天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

排撃! 美衣弛馬鈴!(びいちばれい)

リアクション公開中!

排撃! 美衣弛馬鈴!(びいちばれい)

リアクション

 夕日が真っ赤に照らすなか、砂浜を走る姿がふたつ。
「レロシャン、こんなことをしても無意味ではないのですか? それにまともなスポーツ大会になるとは思えません」
 機晶姫のネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく)が息ひとつ乱さずに言った。
「確かに厳しい試合になると思う。でもネノノ、私はついなまけてしまうから、だからこの機会に全力で挑みたいの。
 大会で優勝するわ!」
 砂浜でのランニングは毎日のように続いた。レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)の必死の姿はネノノの胸を熱くさせるものがあった。ああ、だからワタシはこの人とパートナー契約を結んだんだ。そう思った。

 美衣弛馬鈴大会、開催1週間前のことである。


第1章 商売繁盛

 シャンバラ大荒野で商売をやっていくのはそうたやすいことではない。もちろん物流の問題もあるが、なによりキマク家の縄張りで好き勝手はできないのだ。余所者が商売をやろうと思ったら、四天王格の連中に相応の謝礼を支払うのが慣例のようになっている。
 条件を考えると、楽園探索機 フロンティーガー(らくえんたんさくき・ふろんてぃーがー)の店『楽園の入口』はうまいこといっていた。美衣弛馬鈴の会場が男子禁制と聞きつけると、大急ぎで女装用の水着だのカツラだのを調達して、会場近くの建物を借りたのである。
「お客様、こちらの水着などはいかがでしょうか?」
「いいね、ヴィヴィッドな色合いだ。頂こう」
 女装慣れしてきたエドワード・ショウ(えどわーど・しょう)が嬉々として水着を買い込んでいる。
「そちらのお客様にはタンキニなどお似合いかと存じます」
「そっちの白と青のストライプのがいいかなぁ。それと麦わら帽子も欲しいねぇ」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)はそれなりにこだわりがあって選んでいるようだ。

 朱 黎明(しゅ・れいめい)の出した店はもっと華やかだった。パートナーのネア・メヴァクト(ねあ・めう゛ぁくと)に肌もあらわな水着を着せて、その写真やらなんやらのグッズを作って売ることにしたのだ。
「女子の水着姿が見られないとわかれば、男は必ずやネアの美貌に関心を持つであろう。そうなればグッズの売り上げも見込めるというものだ!」
 黎明の確信どおり、ネアの周囲には男が群がっていた。観衆の目はその大きな胸を向き、ネアの優しげな目つきが観衆を見返していた。もう美衣弛馬鈴などどうでもよくなってしまった男のひとりが、とりあえず写真集を買った。
 ネアがにっこりほほえんで、男の手を取った。
「ありがとうございます」
 それで観衆の行動を抑えていた何かが壊れた。
「俺も写真集をくれ!」「ボクはTシャツ!」「CDください! 3枚!!」

 喧噪を聞いてフロンティーガーが外の様子を見た。最初、男どもが群がっているので、てっきり本部への殴り込みが始まったのかと思ったのだ。だがどうも事情が違うと悟ると、やれやれという身振りを示しつつ店に引っ込んで、荷物をまとめ始めた。
「このあたりは治安に厳しい区域なのです。ああ騒ぎを起こしては厄介なことになるでしょうな」

 フロンティーガーの懸念通り、10分もするといかつい蛮族が数名連れ立って黎明の店にやってきた。
「おいコラ、誰に断って店出しとんじゃ」
「こんなに人数集めるイベント開くなら事前に言ってもらわんと困るよ。行列の整理もしてないし、なにやってんの」
など口々にわめきながら詰め寄ってくる。黎明は内心めんどくせえなあと思いつつも、ここは穏便に話をつけようと思い、作り笑いを浮かべてやり過ごそうとする。
 そのとき問題が起きた。蛮族のひとりが乱暴にネアの手をつかんで引っ張ろうとしたのだ。ネアは反射的にテーブルの下に隠しておいたメイスを取り出し、蛮族の頭を強打する。蛮族の仲間は怒声をあげ、観衆は観衆で興奮して暴れ出した。中にはグッズを盗もうとしたり、ネアに飛びつくものもいる。仕方なく黎明は光条兵器の銃剣を使って、パートナーに近づく連中を気絶させる。
 この激しい戦いにより黎明の収益はむなしく消えた。だがネアをアイドルとして売り込む第一歩とはなったのである。

 一本の高い木が生えていた。その先端近くから縄が伸び、木の中央あたりには男が逆さにつり下げられている。
「作戦『愛☆罠 月 誅(アイワナゲッチュー)2019・夏』 大成功!
 ゲッチュー! ヒャッハー!!」
 開放感からか藤原 和人(ふじわら・かずと)が妙なテンションで叫んでいる。トラップの専門家を目指す彼が仕掛けた罠に、どこかのマヌケな男がひっかかったのだ。
 吊られた男は怒るでもなく、なにやら沈み込んだ表情のままブラブラと宙を揺れている。
 相手の反応があまり面白くないので、和人は次の罠を仕掛けるべく去っていった。
 入れ違うように、執事姿の男が姿を見せた。半沢 利男(はんざわ・としお)だ。別に親切心で来たわけではない。吊られた男が何か金目のものを持っていないか、助けることで見返りが得られるのではないか、そんなことを考えてのことだ。
「どうです、助けて欲しいとは思いませんか」
 相手が自分より弱そうだと思えば急に強気に出る、利男はそういう男だ。吊られた男は何事かをつぶやいた。それを耳にした利男は表情を変える。
「それでは計画を変える必要がありますね。それではさようなら」
 吊られた男を無視して、利男はその場を去る。