First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last
リアクション
第4章
日も真上から少し下がり、風が少し出てきた午後。
暗雲が立ち込める事はなさそうだが、少しだけ雲が出てきたようだ。
皆はお昼を食べ終え、まったりとした時間を過ごしたり、またフットサルをやっていたりとそれぞれ楽しんでいる。
そんな中ホイップは1人、こそこそと他の人に見つからないように移動をしていた。
勿論、それで皆の目をごまかせるはずもなく、ホイップの後ろにはかなりの人が付いてきているようだ。
ホイップはジャタの森とは違うもう少し南側に行ったところの雑木林の中へと入っていく。
雑木林の中はジャタの森とは違い、暗く、陰気な感じを受ける。
紅葉する木よりも常緑樹が多く、鬱蒼と葉が茂っているので太陽の光があまり入って来ていないのだ。
土も踏みしめると固く、心地よいとはお世辞にも言えない。
木には蔦が巻き付いていることが多く、中には蛇も混じっているようだ。
慎重に歩みを進めていくと、光が差して開けた場所へと出た。
ここだけぽっかり木がなく、円形の広場の様になっている。
ホイップは更に足を運ぶ。
足を止めたホイップの前には何かがが地面に刺さっていた。
大分前からそこにあるのだろう、蔦が何重にも巻き付き、元がなんなのか良く解らない。
ホイップはその蔦を慎重に外していく。
背後ではエルがホイップに話しかけようか迷っていたが、何故だか出て行ける雰囲気ではなく、その背を見つめるばかりだ。
暫くすると蔦がある程度外され、それが杖だった事が判明した。
「うん、大丈夫だね……」
ぽつりと呟く、その声は安心している。
すると木の陰からホイップに近づく者がいた。
「ホイップちゃん……」
空京で宿屋をやっている青年だ。
その姿を見て、酷く驚いていた。
しかしすぐに納得した顔へとなる。
「……そう……だよね。来てないはずないよね」
「ええ、唯一の生き残りですから……気になりますよ」
「宿屋は大丈夫?」
「今日はバイトの子達に任せて、お休みです」
青年はふふっと笑う。
「そっか……」
暫くの沈黙。
その後、ホイップは杖をぽんぽんっと叩くと固く作られた笑顔で青年へと向く。
「戻りましょう」
無理に作った顔は青年も一緒で、なんだか痛々しい。
そこに意を決したエルが飛び出す。
「エル……さん?」
「じゃあ、ボクは先に宿へ帰ります」
青年は真っ直ぐに空京への道へ向かっていった。
「ホイップちゃん!」
「は、はい!」
雑木林の中からは緊張した空気が漂ってくる。
空気を読まず、何かが草むらから飛び出した。
「ホイップちゃんの事をもっと知りた……いったーーー!」
ロザリィヌが拾っておいたイガ付きの栗をエルの頭上から落としたのだ。
「ホイップ様は誰にも渡しませんわー!」
そう言うとロザリィヌはホイップに抱きつき、いやいやと首を振っている。
「え、ええ!?」
ホイップは赤面して固まっている。
「やっと私の出番ね!」
そう言うとずっと隠れて護衛していた小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)が轟雷閃で雷をまとわせた魔法のステッキ(金属バット)でロザリィヌをふっ飛ばし、お星様へと変えてしまった。
「魔法少女マジカル美羽のマジカルホームランのお味はどお?」
「いえ、美羽さん、もう相手の方はお星様になっていますから聞こえてないと思いますよ?」
ベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)が突っ込んだ。
この登場を機に、隠れて付いてきていた人の大半が出てきた。
「えっと……とりあえず、私達はいったん退散するね!」
沙幸がそう言うと、エルを除いて出てきた人達は雑木林の外へと向かっていった。
そして、誰も気がつくことが出来なかったが、2つの目玉が雑木林の奥からホイップを凝視していた。
■□■□■□■
2人きりにされてしまったホイップとエルは暫く沈黙していたが、それを破ったのはエルだった。
「あのね! もっとホイップちゃんの事が知りたいな」
「わ、私!?」
「うん、そう。とりあえず、少し歩こうか」
「う、うん」
2人は杖を後にし、雑木林の中へと入って行った。
「さあ、私達の出番ですよ! 手はず通りに行動を」
さっきホイップの前へと出て行かなかった幸が携帯に向かって話しかける事2回。
「了解!」
1回目は上空にいる歌菜。
「了解」
2回目は陣だ。
「……こんなところエルさんのパートナーに見つかったら……う、怖いから想像しないでおこう、そうしよう」
陣は携帯を切ったあと、1人呟くと持ち場についたのだった。
この3人、用意周到に準備してきたようで、ブラックコートを着用し、隠れ身を使い、完全に気配を絶っているのだ。
「ふふふ……秋には恋も実るものです」
幸はとても楽しそうだ。
エルと2人で暗い林を歩いていく。
「こうしてゆっくりお話する機会ってなかったから嬉しいな」
エルが笑顔をホイップに向ける。
「そういえば、出会ったときからずっとばたばたしてたもんね」
立ち止まって、お互い目を合わせると、気恥しくなってしまったのかホイップの方が目を反らしてしまった。
(チャンスは今ですね!)
後ろからこっそりついてきたデバガメリーダー幸が氷術を使い、見えないところで氷を大量に作る。
すると一気にこの辺りだけ気温が下がった。
「デバガメ1号歌菜お願いします!」
「うん!」
幸は急いで歌菜へと連絡を取る。
すると、上空にいた歌菜はホイップの頭上に小さな木の実を落とした。
「きゃっ! な、何!?」
頭を押さえ、ビックリするホイップ。
辺りを見回すと自分の足元に木の実を発見した。
「!?」
エルを見ていない今がチャンスと幸は目にもとまらぬ速さでエルにコートを渡した。
『彼女の肩に掛けてあげて気配りアピールですよ!』
何も聞かされていなかったエルは酷く驚いたが、コートに付いていたメモを読んで得心する。
(……暇だなぁ……。カガチさんから連絡もらってた要注意人物は倒されちゃったし。オレの出番……まさかこれだけ!?)
1人蚊帳の外状態のデバガメ2号陣は草むらの中で衝撃を受けているのだった。
「この木の実が上から当たったんだね……びっくりしたよ。それにしても、いきなり冷え込んできたね」
ホイップは木の実を拾って、エルの方へと向き直る。
するとエルは渡されたコートをそっとホイップへとかけてやる。
「え……? エルさんだって寒いでしょ? 私なら大丈夫だよ!?」
「女性を守るのは騎士の仕事だからね」
ウィンクを1つ。
(あれ? エルさんって今……ウィザードだったような……?)
ホイップの疑問は口から出る事は無かった。
「でさ、ホイップちゃんは、何でここに来たの? あの杖は一体……?」
「う……ん。ごめんね、話す事は出来なくて……。あの……その……もし話すことになるとしたら……そしたら皆に手伝ってもらわなくちゃいけない事態になると思う……」
少しうつむいて目を伏せる。
「大丈夫! 皆手伝ってくれるよ! 勿論、ボクもね!」
太陽の様な笑顔を1つホイップへとプレゼントした。
「えへへ、有難う」
エルに釣られてホイップも本当の笑顔を見せる。
「ホイップちゃん、今度は2人きりでデートしたいな」
「え、えっと……か、考えとく……ね?」
真っ赤になって小首を傾げながらの言葉にエルはノックアウトされてしまったのだった。
その様子はデバガメの3人と、こっそりついてきていたルディ・バークレオ(るでぃ・ばーくれお)に知られるところとなった。
First Previous |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
8 |
9 |
10 |
11 |
12 |
Next Last