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リアクション
5日目 木曜日
放課後・蒼空学園中庭。
「……で、この有様はどう言う事だ?」
夕闇迫る中庭には、六人の生徒が立っていた。
ライ・アインロッド&ヨツハ・イーリゥ
カルナス・レインフォード
エドワード・ショウ
秋葉つかさ
瀬島壮太
この顔ぶれを見てピンと来た方、その予想はまず外れていない。
柳川先生をデートに誘った彼らだったが、残念ながら日にちも時間も待ち合わせ場所もかち合ってしまった。待ち合わせの場所に指定した中庭には、柳川先生の姿はまだなく、滅ぼすべき恋のライバルたちが集結してしまったのであった。
「いいか、お前ら。彼女は俺と海に行くんだからな」
瀬島壮太は小型飛空挺のエンジンをふかした。
柳川先生とのデートに備え、ピカピカに磨き上げた飛空挺のボディに、奇麗な夕日が映り込んでいる。
「誰が何と言おうと、先生はオレと夏祭りに行くんだ」
カルナス・レインフォードは先生に合わせ浴衣を着込んでいた。
先生にプレゼントをした浴衣を買った店で仕立てさせた深い藍色の浴衣だ。
「いいえ。私と食事に行くのですよ」
ライはアインロッド真っ白なタキシードを身にまとっていた。
予約したのはツァンダにある三ツ星レストラン。素敵なディナーを先生と過ごす算段だ。
「ねえ、ライ。この人達から先生を守ったほうがいいかな?」
七割りの好奇心と三割りの敵意を持って、ライバルたちを見つめるヨツハ・イーリゥ。
「そんな事する必要ありませんよ。さつきさんは約束をやぶるような人ではありませんから」
気合いの入った三人とは対照的に、いつも通りの格好のエドワード・ショウと秋葉つかさがそれに続く。
「いやいや、先生は私の部屋に来るんですよ」
「違いますわ。私と夜の学校で真実の愛を探しますのよ」
気合いの入った三人は顔を見合わせ、声を揃えてこう言った。
「ちょっと待て! お前らのデートは目に見えていやらしいぞ!」
「大人ですから」
と、エドワード。
「私もいろいろと大人ですから」
と、さつき。
中庭が見える三階空き教室。
夕日が差し込み、教室に並んだ机が影で、部屋の中を美しく彩る時間。
大草義純は緊張した面持ちで、柳川先生を見つめた。
「手紙、読んでくれたんですね」
「ええ。私に相談したい事があるそうですね……」
昼間、義純が渡した手紙には、彼の思いが綴られていた。
今とても苦しい恋をしている事。それが禁断の秘め事だと言う事。自分の話を聞いて欲しい事。どうしても柳川先生に聞いて欲しい事。それらが切実な文章で書かれていた。そして、もし聞いてくれるなら、夕方の空き教室で待つ、来てくれるまでずっと待っている、と最後に記されていた。
「……ごめんなさい。私は急用があって、行かなくてはならないんです」
彼女の急用とは、図書館制圧計画を阻止する事だった。
昼間から情報を求めて走り回り、ついに彼らが今日集会を開く事を突き止めのであった。
だが、彼女も人の子である。苦しむ生徒を置いていく事に、葛藤がないわけではなかった。
「行かないでください、先生」
そう言って、義純は胸を押さえた。
「胸が苦しくて……。僕はもう限界なんです……」
よろよろと義純は机にもたれた。
「義純くん!」
先生は駆け寄り、彼の身体を抱き起こした。
「先生……、僕は年上の人を愛してしまったんです」
義純は苦しそうに息を漏らしながら、先生の手をそっと握りしめた。
「……この気持ちをなんとかしたくて、僕は図書館に行きました。きっとこの気持ちを解決してくる本があると思ったんです。……でも、だめでした。どうしてか、わかりますか?」
先生は静かに首を振った。
「……だって、あなたが居たから!」
夕日が二人の影を壁に映し出した。寄り添う姿は美しく、どこか悲しい。
「……でも、こんなものがある限りダメなんです」
義純は上着を脱いだ。
彼の背中には「夫婦滝登り鯉」の刺青。彼は極道の家系に生まれたのだ。
「きっと、僕は愛されない。あなたにも迷惑をかけてしまう……」
「……義純くん」
二人は見つめ合った。……そして、訪れる静寂。
……を破壊して、突如窓ガラスが盛大に破壊された。
「あらよっと!」
いい雰囲気をぶち壊しにしたのは、ナガン ウェルロッドだった。
「見つけたぜぇ、柳川さつき!」
「な、何事です!」
「お前を美味しく頂きに来たんだよ……!」
まともではない目つきで、舌舐めずりするナガン。
彼女は本を見つけられなかった鬱憤を晴らすため、柳川先生で楽しもうとここに襲来したのだった。
「ナガンから逃げられると……」
そう言いかけたナガンの前に、無言で義純は立ちはだかった。
「じゃかァーしぃんじゃ、ボケェ!」
義純の放った渾身の右ストレートが、ナガンの顔面に叩き込まれた。
彼女は吹っ飛ばされ、教室の扉を突き破って転がって行った。
「毎日毎日、邪魔ばっかり入りくさっとんのじゃ!」
ドスの利いた広島弁を巻き散らしながら、義純は廊下へ向かった。
倒れているナガンの胸ぐらを掴み、危険過ぎる目つきで睨みつけた。
「てめェ、折角良い所じゃったのに、どう落とし前つけてくれんのじゃ!」
まさに豹変の義純。普段は大人しい少年であるが、キレると血筋が出てしまうのある。
ふと、義純は廊下にいる他の生徒に気がついた。
リルハ・ルナティックとフラーテル・インファンティアがそこに立っていた。
リルハの手にはカメラが握りしめられている。彼女の事である。趣味のアレを満喫するべく、義純と先生の禁断の関係を覗き見してたのだろう。その証拠に、彼女の顔は妙に満足そうであった。
「あ、あの……。とても素晴らし……」
親指をおっ立てようとしたリルハに、容赦なく怒声が降り注ぐ。
「なんじゃ! 何見とんのじゃ! ワレ!」
「ご、ご、ごめんなさ〜い!」
リルハとフラーテルは一目散に逃げて行った。
廊下の奥に向かって唸る義純の背中に、先生は声をかけた。
「……あなた、随分たくましいじゃないですか!」
「……なんか、すみません」
義純は振り返り、そう言った。
放課後・視聴覚室。
暗幕の引かれたこの部屋に、十数人の生徒が集合していた。
部屋にはわずかにランプの灯りがあるのみ。互いの顔も良く見えないほどの暗闇である。何故こんな暗闇なのかと言えば、こちらのほうが気分が盛り上がるからだ。どこか秘密結社の集会を思わせるような雰囲気がここに漂う。仮面で顔を隠した生徒の姿も何人か見られた。
「……今日で三日が過ぎた」
銀狼の仮面を付けたクルードが言った。
「……娯楽図書は未だ解放される気配がない。……そろそろ俺たちも動くべきだ」
「では、予定通り明日決行と言う事で構いませんね」
それに答えたのは、白猫の仮面のユニだ。
「……仕方がない」
「みなさん、意義はありませんか?」
闇に潜む仲間たちは、沈黙を持って賛同を示した。
「一つ報告がある」
闇の中に上がる声。発言したのは、御風黎次(みかぜ・れいじ)だ。
「ゴーレムの調査に向かったリネンとユーベルの連絡が取れない」
提出された報告に、部屋の中がざわめいた。
「……失敗したのか?」
「ゴーレムの対策はどうする?」
「まさか、俺たちの事バレていないだろうな……?」
「みんな、静かにしてくれ」
葉月ショウ(はづき・しょう)の言葉により、ざわめいた部屋に再び静寂が戻った。
「黎次。一つ確認したい事がある」
「なんだ?」
「家電には連絡したのか?」
しばしの沈黙が流れ、勇気を振り絞って黎次は答えた。
「……俺、番号聞いてない」
「え?」
暗闇の中、気まずい沈黙が訪れた。
「……なんかごめん」
明日の決行に向けての会議が進む中、輪から離れている生徒の姿があった。
「マジでやる事になるとはねぇ」
不気味な兎のお面を装着してる、東條カガチ(とうじょう・かがち)が呟いた。
「仕方がありません。手はず通りにいきましょう」
隣りの風森巽は、手の中で何かを弄びながら答えた。
「ま、明日はよろしく頼むぜ、巽」
「……明日は風森巽(かぜもり・たつみ)じゃありませんよ」
「ん?」
「明日は仮面ツァンダーソークー1です」
そう言って巽は、手の中に合った仮面を装着した。
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