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温室大騒動

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温室大騒動

リアクション


4.突入です

 既にもう何人かは、温室の中に入っていた。
 入り口の所でひしめき合いながらも徐々に中へと姿を消していく。

「さてと、じゃあ行ってきますか……」

 出雲 竜牙(いずも・りょうが)は温室の入り口を見据えた。

(マンドラゴラの亜種…? ってことは、接木したら増やせるかもしれないなぁ。学校にもあるし、試してみよう)

 イルミンで栽培してるマンドラゴラに接木してみる為、タネ子の茎(できるだけ細いもの)を切り取って持って帰ろうと竜牙は考えていた。

「一体どんな生物なんだろう……?」

 ごくりと唾を飲み込む。
 同じく、似たようなことを考えていた雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)も後に続いた。
 食虫花タネ子の根をゲットして、繁殖計画を開始しようとしていた。

(私がこの状況をもっと面白……じゃなくて、解決してあげるわぁ。きっとタネ子さん、寂しくて暴れてるんじゃなぁい? ならこのリナが繁殖させてあげるわぁ)

 不適な笑みを浮かべるリナリエッタ。

「……まずはぶっ飛ばして弱らせなくちゃ。根っこがあればそこからまたタネ子さんが生えてくるわね、きっと」

「えっ…」

 まるで自分の思考を読み取られたかのような言葉に竜牙はぎょっとし、リナリエッタを見た。

「ん? なんでもないよ〜」

 振り返った竜牙を、リナリエッタは笑顔でかわした。

  ◇

「管理人さん……無事だといいけどなぁ……」

 管理人室や周辺の聞き込みや調査を行っていた連中も、この温室に集まりつつあった。
 天城 一輝(あまぎ・いっき)もその一人で、大きな温室とケルベロスを交互に見ながら、管理人の安否を願っていた。
 一体彼はどこに行ってしまったんだろう?
 管理人室には痕跡無し。上の人間も所詮大人のする事と甘く見ているようだし……

「事件にでも巻き込まれたんじゃねえのか?」

 独り言のように呟いた、その時──

「うわああああ〜〜〜〜〜!!!!」


 突然。
 温室の中から悲鳴が聞こえた。

「管理人さんが! 管理人さんが食われてる!!!!」

 
 続けられた言葉で、その場にいた全員が、凍りついた。
 やがて。 

「──行か……なきゃ……」

 七瀬 瑠菜(ななせ・るな)は震える足を前に出した。

「行かな、きゃ……助けなきゃ!!」

 だが思うように足が動かない。

「どうして……どうしてタネ子さんが管理人さんを……!?」

 タネ子さんは動くものに齧りついちゃうけど、牙もないし、きっとホントはおなしい子なんだよ!
 管理人さんがいなくなっちゃったのだって、きっと何か他のわけがあるんだ! タネ子はきっと悪くない。なんとかして守らないと!
 そう思っていたのに──考えが根底から覆される!
 どうして──!?

「泣いてる場合じゃありませんよ! 早く助けなければ!」

 ケイティ・アルベイル(けいてぃ・あるべいる)が瑠菜の肩を押さえながら言った。

「とりあえず中に入って状況を確認しましょう、今は泣くよりも救助が優先です!」

 ケイティの強い言葉に、瑠菜は涙を目にためながら頷いた。

(……ヒーリング系音楽を魔法に乗せてタネ子さんに聞かせれば、大人しくなるかもしれない!)

 持っているバイオリンをケイティはぎゅっと抱きしめ、温室のドアを力強く開けた──

  ◆

 タネ子の三つの頭──巨大ハマグリのような物体が、温室の天井をゆらゆらと浮遊している。
 長く伸びた茎は、一体どこまで動くことが可能なんだろう?

 そして。

 そのうちの一つに……

 だらりと垂れ下がった人間の足。

 ハマグリに足が生えてるー! などと言って笑う者など、一人もいなかった。

「かんり……にん、さん……?」

 勇が口の中で呟いた。
 構えていたカメラが自然と下がる。

「管理、人……さ…ん……──ああぁああぁあああああああああ!!!!!」

 一斉にタネ子の側へと走った。

 管理人さんが喰われている! あれは見間違うことなく人間の──管理人さんの足だ!!

 草を掻き分け、根を飛び越え──だが、行く手を阻むかのように触手が立ちふさがる。

「くっ……!」

「ここはボク達に任せて、早く管理人さんを!!」

 真口 悠希(まぐち・ゆき)が叫んだ。

「ありがとうございます! お願いします!」

 ロザリンドが、ミルディアが、真奈が礼を言って走り去る。

「…さぁ……ここからが本番です!」

 悠希は蠢く触手を見ながら唇をきつく結んだ。