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コーラルワールド(第2回/全3回)

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コーラルワールド(第2回/全3回)

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第10章 奸計、攻防
 
 
 霊峰オリュンポスに向かう道すがら。
 ドクター・ハデス(どくたー・はです)は、高笑いを上げながら、朝永真深とカラスに言った。
「フハハハハ!
 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスの大幹部、天才科学者ドクター・ハデス!」
 奇遇にも、組織名と霊峰の名が同じ名前なのは別の話に置いておく。
 既に見知りの間柄だというのに、いちいち紹介せずにはいられないのかしらこの人、と、カラスは胡乱な目でハデスを見た。
「真深とカラスよ。
 俺の目的は、あくまで、このミスリルの財布の中身。
 それをいただいた以上、この財布に用は無いのでハルカに返すつもりだ。
 よって、これ以上、諸君に協力することはできん!」
 中身、最初から空だったけどね。真深は突っ込みを心の中にしまっておく。
 厳密には、全くの空ではなく、ルカルカ・ルーの仕掛けた発信機が入っていたのだが、ハデスは流石に気付いて途中で捨てた。
 しかし有言実行、本当にハルカに財布を返しに行こうとするハデスの延髄に、背後から、パートナーの天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)が、手刀を一発食らわした。
「くっ、十六凪、なにをっ……!」
 くたり、と気絶するハデスと、十六凪はユニオンリングを使って合体する。
 外見はハデスのままだが、思考は十六凪に乗っ取られる形となった。あっという間の出来事である。
「真深さん、カラスさん、失礼しました。
 僕は秘密結社・真オリュンポスの代表、十六凪です。
 僕の目的は、パラミタの征服です。いかがです、お二人の目的を達成する為、ここは協力しませんか?」
 ぱちくりと目を見開いていた二人は、何とか状況を理解したようだ。
 カラスは、パラミタ征服、と、反芻して苦笑し、真深はじっと十六凪を見た。
「……彼じゃないの。
 ふうん、まあ、いいけど……」
 ツンデレ属性を踏襲した、残念そうな台詞に、ペルセポネ・エレウシス(ぺるせぽね・えれうしす)以外の面々の、もしやの心の声がハモった。
(これはまさか……所謂吊橋効果とかいう……?)
 イルミンスールの時、リタイヤを覚悟していた真深は、ハデスによって救出されたのだった。
 勿論ハデスは、パターンに則ってそうしただけだが、真深の感謝は、好意に発展していたらしい。
「え、何、何ですか?」
 ハデスが十六凪に変わったことにも気付いていないペルセポネだけは、漂った微妙な空気にきょろきょろと十六凪達を見る。
「……まあそれはともかく、死の門には、相当数の邪魔が入ることが予想されますし、突破するのは至難の業でしょう。
 僕は、ハデス君のように甘い考えではありません。最も可能性の高い方法を取るとしましょう。
 お二人にも協力していただきたいのですが」
「いいわよ」
 願ってもないことだと、カラスは応じる。
「協力する代わりに、情報提供をお願いしたいのですが」
「いいわよ。提供できる情報があるならね」
「では、コーラルワールドとやらについて、ご存知のことを教えて貰えますか?」
 それが、世界征服に利用できるものならいいのだが、と思いつつ、十六凪は訊ねる。
「さあね……コーラルネットワークに介入できる場所、としか、私も知らないわ」
 カラスは、そう言って両手で胸元を押さえる。
 ふふふ、と、低く笑った。
「でも、そこにアールキングの力を持ち込めば……アールキングは、一気に全ての世界樹を掌握できるわ。
 ふふふ……そして、アールキングが、パラミタの全てを支配するのよ」
「君は、アールキングの知り合い、ですか」
「知り合い、ですって!?」
 カラスは、急に興奮した様子になる。
「私が、アールキングの一番に決まってる。
 私が、アールキングを一番理解しているの!」
 呆気に取られて瞬いて、そうですか、と、十六凪は答えた。
 ちょいちょい、と、十六凪の服の裾を、後ろからそっと引っ張ったのは、デメテール・テスモポリス(でめてーる・てすもぽりす)だ。
「……デメテール、何か、こういうの、見たことあるなぁ……」
「奇遇ですね」
 十六凪はそっと囁き返す。
「何か……イタいアイドルファンみたいな〜……」


◇ ◇ ◇


 殺気を感じた。
 小鳥遊美羽は、がばっと立ち上がる。
「……どこ!?」
 周囲を見渡すが、姿は見えない。フラッ、と一瞬頭が揺れた。

「……?」
 アデリーヌ・シャントルイユは、ふと、耳が歌を捕らえた気がした。
 何だか、頭がぼうっとしてくる。それが眠気と気付かぬままに、目を閉じる。
「二人とも、起きて!」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)が、さゆみとアデリーヌの頬を張った。
 二人は、はっと我に返る。
 眠らされていた、と自覚するより先に、何処からか、強力な電撃の魔法が放たれた。
 範囲魔法だ。

 はっ、と巨人がハルカを見た。
 体が、魔法攻撃からハルカを庇おうと動きかけるが、コハク・ソーロッドの女王騎士の盾によるバリアで、何とか凌ぐのを見て安堵する。
「だぁら! こんなことやってる場合じゃねーって言ってんだろー!」
 アキラ・セイルーンが怒鳴った。
 しかし巨人は聞き入れない。
「ハルカの死よりも先に、俺を殺すこともできないか」
「――いいだろう。お前に、もう二度と余所見などさせない!」
 刀真が、巨人の挑発に正面から応えて言い放った。

 敵は姿を現さない。
 イルミンスールでは、財布を入手するという目的があった。だから彼等は接近戦を挑んできたが、今回はわざわざ姿を現す必要も無いということだろう。
「もー、許さない! ハルカをお願いっ!」
 我慢しきれず、美羽が駆け出す。
 セレンフィリティと、パートナーのセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)もそれに続いた。
 魔法が届く範囲内にはいるのだから、少なくとも、この遺跡の何処かにはいるのだ。
 さゆみはハルカの護衛に留まる。
 アデリーヌが、精神を集中した。
 トリップ・ザ・ワールドを展開して、その中に、ハルカと、ハルカを治療するエリシア達を入れる。
 その外から、コハクが女王騎士の盾を手に攻撃に備え、トリップ・ザ・ワールドのフィールド内で、エリシアや月夜は、ハルカの治療に集中した。


 ハルカを襲撃すると見せかけて、巨人アルゴスを狙う。
 遺跡の陰から密かに様子を伺い、状況を把握して、十六凪が立てた作戦はそれだった。
 契約者達は、ハルカを守る部隊とアルゴスと戦う部隊に分かれるから、合流させないよう、真深とカラスには、実際にハルカを狙わせる。
 その方が、本命が動きやすいからだ。
 更には、直接巨人を狙うよりは、巨人の攻撃を長引かせ、この地の何処かにいる筈の、黒龍騎士に介入させる方がいい、と、十六凪は思った。
 それでシャンバラとエリュシオンの関係が悪化すれば、都合がいいというものだ。

「ハデス先生のご指示により、アルゴスさんの邪魔はさせませんっ!」
 イコンシステムのパワードスーツ、機晶神ゴッドオリュンピアを装備したペルセポネが、可変型兵装の「撃針」をボード状に変形させ、アルゴスを止めようとしている者達に突撃した。
「邪魔はそっちだ」
 ルカルカ達の戦いには手を出さず、連携もしなかったダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)は、最初から、対巨人への妨害を阻止する為に待機していた。
 アブソリュート・ゼロによる氷壁を展開し、ペルセポネの進撃を阻止する。
「まあ、近づくのは容易ではないでしょうね。
 ペルセポネ、遠距離攻撃で行ってください」
 離れたところから密かに、戦況を把握しつつ、十六夜が指示する。
 ペルセポネは、対人用に調整されたレーザーマシンガンを連射した。
 ダリルは念動球で応戦する。
 水原ゆかりらもダリルの援護に加わったが、ルカルカや刀真達は、目標を巨人から離さなかった。


 行動予測で、真深達の襲撃のパターンを考えながら、セレンフィリティとセレアナは、二手に分かれる。
 カラスと真深が、一緒に行動しているとは限らないからだ。
 セレアナは、機晶バードに迷彩塗装を施して上空に待機させておく。

 遺跡の陰に潜み、更に隠れ身を使い、ハルカ達へ真空波を放った黒衣の少女を発見した。
「見つけたわ!」
 セレンフィリティは、ゴッドスピードでカラスに迫る。
 セレンフィリティに気付いたカラスは、素早く上空へ逃れた。
 そして代わりに、何処に潜んでいたのか、1メートル程もある改造済戦闘用イコプラが、次々とセレンフィリティに雪崩れ掛かる。
「なっ!?」
 驚いたものの、所詮は意表をつくだけのものでしかない。
 セレンフィリティは、イコプラを手っ取り早く片付けたが、カラスの姿を見失った。
「精霊……だったような気がするけど……」
 姿を確認できたのは少しの間だけだったが、その容姿を思い出しながら、セレンフィリティはそう思った。
 話によれば、彼女は、テレパシーやサイコメトリを使っていたそうだが。
「精霊が、トランスヒューマン系のスキル?」
 何だかそぐわないような気もしたが、珍しくもないのだろう。
 気を取り直して捜索を続けたが、カラスは、身を隠す方を優先することにしたようで、攻撃も途絶え、見つけることができなかった。


 逆に、潜んでいた真深が、急に飛び出して来たタイミングが何だったのか、美羽には解らなかったが、とにかく彼女を逃がす気はなかった。
 ハルカを狙う相手に対して、手加減もできない。
 光条兵器なら、味方を巻き添えにすることもないので、美羽は周囲を確認することもせず、ブライトマシンガンを遠慮なく撃ちまくる。
 迷彩塗装を施している真深は、遺跡の陰に紛れながら逃げ、美羽はマシンガンを放り投げた。
「逃がさない!」
 バーストダッュで、一気に距離を詰める。
 途中、遺跡にぶつかってどこか壊したような気がするが気にしない。
 接近戦を得意としない真深は、飛び込む美羽に慌てて発砲した。
 美羽は止まらない。致命傷にはならない、そう判断して、そのまま突っ込む。
「喰らえッ! 鉄壁飛連脚!」
 だん、と一旦踏み込んで勢いを強め、跳躍からの蹴り。
 容赦なく急所に叩き込まれた蹴りに、骨の砕ける音がした。
「う! っく……」
 真深は、意識を失って倒れる。

 セレアナが駆けつけた。
「お手柄ね!」
 駆け寄ったセレアナは、真深を後ろでに拘束する。
 真深は痛みに顔を歪めるが、目は覚まさない。
「とにかく、皆のところに運びましよう」
 と、身長のあるセレアナが真深を背負った。



 ハルカの回復は、何とか間に合った。
 殆ど二つに分断されていたハルカの体は、エリシア達の、懸命の治癒魔法で、水晶が全て剥がれ落ちる前に、何とか繋がった。
「心音が弱いですわ……」
 脈を診て、エリシアが苦々しく呟く。
 どんなに回復をかけても、意識も、脈も戻らない。
 恐らくは、門に命を吸われているからで、それが戻ってこないと、完全な回復は無いのだろう。
 エリシアは、祈るような思いで、死の門を見る。
 あれを開けるかどうかには、何の興味もない。破壊されても構わない。
 ただ、どんな形でもいい、早くハルカの魂が解放されますようにと。