
「そうですね。グレースさんの身の安全を図ってください。我々は彼女を失うわけにはいきませんからね」
「了解! ここは引け、カル坊! 後は任せよ!」
 惇はグレートソードの【緑竜殺し】を手にカルたちの前に出ると、カルとドリルに撤退を促す。
「……わかった。ここは任せたぜ!」
 そして、カルとドリルそして淵はグレースを連れて司令室まで撤退したのであった。
 
 そんな司令室だが、件のベルゼビュートは隙間があればどこからでも入ってくるらしく、司令室内部が軽いパニックに陥っていた。だが、その一因としてはメカハデスが叫びながら触手を振るっていたこともあるだろう。
 その触手はベルゼビュートに群がられた人物を対象にしたもので、味方に危害は加えていないのだが、「米軍が開発した新兵器をよこすのだ。そうすればハイナや司令室の兵士は守ってやろう!」
 と叫びながら触手で絡めとるものだから、無駄な混乱が発生しているのだった。
 更には――
「了解しました、ハデス先生っ! ダエーヴァを殲滅すればいいんですねっ! 機晶変身っ!」
 ハデスの傍らに待機していたペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)が変身をしてベルゼビュートと戦い始めたのはいいのだが、剣では小さなベルゼビュートを相手取るのは非常に難しかった。そしてベルゼビュートがペルセポネのスーツの装甲の内側に入り込むので、ペルセポネは涙目になりながら装甲をパージする。
 だが、その瞬間ペルセポネは全裸になり、そしてそのままメカハデスの触手がペルセポネの大事なところを覆い隠すように巻きとってペルセポネを持ち上げるのだった。
 
「あのー、ハデスさんハデスさん……」
 ルカルカは冷や汗を垂らしながら改まった口調でハデスに語りかける。
「なんだ?」
「新兵器とかいったい何のことでしょう?」
 半ば棒読みでそう尋ねるルカルカ。ルカルカは、米軍がなにか新兵器を開発したなどという情報は知らなかった。
「――む? そういえば、何だったかな……」
 ふと考えるハデス。よくよく思い返してみると新兵器の噂を聞いたような気がしたが、それが何かというのはハデスにもよくわかっていなかった。
「おお! あれだ!! 大統領が生きたままでダエーヴァの虜囚となっていたのだから、それはダエーヴァが新兵器の情報を聞き出すために違いないと思ったのだ!」
 確かに筋は通っている。
「ダニー……ダニー。待って。行かないで……」
 しかし、そこでハイナがうわ言のように大統領の亡くなった息子の名前を繰り返し呼び続けるので、ハデスとしても興がそげてしまった。
「……むう。まあ、いい。とりあえずとっとと司令室を立て直すのだ!」
 ハデスはそう言うとベルゼビュートにたかられた人々を触手で群体から引き離しつつ火炎放射でベルゼビュートの兵隊を焼き払う作業にはいったのであった。
 その過程で被害者に精神的な後遺症が出る。
(捕食されて命を奪われるよりはマシというものであろうから、勘弁してもらいたいものだなあ)
 ハデスは被害者たちに心のなかでそんな言い訳をしながら、時折意識せずして女性オペレーターを巻き込む触手を苦心して制御しつつ、ベルゼビュートの被害者の救出にあたるのであった。