リアクション
◇ ◇ ◇ 刀真は、真っ先に巨人に斬りかかった。 ひとつを選べというのなら、何においても、ハルカの命を救うことを選ぶ。 その為に必要ならば、アルゴスを殺すことにも迷いはなかった。 何かを守りたい、その為にいつも剣を振るっている。けれど、本当に大事な時に何も守れていない。 刀真はそう自責する。 それでも止まらない。止まれない。 止まらなかったから生まれた結果もあって、そこから得られた何かもあった。 もし、ここで止まったら、それらを否定することになると、そう思う。 「アルゴス。ここでお前を殺す。 お前に死の門は破壊させない。必ずここで止める!」 アキレス腱を狙って走るが、アルゴスは素早く足を滑らせた。 蹴り払われるも、刀真はすぐさま体勢を戻す。 アルティマレガースによる飛行能力で、巨人の頭上を取り、目を潰す為に、顔面に向けて怯儒のカーマインを撃った。 銃弾は、巨人の閉じた瞼の外側を弾く。 しかし刀真はすぐにそれに反応し、目を閉じた巨人の懐に飛び込んだ。 「これで、どうだ!」 殺戮と破壊の衝動に、脳が焼ける。 刀真の攻撃を真正面から受け止めて、巨人の体が後ろに傾いだ。 「ほう」 巨人は呟くが、特にダメージを受けた様子もなく、手に持った槌を門へと振り上げる。 「やめろ!」 刀真は叫んだ。 (諦めない。 俺の剣が、俺の意志が、アルゴスを殺すに足るものであると認めさせるまで!) 「まるで、生身でイコンと戦うようなものね……」 水原 ゆかり(みずはら・ゆかり)は、急所を狙って発砲した銃弾が、避けもされずに巨人の肌を弾いたのを見て溜息を吐いた。 「どんだけ硬いの、あの皮膚?」 マリエッタ・シュヴァール(まりえった・しゅばーる)も呆れる。 説得は、するだけ無駄だと分かった。 門を破壊する理不尽を説いたところで、巨人が聞き入れることはないのだろう。 それを、始めから巨人が理解していないとは思えないからだ。 「生に意義はなく、ようやく死に場所を得て、ここで止めたところで、いずれ命を断つのでしょうね。 気持ちは、解るけど」 「でも、その為に門を破壊、なんて、考えが飛びすぎよ。 ハルカちゃんだって、そんなことされたって、きっと悲しむのに」 「ええ……」 それでも尚、アルゴスが死を望むのなら、叶えてやろうと、そう思うのだが。 「……彼は、自分が私達に殺されると、本当に思っているのかしら」 巨人は、向かって来る周囲の者達を攻撃することなく、ただ向けられた攻撃を防いで、そして、門を破壊しようとしている。 一撃の度に、門はミシミシと音を立てた。 一方、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)は。 「シャンバラの者として、門を壊させる訳にはいかないわ。 けど、殺しはしない」 自分の命を奪う相手を探す気持ち。 武人として、分からなくもないと、ルカルカは思う。 けれど、この場面で、それを認めるわけにはいかない。 「力は生きる為に使うもの。死ぬ為ではないわ」 アルゴスを、殺し、そして生かしてあげる為に。 「私が相手よ」 ルカルカは深呼吸をひとつして、覇王の神気を纏う。 精神を集中し、覚醒ラヴェイジャーとしての力を呼び覚ました。 そうして準備に出遅れている間に、刀真が巨人に猛攻し、ジャイアントピヨが体当たりを仕掛ける。 水原ゆかりやニキータらも、それぞれに巨人を止める為に戦った。 巨人は、細かい攻撃は避けようともしていない。ダメージをくらっているようにも見えなかった。 ルカルカは、常には封印している武器、『神喰』を手にした。 生半可な相手には使えない程、威力が大きい剣を、今こそ、用いる。 「さあ、戦いましょう。力の限り」 巨人に強者と認めさせる為、ルカルカは人の限界を超える。 超加速によって身体能力を上げながら、黒色の翼を用いて跳躍する。 死の門を足場にして、角度を変えながら更に蹴り上がると、巨人の背後の死角から肉薄した。 「人が、これほどの破壊力を行使できると思わなかった? 伊達に金鋭鋒の剣、最終兵器と言われてないのよ」 反応できない巨人に、『神喰』を一閃する。 目を焼くような、激しい光が弾けた。 「……なっ!?」 攻撃が、防がれた。 惰性で飛ばされ、空中で体勢を整えながら、ルカルカは驚愕する。 「魔法防御!?」 自分の攻撃が、完全に防がれる程の防御とは。 巨人は、着地するルカルカに見向きもせず、槌を門に叩きつける。 「やめなさい! 誰も死なせず、門を開けるのよ!」 「ほう。どうするつもりだ、金鋭鋒の剣とやら」 興味を示して、巨人がルカルカを見た。 「誰かを犠牲にして進むなんてしたくないのよ。 複数の命でも命は命。全員の命を少しずつ削って開けて貰うわ」 え? と全員の驚きの視線がルカルカに集中する。 是非の問題ではなく、初めて聞く話だったからだ。 ヒュ、と空気が唸った。 コンマ数ミリ、しかし体には全く掠らず、目の前の地面に、巨人の槌が叩きつけられた。 「……ッ!?」 数瞬遅れて、ルカルカは飛び退く。 ざわりと悪寒が背筋を走ったのは、更にその数瞬後だった。 「思い上がるな、小娘。此処にいる者達の命は、貴様の道具か」 持ち上げた槌の跡、柄の部分の深さ迄、地面がめり込んでいる。 「皆も私に賛成してくれるわ!」 速い。 あの巨体から繰り出される攻撃が、全く見えなかった。 信じられない思いを抱きながらも、ルカルカはそう叫ぶ。 「……お前は自惚れが過ぎる。未熟過ぎる」 軽蔑の眼差しで、巨人はルカルカを見た。 「その傲慢な刃が、『シャンバラ』か」 そこでようやく、ルカルカは、巨人の強さを把握した。 彼は、全く本気を出していなかった。 殺そうと思えば、彼は簡単にルカルカを、此処にいる全員を殺せる。 そうしないのは、かつての女王殺害計画の時に、誰も殺さないで欲しいと言った、オリヴィエとの約束を守っているからだった。 これは、巨人を殺すか生かすかという戦いではなく、彼を納得させられるか、という戦いだったのだ。 |
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