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秋の夜長にすることは?

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秋の夜長にすることは?

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お手伝い、その後

 その後の厨房は、順調に作業が進んでいた。畑仕事に駆り出されていたエメがさつまいもを届けに来たことで、スイートポテト班の6人は盛り上がった。その理由は、女の子ばかりと言うこともあるようだ。
 このグループで率先して動いたのは白波 理沙(しらなみ・りさ)。普段から作っていることもあってか、腕前はかなり自信があるらしい。しかし、パートナーのチェルシー・ニール(ちぇるしー・にーる)早乙女 姫乃(さおとめ・ひめの)はロクに料理をしたことが無く、特にチェルシーは壊滅的な料理の腕を披露したようで料理としての戦力にはならないだろう。
 そんな3人とグループを組むことになったメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)もまた、料理が苦手。セシリア・ライト(せしりあ・らいと)フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)はそうでもないのだが、これでは6人もいるのに実質3人のようなものだ。
「それは……困ったわね」
 自分のパートナーがそれほどあてに出来ないこともあり、一緒にグループを組む子にかけていた理沙は、どう作業を分担しようかと頭を悩ませた。数を作らなければいけない以上、全員に何らかの作業を手伝ってもらわないと間に合わない。
「よし! チェルシーがさつまいもを洗って、メイベルがそれを蒸す。ちゃんと時間計ってね。それからアヴェーヌが裏ごしして、私とセシリアが材料を混ぜて形を作る。最後は姫乃、任せたわよ!」
 苦手な人でも出来るであろうことを頼み、作業の効率化を考えた理沙。その判断は正しかったようだ。
「チェルシーさん、お芋を持ってきましたわ。……ここは良い香りがしますわね」
「そうなんですぅ。うっかりしていると、ふかし芋で食べちゃいそうで我慢してるんですよぉ〜」
 包丁や味付けなど怪我の恐れや重要なポジションじゃなければ何とかなるもので、料理が苦手な2人は談笑しながら取り組む余裕が出来た。少しずつ担当にまわしていくベルトコンベア形式は、良かったのだろう。
 次に待ち構えるアヴェーヌも熱いさつまいも相手だというのに火傷もせずテキパキと裏ごしし、まだ温かいうちに理沙とセシリアの元へ届くのでバターと砂糖も馴染みが良く、どんどんと形作られていく。最後を担当している姫乃も、何度も手順を確認しながらという危なっかしさはあるものの、その慎重さのおかげで失敗はなかった。
「そういや、メイベルってさー」
「はい〜?」
 蒸し器の水を入れ替えて再び火にかけようとしたところで、理沙に声をかけられて目を逸らす。
「料理が苦手って言ってたけどさ、作ってあげたい人とかいないの? 好きな人とかさ」
「……え? す……えぇっ!?」
 女の子同士でいると、いつのまにか話題になっていることの多い恋の話。けれど、何の前触れもなく、しかも初対面の人から振られると焦ってしまうのも無理はない。
「あ、なーに? その反応はいるんだぁ」
 少し意地の悪い顔をする理沙に、全力で話題を変えてもらおうと両手を振ったのがまずかった。
「ち、違いますぅ! あの、その、そのような方は、あの……きゃああああっ!」
 水を入れ替えている途中だったメイベルは、手に持っていた蒸し器の1番底の部分を落としてびしょ濡れになり、それに驚いてテーブルに重ねていた蒸し器の上の部分にぶつかってガラガラと崩れ落ちた。
 そして、濡れた床に滑ってチェルシーが洗い立てのさつまいもを床にも空にもぶちまけてしまった。
 けれども、掃除をしている間も黙々と姫乃はストックされていた生地を焼き続けている。
「メイベル、ごめんねー!」
 両手を合わせて謝ってくる理沙は、どうやら火や包丁を扱ってないから油断してしまったらしい。楽しいお話はお月見までとっておくことにして、6人は黙って残りの作業を続けるのだった。



次に、月見団子を作ることになったのは烏山 夏樹(からすやま・なつき)を含む7人グループ。すでにお腹を空かせているエカテリーナ・ゲイルズバーグ(えかてりーな・げいるずばーぐ)は、一働きする前に食事がしたいと夏樹に頼んでいるのだが、団子を作る気満々なのかお預けを言い渡された。仕方がないので、鍋やらボウルやらかさばったり重たいものを取りに行く係になったエカテリーナは、夏樹が自分のために作ってくれる団子を楽しみにすることにした。
 そして六本木 優希(ろっぽんぎ・ゆうき)は料理が苦手というものの、団子の捏ね方には知識があり、かつ体力にも自信があるようなので捏ねる係を担当するおとになった。夏樹の提案で、抹茶にこしあん、そして吸血鬼のために血の味も用意しようということになり、懸命に捏ねている。そのパートナーのアレクセイ・ヴァングライド(あれくせい・う゛ぁんぐらいど)はというと、配膳を希望していた。
 しかし、どうやら各教室へ配膳するものではなかったらしく、料理も体力にもあまり自信のないアレクセイは洗い物など片付けをすることにした。すぐに作業台は真っ白になるし、汚れた物は水につけておかないと乾いて落ちにくくなってしまう。
 最後の方になるまですることはないかと思っていたアレクセイだが、掃除が苦手なこともあって手間取ってしまうことを考えると、中々に忙しい係だろう。
 ルーシー・トランブル(るーしー・とらんぶる)も山のように食べきれない団子を作るつもりだし、葉山 龍壱(はやま・りゅういち)も料理の出来る空菜 雪(そらな・ゆき)に教わりながら頑張ろうと思っていた。
 そんな中、さつまいもを届け終わったエメが興味深そうに団子班を見ていた。
「私にも、少しお手伝いさせてください」
 なにやら作って見たい物があると言うので、お手並み拝見と見守っているとなんとウサギの形を作ってしまった。
「凄い! エメさんって器用なんですね。けど……」
 鍋の前で茹でる係をしていた夏樹は、申し訳なさそうに呟いた。
「多分、茹でているうちに形が変わっちゃうと思います……」
 今回の団子は団子粉を捏ねて茹でるもの。もし蒸したりついたりして作る物だったなら可愛い形もありだったのが残念でならない。
「そんなに可愛いんですから、お飾りにするのはどうですかねぇ」
「ぜひ、そうしてください!」
 こうして可愛いウサギ団子の行く末も決まり、エメは安心して持ち場へと戻っていった。
 捏ねて、丸めて、茹でる。たったそれだけのことのようで、慣れないと難しい。そう実感しているのは龍壱だった。
「雪は何度丸めても同じ大きさになるのに、俺のはならないな……」
 最初は、球体にするのが難しかった。楕円形になってしまったり、出来たと思ったらひびが入っていて崩れてしまったり。それがようやくコツを掴んで球体に仕上げることが出来るようになったのに、大きさがてんでバラバラだった。
「ご主人様、そう焦らずに。丸く仕上げることが出来るだけでも凄いことですわ」
「こんなに難しいことを、いつもしてくれていたんだな……ありがとう」
「そんな、勿体ないお言葉です」
 少し頬を染めて深々とお辞儀をすると、お互いに顔を見合わせて微笑んでみる。何となく言葉がなくても通じ合うような雰囲気に、まわりはあてられてしまった」
「………………」
「……なんですかエカテリーナさん」
「夏樹にも通じるかなって」
(通じるも何も、お腹空いたしか言ってなかったじゃないですか)
一通り捏ね終わった優希は、今度は茹で上がった団子のぬめりを取る係となり、テキパキと動いている。
 やはり、他の料理に比べると比較的簡単な部類なので、このグループは安全に作り終えたようだ。



 さて、豚汁を作ることになっていたレミのグループはというと――
「それは、一体何を作ったのですか」
 顔を引きつらせるどころか脂汗まで浮かべて青い顔をしているに対して苦笑するしか出来ない。
 翔は、基本に忠実をモットーに美味しそうな豚汁を作った。マナも自分の味を出しながらも美味しく仕上げた。
「なんてことを……!」
 気絶していたが起き上がるほどの異臭、味見用にお椀に入れられたレミの豚汁は何を入れたのか紫色になっており、火から下ろしているにも関わらず泡が立ちこめていて、何だか人の顔のようにも見える。
 時折断末魔めいた声が聞こえるのだが、この泡が発しているのだろうか。

「豚汁と言うより……黒魔術ね」
 あまりにも壮絶すぎるためフォローも入れられないのか、マナまで眉を顰めてしまう始末。
「も、もう! みんな心配しすぎだって。ちょーっと見た目がアレなだけで大丈夫だから。ね!」
 説得力のないその言葉の前に、ベアは逃げ出したくなってしまった。胃腸も丈夫だし、いち早くマナの手料理が食べたかったこともあり試食兼毒味係に立候補したが、本当に毒味することになろうとは。
 先の2杯を食べていて、この一杯を食べられないとも言い出せず、ベアは覚悟を決める。
「………………」
 仲間たちに静かに見守られ、生唾を飲み込む音が響いた気がする。そしてとうとう口をつけてしまった!
「!☆*〜@?※〃§〓ゞ∞」
「ベアっ! ベアー!? ちょっと、しっかりしなさいよ馬鹿熊っ!!」
 その後、レミの豚汁は危険物処理班により回収され、安全に廃棄されることとなった。
 これで生徒たちの安全は守られたと安堵するルミーナだったが、レミには自覚がないようで今度こそ絶対に食べて貰おうと心に誓うのだった。



 そして、料理も完成したところで一般生徒より早く外に出ることが許されたお手伝い組。
 朱華ウィスタリアはテーブルを運び出し、グラウンドに立食パーティが出来るようなスペースを作っていく。80人ほどの生徒が参加していると聞き、用意する机の量は半端じゃなかった。
「……あ、ウィスタリア。空を見てみなよ」
 今までずっと室内に、しかもご丁寧に外が見えないようにされていたので、毎日見慣れている星空も違って見える。明るい今日ならなおさらだ。
「雲1つない天気で良かったですね。これなら皆さんゆっくりと過ごせるでしょう」
 一足早く見ることの出来た空は、ルミーナのお手伝いを申し出た面々だけの特権。疲れを癒すように見上げていれば、遠くから恭司が声をかける。
「もう運んで大丈夫かー?」
「ああ、こっちの準備はバッチリだよ!」
 朱華が手を振り合図をすると、エメと一緒に料理が運ばれてくる。可愛らしく器に飾られたそれらに手を伸ばしたくなるのをぐっと我慢し、机に並べていけばパーティ会場として様になってきた。
 汁物は温かい物を提供したいからと配布スペースを作り、いつのまにかが取り仕切ることになっていた飾り付けの班も、気がつけば勉強から逃げ出した生徒で賑わい、十分グラウンドを飾る量が仕上がった。
 テーブルに料理に飾りにとほぼ全ての準備が整い、ルミーナが当初考えていたものよりもずっと豪華になった。
「あとは、素直になってくれればもっと素敵になるのでしょうね」
 苦笑するルミーナにつられて微笑む有志の面々は、数分後の催しの知らせを心待ちにするのだった。