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【借金返済への道】美食家の頼み

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【借金返済への道】美食家の頼み

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 パラミタ猪からみんなを守っている人達はというと。

「穴は掘り終わりましたね」
「……うん」
 シャベルを持ち、穴から出てきたのは樹月 刀真(きづき・とうま)漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)だ。
「あとはカムフラージュして……」
 長めの木の枝を穴の上にかぶせていき、葉っぱを乗せ、土をかぶせて落とし穴が完成となった。
 丁度良く、猪が視界に入る。
「ここに来るまで待ちますか」
「……刀真が行く」
「へっ? 囮になれって事ですか!? 嫌ですよ。逃げ切れませんって」
 首を思いっきり横に振り、拒否をする。
 問答無用でパワーブレスが刀真にかけられる。
「いやいやいや、これだけじゃ追い付かれますって」
 今度も問答無用で赤いマントが手渡された。
「ぐっどらっく」
 良い笑顔でサムズアップを贈る。
「うぅ……行けば良いんですね」
 まだこちらに気が付いていない猪へと向かっていく。
「おーい! こっちですよー!」
 大声を上げるとこちらに気が付き一気に間合いを詰められる。
 赤いマントを見せるが効果は無く、どんどん差が無くなっていく。
「月夜! このマント利いてないんですけど」
「……やっぱり迷信か」
 叫びながら必死に走り、落とし穴へと駆けて行く。
 落とし穴の直前でジャンプをし、自ら落とし穴に落ちないようにする。
 刀真の着地と同時に猪は穴の中へと落ちて行った。
「肉げっと」
 月夜が光条兵器を手に落とし穴へと攻撃を仕掛け、仕留める。
 見事に猪の肉をその手中に収めたのだった。
「確かに肉ゲットで食費は浮くけれど……時々思うんだけどね、俺に対しての扱い酷いよね!」
 半泣きで刀真が月夜へ抗議するが、スルーされるのだった。

 スターシークスがキノコを採っている人達の外側に禁猟区を仕掛ける。
「これで猪が入ったら判ります」
「了解! 皆で力を合わせて、猪から皆を守ろうね」
 クライス・クリンプト(くらいす・くりんぷと)が右拳を突き上げ、元気に音頭を取る。
「おー!」
 ローレンス・ハワード(ろーれんす・はわーど)晃月 蒼(あきつき・あお)、スターシークスが応える。
 スターシークスは木の上で網を持ち、スタンバイをしている。
 他の3人は猪がかかるまで低木に身を隠し待機となった。
「この季節は美味しいものが一杯だよねぇ」
「そうだな。猪の肉も食材だしな」
 蒼の言葉にローレンスが頷く。
「もう! 確かにそうだけど、これは修行だよ」
 呑気な会話にクライスがつっこむ。
「それもそうだな」
「は〜い」
「来ました! こちらに向かって来ているみたいですわ」
 少し奥で張っていた禁猟区に反応が出たのだ。
 確かに、奥から駆けてくる音が近づいてきている。
 直ぐに目視が出来るようになり、クライスが立ちあがり注意を引き付ける。
 スターシークスが居る木の近くまで猪がやって来る。
 網が上から投げられ、猪の動きが少し止まる――が、しかしそのまま走って向かってくる。
「きゃ〜! 来た〜!!」
 蒼が叫ぶとクライスがバーストダッシュで上の枝へと飛び、降りながらランスを猪の首へと突き立てる。
 それに合わせてローレンスもカルスノウトで側面を切りつける。
 虫の息になった所を蒼がランスでもう一度首へと攻撃をし戦闘は終了した。
「うん、良い連携の修行が出来たよね!」
「……一度の成功で浮かれるな。あくまで勝利を収めるための布石にしかすぎぬのだぞ」
 顔を紅潮させていたクライスにローレンスが冷静に評価する。
「皆さん、無事ですわね? 怪我などはありませんか?」
「大丈夫だよ〜」
 木の上から下りてきたスターシークスが気遣い、蒼が報告をした。

「今回は宜しくー」
「ああ、こちらこそ。かっこいい女性で嬉しい限りだ!」
「宜しく! ……恭ちゃん、リナリエッタちゃんをガン見過ぎ」
「はは、リナで良いよ」
「あ、うん。リナちゃん」
 互いに挨拶を交わしているのは雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)伊達 恭之郎(だて・きょうしろう)天流女 八斗(あまるめ・やと)だ。
「ところで、この作戦はうまくいくのか?」
「さあー?」
 今やっているのはリナリエッタの提案で、猪の通りそうな場所に猪が食べそうな木の実を撒いておびき寄せるものだ。
 3人はかかるまで木の陰で談笑を続ける。
「リナちゃんが手に持っているのって、ジャタ松茸?」
「ああ、そうそう。ちょっとした実験だよ。実験」
 リナリエッタの左手にはチャック付きビニール袋に入ったキノコが1本。
 暫く会話をしているとのそのそとした足音が近づいてくる。
「来た!」
 小声で恭之郎が合図をする。
 猪は木の実の匂いを嗅ぎ、口へと運んで行く。
「今!」
 リナリエッタが猪の前足を正確な射撃技術で撃ち抜く。
 猪が倒れたところで、猪の口へとキノコを持っていく。
「……あら? 変化はないのね。残念」
 実験が終わったところで、恭之郎がダガーで頭部を狙う。
 八斗もメイスで恭之郎が傷つけたところをぶん殴る。
「猪の肉ゲットできたね! 料理するのが楽しみだなぁ」
 嬉しそうに話す八斗と、満足そうにしている2人だった。

「あそこ! こっちに気付きそうな猪発見でありますっ!」
 金住 健勝(かなずみ・けんしょう)が指差した先にはキノコを採っている人達の側で動く猪が居た。
「本当ですね。このままじゃ危険です。こちらに視線を向けさせましょう」
「でもどうやって?」
 一緒に居る菅野 葉月(すがの・はづき)ミーナ・コーミア(みーな・こーみあ)が首をひねる。
「それでは自分が行くであります」
「策もなく行くのは危険では?」
 すっくと立ち上がった健勝に葉月が声を掛ける。
「大丈夫であります」
 ごそごそと取り出したのはコウモリ傘だった。
「それでどうするんです?」
 不思議そうに葉月が見る。
「猪はまず目標を決め、それに向かって突進する習性があるそうです。そこで! 奴が突進してきた時にこの傘を開いて視界を塞ぐと! 猪は目標を見失って混乱し、引き返してしまうのであります。日本のテレビで見たので間違いないであります!」
「へぇ〜、じゃ頑張って!」
 ミーナが応援し、健勝は猪へと向かっていった。
 葉月はディフェンスシフトを使い、自身を強化しておく。
「あっ! こっちに気が付いたであります! このままもう少し惹き付けて……今であります!」
 猪までの距離、約3メートルの所で傘を一気に開く。
 しかし、猪は引き返すどころかどんどんこちらへと向かってくる。
「失敗でありますー!!」
 解るとすぐに囮をやろうとするが距離が短すぎて直ぐに追いつかれてしまう。
「お願いするであります!」
 そう言うと、横の草むらへと身を投じ猪の視界から外れる。
「はい!」
 葉月は突っ込んでくる猪の前へと飛び出し、ランスで攻撃を繰り出す。
 ミーナも雷術を唱え、当てようとするがなかなかうまくいかない。
「ぐっ!」
「葉月!!」
 足元にあったキノコに足を滑らせる。
 その好機を逃さず、猪が牙で腹の辺りを突いたのだ。
 更に、もう一撃食らわせようとする。
 すると銃声が響き、猪は頭を打ち抜かれ地面へと倒れる。
 草むらから出てきた健勝が光条兵器の拳銃で撃ち抜いていた。
「……助かりました……健勝君」
「大丈夫でありますか!?」
 急いで駆けよる。
「……誰が葉月をこんな目に遭わせたの?」
 静かにミーナが聞く。
「いや、猪でありますが……」
「葉月を傷つけた報いを受けなさい!」
 切れたミーナが所構わず火術をぶっ放す。
「僕なら……大丈夫ですよ! ミーナ!」
「ギャー!! 熱いであります!!」
 攻撃を下手に避けると木や他の人に当たりそうでかわせず、健勝が被害を被った。
「大丈夫! 大丈夫だから落ち着いて、ミーナ!!」
「……本当?」
「はい」
 葉月がミーナを抱きしめてやっと落ち着いたようだ。
 健勝は地面に転がり、自身の服に付いた火を消し事なきを得たのだった。

「お姉さま!」
 セリエ・パウエル(せりえ・ぱうえる)が素早く声を上げる。
「ええ! さけ! 猪来たから隠れて!」
「はいですわー!」
 幻覚から復活してキノコを採っていたさけを退避させたのは宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)だ。
「真っ直ぐこっちに向かってきます!」
「セリエはそっちに! 側面からの攻撃をお願い」
「はい!」
「それじゃ……始めましょうか」
 祥子は猪の真正面で牙の突進攻撃をぎりぎりでかわす。
 タイミングを図ったようにセリエが横から猪の首を上から下へと切りつける。
 祥子がかわした体制から流れるような体捌きで側面へと回り、セリエとは反対側の首をランスで突き、見事に仕留めた。
 猪が悲鳴を上げ、地面へ沈む。
「流石お姉さまです」
「セリエがばっちりフォローしてくれたからよ……あら? あの方はどこに?」
「えっ?」
 普通に会話をしていたはずなのに、いきなりかみ合わなくなる。
 祥子の焦点もどこか定まっていない。
「いけませんわ! ホイップちゃんを呼んできますわ!」
 助けられたさけが幻覚の症状を見抜き、ホイップの元へと向かった。
「お姉さま! しっかりして下さい!」
「何故いないの?」
 ふらふらとどこかに行こうとするのをセリエが抱きしめてとどめる。
 すぐにホイップの声が聞こえてくる。
「祥子さーん! セリエさーん!」
 ホイップが到着すると祥子がホイップの方へと向き、抱きつこうとする。
 セリエが抱きついて止めているが物凄い力で解かれてしまう。
「レイデ――」
「わーーー! お姉さまー!」
 誰かの名前を呼びながら必死に抱きつく。
 その名前を聞こえないようにセリエが大声を出し、かき消す。
 事情はともあれ、抱きつかれた体制のままホイップはさけへと匂い袋を渡し、祥子の鼻へと近付けてもらう。
「……あ、ら? 何で私はホイップに抱きついていて、セリエが私に抱きついている事態になっているの?」
 正気へと戻った祥子はキョトンとしていたが、思い出したらしく赤面していた。
「嫌だ、私ったらあの方をお慕いするあまり……セリエ有難う」
 祥子は誰の事かばれないようにしてくれた事に、ぽそりとお礼を言うのだった。