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第1回ジェイダス杯開幕!

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第1回ジェイダス杯開幕!

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第三章 助け合う者たち

 スタート直前から荒れ狂う第1回ジェイダス杯!
 バトル会場と化した黒薔薇通りに見切りを付けて、路地へと進路をとったチームがいるぞ。
 シャンバラ教導団の朝霧垂(あさぎり・しづり)選手とパートナーである剣の花嫁ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)選手だ。この二人は軽量化を図るために軍用バイクのサイドカーを外す作戦に出た模様。
 タンデムのハンドルを握るのはメイド服を着た朝霧選手。レースに彩られたフレアスカートが風に舞うたびにチラリと見える太股が、たまらないっ。
 朝霧選手が進路をとったのは、魔法道具や怪しげな薬などを扱った店が集まる「霧深き市場」。その名が示すとおり、タシガン市街の中でも特に霧が深く視界が悪い一画だ。その上、路地が入り組んでいるため、初見での踏破が難しいコースといえよう。だが、チェックポイントへ向かう最短コースでもあるのだ。
「道を覚えるのはメイドの嗜み! 日々ご主人様のお使いに励む、メイドの地理感覚を舐めるなよぉ〜〜〜!!」
 どうやら朝霧選手、事前にコースの下見をしていた模様。その迷いのない走りに目を付けたのは、朝霧&ライゼチームの後方に位置していたシャンバラ教導団の比島真紀(ひしま・まき)選手とパートナーのドラゴニュートサイモン・アームストロング(さいもん・あーむすとろんぐ)選手だ。
「珍妙な格好をしているが、あのバイクの型は教導団のものだ。自分達も後に続くぞ、サイモン!」
「後続車の足止めはまかせておけ」
 言うやいなや、サイドカーに乗ったサイモン選手が何やら筒のようなものを取り出したぞ。ドラゴニュートの力を遺憾なく発揮し、後続車に向かって投げつけたものは…煙幕弾だ!
 ただでさえ霧が深い上に、路地には濛々と煙が立ちこめている。朝霧チーム、比島チームに続いて霧深き市場へと走り込みたくても、視界がゼロでは危険すぎる!
「上手く行ったようだな、真紀」
 ニヤリと笑うサイモン選手に、比島選手は前方を睨んだまま答えた。
「一刻も早く先ほどの者達と合流し、共同戦線を持ちかけるぞ」


「あ〜もうっ、白馬にまたがって華麗に走る予定だったのにっ」
 飛空挺を操りながら、併走する選手に愚痴をこぼしているのは、黒脛巾にゃん丸(くろはばき・にゃんまる)選手のパートナー、剣の花嫁リリィ・エルモア(りりぃ・えるもあ)選手だ。
 実はリリィ選手、知り合いの薔薇学生から白馬と制服を借り、男装して出走しようとしていたらしい。しかし、レース会場への到着が予定よりも遅れたため、友人と会うことができなかったようだ。
「男装メイクなんかにこだわって、約束の時間に遅れた君が悪いんですよ」
「本気で勝ちに行くためには、薔薇学生になりきる必要があったんですっ!」
 そのレースに対する心意気、リリィ選手が男性だったのならば、ぜひ薔薇学にスカウトしたい所だが…。
「こうなったら、徹底的に妨害してあげますっ!」
「………元気ですねぇ。まぁ、協力は惜しみませんが」
 言うや否や、黒脛巾選手の姿が雲をかき消すように見えなくなった!
「うわぁぁぁ〜!」
「きゃぁぁ〜〜〜!」
 そして霧の中、突如響き渡る大きな悲鳴?!
 選手を乗せた空飛ぶ箒が、錐揉み状態で落下しているぞ。
 どうやらスキル・隠れ身で身を隠した黒脛巾選手が、リターニングダガーを使ったようだ。のんびりとした口調の黒脛巾選手、意外と策士。これは侮れないっ。
 妨害にあったのは魔法学園の高月芳樹(たかつき・よしき)選手と同乗していたヴァルキリーアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)選手。出走前のインタビューでは「完走が最大の目的のため、マイペースで走る」と言っていた高月選手だが、これは予想外の展開だ。
 空飛ぶ箒に必死でしがみつく高月選手。
 あわや地面に激突か?!!という瞬間で、アメリア選手がバーストダッシュを使ったぁ〜〜!!!!
 その勢いで、急降下していた空飛ぶ箒が直角に跳ね上がる!
 これは絶妙のタイミングだ。
「…なんとか間に合ったみたいね」
 空飛ぶ箒を無事に着陸させることに成功したアメリア選手もホッと一息。
「ありがとう、アメリア。お陰で助かったよ」
「いえ…私こそ。後方もしっかり警戒していたつもりだったのに。…ごめんなさい」
 無惨にも穂先を切り落とされた空飛ぶ箒に視線を向けて、肩を落とすアメリア選手。確かにこれでは高月選手の目標だった「完走」が実現しないぞ!
「レースは時の運って言うし。しょうがないよ、アメリア」
 落ち込むアメリア選手を優しく慰める高月選手。彼らにとっては不本意な結果だろうが、これはこれでジェイダス杯の歴史に残る感動の名場面だ!
「僕たちはやれるだけのことをやったんだ。胸を張ってインスミールに帰ろう」
 高月・アメリアチーム、残念無念のリタイア……と、ここで二人に声をかける者達がいたぞ。
「アンタら災難だったなぁ。良かったらオレの白馬に乗っていくか?」
 霧を掻き分けるようにして姿を現したのは、のんびりと愛馬のフニオを走らせてきたミゲル・アルバレス(みげる・あるばれす)とパートナーの吸血鬼ドミニク・ルゴシ(どみにく・るごし)だ。
「オレたちは優勝狙いちゃうけどな。完走するだけでいいなら、乗ってきな〜」
 高月・アメリアチームにとってこれは幸運。と、思いきや……。
「お人好しめが。私はイヤだぞ」
 なんとドミニク選手、ミゲル選手の提案を露骨に拒否しているぞ?!
「情けは人のためならずって言うやろが。そんなこと言わず、助けてやろや」
「ならば、捨て置く方がこの者たちのためであろう」
「意味ちゃうで! 困っている人に親切にすれば、巡り巡って自分にも良いことが起きるっちゅう意味だ。ほら、アンタらも遠慮せんで、さっさと乗りぃ」
 陽気な笑顔を浮かべたミゲル選手。愛馬フリオの尻を軽く叩くと、高月選手に騎乗を促している。
「ありがとう、助かるよ」
「気にせんといて〜。人数おった方が完走の可能性も高まるしな!」
「…ミゲルの頼みだ、しょうがない。貴様もさっさと乗らんか」
 どうやらドミニク選手は、ミゲル選手の笑顔に敵わないらしい。渋面ながらもアメリア選手に声をかけた。
「ありがとう。私もみんなのために、出来る限りのことをさせてもらうね」
 まさに災い転じて福と成す。魔法学校の高月・アメリアコンビと薔薇学のミゲル・ドミニクコンビによる即席チームがここに結成。見事、完走の夢を果たせるか?!