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なし

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秋の夜長にすることは?

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秋の夜長にすることは?

リアクション


最後の仕上げ

――ジリジリジリジリジリッ!!

 突如響き渡るサイレンに続いて、生徒会から火事の放送。
 思いもしないトラブルにバタバタと避難経路へ急ぐ生徒が多い中、は未だ課題と戦っている。
 突っ伏しては起き上がりと繰り返し、気合いで答えを埋めていくが、今はそんな場合ではない。
「あぁ、川の向こうでルミーナさんが手招きしている……」
 周りの騒々しさも聞こえないくらい、もうすでに別の世界へ旅立ちかけていたらしい。実に幸せそうな顔で再び机に突っ伏した。
(綺麗な花畑にある川の向こう側でルミーナさんが手招きをしている、きっとアレは俺を誘ってるんだ)
「…………っ!」
 呼びかけても揺すってみても、翔は精神世界から出てくることはない。いや、もしかしたらすでに燃え尽きて、川を飛び越えてしまったのだろうか?
(美人の天使に誘われているから行かないと、きっとあの川を越えた先に俺にとっての天国(ヘヴン)が待っているに違いない)
「……仕方ありません。わたくしが運ぶことに致しましょうか」
 各教室に生徒が残っていないか確認にきたルミーナは、虚ろな表情で課題をやっている翔を見付けたのだが、結局現実世界に引き戻せなかった。川向こうよりももっと近くにいるということに翔は気付くことなく、ルミーナの背中で眠り続けるのだった。



 避難してきた生徒たちは、グラウンドに出て驚いている者や「やっぱり!」と嬉しそうな声を上げる者まで様々だった。ススキの模造花やお団子が飾られ、スイートポテトという秋らしいお菓子に冷える夜にはぴったりの温かい豚汁。組み合わせはともかくとして、お腹を空かせて待っていたかいがあったほど美味しそうな料理が月明かりに照らされている。
 そう、先程のサイレンはこのお月見へ呼び出すための物だったのだ。
 そろそろ時間だとルミーナが促し、カンナがマイクの前に立った所までは良かったのだが、どうにもお月見の準備が整っているとは言いにくかったらしく、突如サイレンのボタンを押し、慌てて生徒会がフォローの放送を入れたのだ。
 けれども、そんな努力は虚しくカンナの照れ隠しだったのだろうと察している生徒もいて、理解溢れる生徒に恵まれたことはさぞかしルミーナは喜んだことだろう。当の本人には恥ずかしい限りなのだが……。
 音楽室で一緒だった面々も、この様子には驚いているようだ。1番意外な喜び方をしたのはシダかもしれない。
「本当だったな。これで今日の夕飯代が浮――なんでもない」
 雉里は蕎麦がないことを残念に思いながらも月下での対局に心を躍らせ、はどこから持ち込んでいたのやら零仙の酒に付き合わされてお酌をしながら2人でゆっくり月を眺めた。
 佑也は先程まで読んでいたロボット物のマンガを思い出して月のエネルギーについて計算してみたり、綺人クリスもゆっくり食事をしながら静かに天気に恵まれた空を見上げていた。
 そんな中で賑やかなのは、自分で作った飾りを見て欲しいのかグラウンドを飾るススキの前へ走る2人、沙幸美海だ。
 その模造花の中には、がいつのまにか本物のススキを混ぜ込んでいたようだが、どれも立派に作られていて模造花とは思えない出来映えだった。
「見てみて美海ねーさま! この辺りを、私が作ったんだよ」
「まぁ、りっぱな物ですわね。さすがはお勉強を抜け出したことはありますわ」
 ちくりとお小言が入るが、それは仕方のないことだとわかっていても、沙幸には辛い物だった。
「う……やっぱり怒ってるよね、ごめんなさい」
「わたくし、1人で寂しかったのですよ。とーっても沙幸さんの人肌が恋しいですわ」
 そう言うと、しょぼんとする沙幸に勢いよく後ろから抱きついて、磁石のように隙間無くぴったりと抱きしめた。
「きゃあっ! な、何をするの美海ねーさまっ!」
「お仕置きです。覚悟なさってね」
 人目をはばからず抱きついている様子は、お仕置きになっていないのではないかと思うくらい、見てるこっちが恥ずかしいものだった。
 しかし、体育館で走り回っていた面々にはそんな騒ぎも気にならないほど疲れていたのか、は少しだけ用意された椅子に腰かけて天をあおいだ。
「はー……夜風が気持ちおますなぁ」
「本当ねぇ……」
 目の前ではテーブルに並べられたお団子をいくつか取り皿にとって、が月を見上げていたルナに届けているけれど、自分たちはます休息が必要だった。
「先に1個食べたんだけどさ、美味いぜ!」
「ありがとうございます、ゼロ」
 まさか、こうやってのんびりお月見をすることになるとは思っていなかったルナだが、ゆっくりと食べながらゼロの好みを知ろうと、次第に月よりゼロが気になっている様子。
「……なに、なんかついてる?」
「い、いえっ! その、あまり食べるとメタボになるのでありますよ。もう夜も遅いでございますから」
 なんだそれと笑い声をあげられて恥ずかしくなりながらも、いつか自分が作った物もこうやって笑いあいながら食べられたらいいな、とささやかに願うのだった。



 さて、生徒会による誤報だと気付いている面々ももちろんいる。それは、家庭科室を利用していたレイディスたちだ。
 やっとの思いで勉強から解放されたクライスは心底安心したような溜息をついてローレンスと屋上にやってきた。エルネストはルミーナにカンナの分の月見団子を渡して貰えるよう頼みに行き、セシリアとレイディスは念のため小型飛行艇で火災が発生していないか探索し、そのまま屋上に上がってきた。
「んー……地上から見ても浮遊大陸から見ても、お月様ってのは綺麗だよなぁ。当たり前だけど、何か嬉しいや」
「同じに見えるが、ここから見えるものとは別物だそうだな。月と呼ばれているものも同じように満ちかけするが全く別物だ」
「もう勉強の話は聞きたくないよ……」
 レイディスとローレンスの会話に耳を塞いだクライスに苦笑しているとエルネストも戻ってきた。賑わっているグラウンドの様子もたまに感じながら、気が合う仲間同士のお月見を楽しむのだった。



「随分楽しんでるみたいね」
 思い思いのお月見を過ごしているところに、カンナが現われた。緊張しながら頭を下げる生徒に目もくれず、ただ真っ直ぐと星空を眺めている。
「地球から見えるものには、意味を持つものもあるみたいだけど……何人が知っているかしら」
「それでは、僭越ながら俺たちが簡単な説明を」
 英虎ユキノは、天文部だけあって星については得意分野だ。部室から持ってきていた星座盤を手に星空を解説しはじめた。
「今見えている星を地球の惑星に見立てるとたくさんあるけど……ちょうどこの位置に見えているのが、地球でいうところのジュノー。ローマ神ユーノーからつけられた名前なんだ」
「ローマ神話で女性の結婚生活を守護する女神とされていて、ユーノーの加護を期待する風習もあるのでございます」
 2人の話を聞いてピンと来たは、口を挟む。
「もしかして、ジューンブライドのこと?」
「そう、6月の女神とされるジュノーが由来でそう呼ばれるようになったんだからね。」
 珍しい星の名前と意味にセルファが感嘆の溜息を漏らす。
「へぇ、星に意味……かぁ。真人は知ってた?」
「セルファは、もう少し本を読んだ方がいいですね。あ、マンガはダメですよ」
 まるで知っているのは当然とも聞こえる真人の態度にむくれるセルファだが、真人は苦笑しながら星空を見上げる。
「もっとも、地球では神話など物語になっていることが多いんです。きっとセルファでもわかりやすいですよ」
「そういう楽しそうなお勉強なら頑張れるんだけどなぁ」
「知識はただ持つのではなく、それを理解し応用して、初めて価値があるのです。毎日続ければわかりますよ」
「……鬼」
 の膝に乗せられて月を見上げていた睦月は、お腹も一杯になりうとうとし始めていた。
「睦月、眠いならもう帰らせてもらおうか?」
「やだ。まだお月さま見る。だって、ねーちゃんと遊ぶんだ……」
 ごしごしと目を擦る手を取り、逆の手で頭を撫でてやる。いつもならもう寝ている時間なのに、ずっと起きて待っていてくれたんだ。
「……試験が終わったら、皆と遊びに行こうね」
 ごめんねと小さく謝った言葉は届いていたのかはわからないけれど、縁は睦月を抱き上げて一足早く帰らせてもらうことにした。
 そして、縁が帰ると挨拶に来たことで、大事なことをカンナは思い出す。
「あんたたち、10月30日も空けておきなさい……別に、無理にとは言わないけど」
「十五夜の月と十三夜の月はどちらも月見しないと片見月といって、良くないことと言われているんですよね」
 英虎がフォローのように言えば、カンナは携帯に視線を落としてしまった。
 その説明に耳を傾けていたシルバは、夏希を連れて散歩に出る。
「地球とは全然違うんだな」
「うん、あれは……星じゃないから」
 和傘を差し、艶のある黒髪は月光に照らされた夏希はなんて絵になるんだろう。寂しそうに見上げたその視線を追うように、シルバも満ちたパラミタの月を見上げた。
 シャンバラ地方についての文献を息抜きに2人で読んだけれど、色々な部分が地球と似ているのに全てが違っている。
「……いつか、本物の月を見せてやるな」
 今までだって旅を続けてきたんだ、ふらりと行ってみるのも悪くはないだろう。いつ叶うかわからない約束だけれど、明確でない未来まで一緒にいるのならこの約束は叶うはずだ。
「うん、楽しみにしてるね」
 たまにしか見れないこの微笑みがいつでも見れるように、シルバはもっとたくさんのことを教えてあげようと思うのだった。



 地球とそっくりな、それでいて全く別の星空。本来は星ではないけれど、季節により移り変わり月も満ち欠けを繰り返す。それを改めて見上げて不思議そうな顔をする人や、お月見を優雅に楽しむ人、食欲の秋となっている人。そんなみんなの様子を、は写真に収め始めた。
 イベントごとは盛り上がるけれど、勉強もしっかりやっている。その報告を聞いていたカンナは、溜息を吐いてススキと一緒に飾られた花を見る。それは、カンナが飾るように指示したハナトラノオという花だ。
「あんたたちにお似合いね」
 そう呟くと人気の少ない場所に移動するので、こっそりルミーナが花言葉を教えてくれる。
「望みの成就、達成と言う意味があるこの花を選んだのは、みなさんが頑張っているの知っているから。願いが叶うように見守っているという意味を込めてえらんだのですよ」
(やはり、会長は素敵な方だ)
 ルミーナの言葉に深く頷きながら、陽太は遠目にカンナを見る。1人佇む姿も美しいが、今夜は明るい月光が照らしているせいか儚げにも見えた。そんな羨望の眼差しなど受けていることに気付かず、カンナは携帯画面に夢中になっている。
 きっと、人前だからゆっくり月見を楽しめないのだと思った刀真は、出来るだけカンナがゆっくり出来るよう人を遠ざけようと必死に頑張っている。
 そんな中、ふとラルフがカンナの方を見れば、携帯を閉じ月を見上げる姿が見えた。携帯を見ていない姿も珍しいのに、その表情は年相応の少女の顔。
「勇――」
 静かに声を書けようとすれば、勇もまた気がついてシャッターを切っていた。
 いつもは自分たち生徒にカンナ様と呼ばれ恐れられているけれど、普通の女の子な面もある。これからも人前では素直になってはくれないだろうけれど、優しい一面を知って少し親近感を覚えた日だった。

担当マスターより

▼担当マスター

浅野 悠希

▼マスターコメント

初めましての方も以前お付き合い頂いた方も、ご参加ありがとうございます! GMの浅野悠希です。

まず、今回はお届けが遅れましたこと、誠に申し訳ありません。
諸々の都合があったとは言え、お待たせしてしまったことには変わりがないので弁解は致しませんが、
スケジュールや体調管理も含め、次回は遅れないよう活かして参りますので、これからもよろしくお願い致します。


今回は、素直になれないカンナ様とお月見をして頂くため、学校に居残って頂きました。
思い思いの秋は、過ごせましたでしょうか。

ルミーナさんのお手伝い、実はお団子を作るのは皆さんのリアクションを読んで決めました。
予定していたのはスイートポテトだったのです。十五夜は芋の収穫シーズンですからね。
また、舞台が地球ではなく見えている物も別なので、お団子はいいかな……と思っていました。
本当にお団子リクエストありがとうございます! よりお月見らしくなりました。
そして何故、お月見に豚汁なのかと言うと、母校では芋掘り→学校で豚汁という流れだったので芋繋がり。
あとは、寒い夜には温かいものも必要かなと思ったのと、頂いたアクションで笑わせてもらったからです。

私の場合は、ガイドを出した時点で細かい設定は決めていません。
みなさんのアクションを見た上で、採用してあげるためには話をどう組み立てればいいかを考えています。
なので、みなさんの自由な発想でお話を盛り上げて貰えればと思います。


今月は、毎週金曜日にガイド公開を予定しております。
蒼空学園や薔薇の学舎が舞台の非戦闘系となりますので、よろしければご参加くださいね。