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排撃! 美衣弛馬鈴!(びいちばれい)

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排撃! 美衣弛馬鈴!(びいちばれい)

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第14章 洗濯と片付け

「それにしても、あの連中はなんだってこんなつまらねぇ場所に籠もってるんだろうな? 俺様ならさっさと放り出して、試合を見に行くところだぜ」
 大鋸が正直な感想を漏らした。
「わからぬか。わかるまい。お前のようなチンピラにはな」
 5階で待ち構えていた巨漢のメイド(男)が、両目を固く瞑って静かに続ける。
「我ら5人にとって、凡百の娘どもの水着姿など微塵の価値もないのだ。あのお方への忠誠心に比べればな」
「くだらねぇ! そのちっぽけな忠誠心とかいうやつを真っ二つだ!」
 大鋸がチェーンソーのスイッチを入れる。
「この瞑奴(めいど)の野武晴(のぶはる)がなぜメイドを志したか教えてやろう。かつて俺はイルミンスールで空間制御魔法を身につけようとする学徒だった……だがイルミンスールは欺瞞の学府だった! ウィザードになっても空間制御魔法は体得しえなかったのだ!!」
「それとメイドに何の関係があるんだよ」
「まあ話を聞け。俺は魔法を使えるクラスについて研究し、ついに“メイドこそが空間制御魔法を使える唯一のクラス”であることに気づいたのだ。俺はイルミンスールを捨て、ここパラ実でメイドとして生きる道を選んだのよ。
 さあ喰らうがいい、我が空間魔術“嵐弩利衣(らんどりい)”」
 野武晴は人差し指を立てると、不意に空間に亀裂が走った。虚空に開いた裂け目の向こうでは、巨大な洗濯機が轟々と唸りを上げている。
 高崎 悠司は光条兵器を使おうと携帯電話を取りだしたのだが、この時レティシアは携帯電話をロッカーにしまって馬齢に興じていたのである。必死で携帯電話をカチカチしながら濁流に消えて行く悠司。

 轟々々(洗い)。
 轟々々(すすぎ)。
 轟々々(脱水)。

 洗濯が終わり、キレイな悠司が吐き出された。
「やばい……携帯電話まで使えないとは、これも空間制御魔法だっていうのかよ……」
 なにか勘違いしたまま気絶。ふたたびチェーンソーを構える大鋸。
「待ってくだせぇ。同じメイドとして、こいつは俺がキッチリと片付けてやります」
 エミリオ・カッチーニ(えみりお・かっちーに)が大鋸を制した。エミリオはメイドということになっているが、本業はイタリアのマフィアらしい。
「次の洗濯物は貴様のようだな! ゆくぞ“嵐弩利衣(らんどりい)”!」
「片付けると言ったばかりだろうが! “覇臼騎鋳破(はうすきいぱー)”!!」
 どこからともなく姿を現した洗濯機は、本来あった場所へと片付けられた(それがどこなのかはわからない)。何が起きたのかわからず困惑している野武晴にエミリオが襲いかかる。
「洗濯機を! 散らかすなと!! 言っただろうが!!!」
「げぶみょっ!!(断末魔)」


第15章 見晴らしのいい場所で

「いよいよ屋上だな。ここに大会運営本部の親玉がいるに違いねぇ!」
「そこまでだ! パラミタ刑事、シャンバラン!」
 説明せねばなるまい! パラミタ刑事シャンバランこと神代 正義(かみしろ・まさよし)は大会運営本部前での喧噪を目にして、これは何かの陰謀に違いないと見破ったのである。そこで彼は愛用のお面を着用、大会運営本部に突入。そこで彼が目にしたのは、倒れた4人の美男子の姿であった。これは想像以上に複雑な事件に違いない!
 ポーズを取って現れたシャンバランだが、状況はよくわからない。とりあえずそのへんにいる不審者(どうみてもマフィアのエミリオとか)を指さして「お前が犯人だな!」などと叫んでいる。しかし現時点で一番怪しい人物はシャンバランだ。
 シャンバランの相棒、大神 愛(おおかみ・あい)はとりあえず周囲の人間から事情を聞くことにした。なんとなく話しかけるのがためらわれる人物ばかりだが、ひとり雰囲気の違う少女がいる。百合園女学院の制服によく似た服装だ。
「あのぅ、事情が把握できないのですが、教えていただけないでしょうか……」
「いま、ちょうど決勝がはじまったところよ」
 言われてみればここは屋上、高い場所から会場の様子がよく見渡せた。
「あ、ほんとですねぇ……いやそうじゃなくて、この大会運営本部の代表者の方はどちらにいらっしゃるのかなー、なんて」
「それならわたしよ」
 その場に居合わせた全員が凍りついた。ちょっと待て。男じゃなかったのかよ。口調も想像と違うし。
「貴様が首謀者だなっ! なぜこんな陰謀を計画したのだっ!? そもそも名を名乗れっ!」
 シャンバランが大げさなポーズを取りながら問い詰める。
「男のひとって、はじめからすべてが明らかになっているよりも、最初は隠してあるほうがうれしいものなのでしょう?
 誰でも参加できる大会より、塀で隠しておいたほうが、きっと波羅蜜多実業高等学校の皆さんにとって刺激になると思って」
 愛はこの少女の言わんとするところが漠然とわかって、薄気味悪く思った。それと同時に気づいたのだ。塀の向こうで、今まさに爆発せんとする男たちの妄執に。
「そうそう、わたしは小倉 珠代(おぐら・たまよ)です」