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温室大騒動

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温室大騒動

リアクション


5.攻撃します

「あは、あはは……本当に喰われてましたか…」

 レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)は引きつった笑みを浮かべた。
 笑い事ではないのだが、この状況ではもう笑うしかない。
 歯が無いなら多分食べられても大丈夫だし、きっと管理人さんも無事のはず。
 温室の植物が暴れてるくらいで排除命令とか…大げさだなぁと、呑気に温室にやって来たのだが……
 目の前に浮かんでいる管理人の力の抜けた足が、気持ちを萎えさせた。
 石を投げてみる。
 中々当たらない。
 レロシャンは辺りを見回し、手近なものをタネ子の根元に投げつけた。

 ……ヴァーナーだった。

「きゃふっ!!!」

 根にぶつかったヴァーナーは悲鳴をあげて、転がるように戻ってくる。

「なにぉするんですかぁ!!!?」


「一緒に戦いましょう!」

「へぇ? あ、は…はい……」

 勢いに押されて、頷くだけのヴァーナーだった。

  ◇

「……管理人さんを喰わはってた以上、処分は免れませんぇ」

 悲しそうな瞳で橘 柚子(たちばな・ゆず)は言った。

「覚悟しておくんなまし、可哀想どすが──」

(タネ子は温室で育てられてるから寒さには強くないんやないかな──ヒロイックアサルトで十二天将の天乙貴人に氷術でタネ子の周囲だけ気温を下げさせ行動を鈍らせるますぇ!)

 柚子は十二天将の1人で上神、儚げな印象をもつ美少女、天乙貴人を呼び出した。

「天乙! 氷術でタネ子の周囲だけ気温を下げさせ行動を鈍らせておくんなまっし〜!」

 天乙貴人が術をかけようとしたその時──

どごおおおおおおん!!!


 6連ミサイルポッド×4を発射させたアピス・グレイス(あぴす・ぐれいす)のパートナー、シリル・クレイド(しりる・くれいど)によって、近場にいた面々が爆風で吹き飛ばされた。

 勿論、天乙貴人もかき消える。

「ふふふふふ、怒涛の攻撃、タネ子さん覚悟だよ! あたいの前は危険だよ、いっけー!」

「ちょ、ちょっとシリル、煙が……」

 再度爆発!

 だがタネ子には、傷一つ付いていなかった。

「……!」

 アピスは煙の中をくぐり、少し離れると大きめの岩を持ち上げた。

「邪魔よ、退きなさい。退かなければ一緒に潰れるわよ! ──でぇい!!!」

 投げた瞬間。

 ぱくっ。

……タネ子に喰われてしまった。

 二・三度ハマグリをもごもご動かすと、不味かったのか思い切り吐き出してきた。
 アピスは慌てて隠れた。
 顔も目も無いのだが、不味い物を食わせたのはどこのどいつだと言わんばかりに首を持ち上げて動きまくるタネ子が、恐ろしくて──

「──出番だぜ、ジョージ! 悟狼っ!」

 突然。

 雪ノ下 悪食丸(ゆきのした・あくじきまる)が飛び出した。

「チーム【血盟戦隊ジャスティスブラッド】のデビュー戦! 行くぞっ!!」

 戦隊ヒーローの赤のスーツとマスクを身にまとった悪食丸が、飛び跳ねる。

「熱い拳で突き進むっ!! レッドブラッドッ!!」

 続いて銀のスーツとマスクを着た、パートナージョージ・ダークペイン(じょーじ・だーくぺいん)が叫ぶ。

「悪を断ち切る、シルバーブラッドッ!!」

 そしてもう一人のパートナー、黒いスーツとマスクを着た犬神 悟狼(いぬがみ・ごろう)が声を張り上げた。

「野生の弾丸、ブラックブラッドッ!!」

「血盟戦隊、ジャスティスブラッドッ!!」


 ポーズを決めた全員の掛け声が辺りに響き渡った。

「くらえっ! 爆炎波!!! ──…へっ?」

 いきなり目の前が闇に包まれる。

 暗い……なんだ一体?

 もごもごばくばく……

 腰や尻に感じる圧迫感。隣には同じように不思議そうな顔をしているジョージと悟狼の顔が、たまに漏れてくる光で映し出される。

 これは──…

「タネ子さんに食われちゃったよ〜〜〜!」

 外からの瑠菜の慌てふためいた声で、三人は我に返る。

「うわああああああぁああ!!」

 力を合わせてじたばたしまくったお陰で、なんとか吐き出してもらえた三人だった……

 ◆

「くうっ……だ、だめ……離してっ!」

 アリア・セレスティ(ありあ・せれすてぃ)は触手に捕まっていた。
 流石に討伐は可哀想なので、雷術を弱めに調整して弱体化を狙っていたのが甘かった。
 集中し狙いを定めて放つが無防備で触手の良い的になってしまう。

「どうしていつも……やだっ、やめて……いやあああああ!」

 クラスチェンジ中で非力のため、触手の良い玩具にされてしまう。

「んあっ!……ふああ!……だめえ!もう……あふぅ!……やめてえ!」

「………」

 少し離れた場所で、その様子を伺っていたクラーク 波音(くらーく・はのん)は真っ赤な顔をしながらそれを見ていた。

「え、エロいね…」

「うん……エロい……」

 横にいたプレナ・アップルトン(ぷれな・あっぷるとん)も同じ言葉を呟いた。

「はぁ、はぁ……もう……だ、め……制服が、溶かされて……ぁ、ゃ……いやあああぁ!」

「──今、助けます!」

 悠希が駆け寄ってきた。

「あっ……」

(なんて淫らな姿──……あうー触手凄いのです……け、決して期待してる訳じゃ)

 急に悠希は、その場から動けなくなった。
 妄想が速度を増す。

(お肉とか放り投げて注意を逸らすのがいいかもです……でもその間に変な所が見えちゃったらごめんなさい……うう。除夜の鐘も近いせいか煩悩がっ! ああ…ダメですボクは静香さま一筋なのに…)

「…そうだ! 静香さまの事を思い出して静香さまで頭を一杯にします!」

『やめて……助けて下さい、触手が……っ、あぁ…』

どしゅっ!!!!


 赤い霧が辺りを覆う。触手に襲われる静香はたまらなく……エロい!!

「はうー!?」

 血だらけの鼻を押さえている悠希の姿に恐怖を感じて、波音とプレナは駆け出した。

「怖い〜〜〜変質者がいるよ〜〜〜〜!! プレナお姉ちゃん〜〜」

「逃げる…逃げるんだよぉ、はのんちゃん〜〜〜〜」

 急に動き出した二人を見過ごすタネ子ではなかった。

「え?」

 いきなりハマグリの出現。

 そして──

 ぱくっ。

「……喰われた〜〜〜〜〜〜!!!!」


 二人の絶叫が木霊した。

  ◇

「何、鼻血なんて吹いてるんですか?」

 幻時 想(げんじ・そう)は呆れた口調で言った。

「本当は放っておいても良かったのですが、僕の魔技や魔剣の訓練をするのも悪くない…って思って」

(女なんてどうでもいいけど……)

 絡んでいる触手を魔法で払ってやると、アリアはその場に倒れこんだ。

「大丈夫ですか……?」

「あ、ありがとう」

 想は上着を優しくかける。

(他人にこうしているのも悪くないかも……いやっ、だが人を好きになって馬鹿を見るのはもう沢山だ…!)

 女性不審気味の想は葛藤する。

「…本当にありがとう……」

 手を握られ、想は自分の心が波立つのを感じた。

  ◇

「管理人さんは行方不明、タネ子さんは暴走……どうにかしないと大変な事になっちゃうわ!」

 リアクライス・フェリシティ(りあくらいす・ふぇりしてぃ)は触手の森を見ながら唇を噛んだ。

「んー、触手…。あれは新しい萌えの入口かのう?」

 パートナーのシュテファーニエ・ソレスター(しゅてふぁーにえ・それすたー)は、のんびりとした口調で呟く。
 そしてもう一人のパートナーエステル・カヴァデール(えすてる・かう゛ぁでーる)がうっとりた声を出した。

「触手……エロいわぁ。これは楽しい事になりそうなヨカン…ですかぁ?」

「とにかく、攻撃いくわよ!」

 リアクライス以外の二人は、しぶしぶ返事をした。

「──ステフ、当たってないわ、ちゃんと狙ってよ!」

 シュテファーニエは面倒くさそうに答える。

「狙い? そんなのどこ狙ったって当たる時は当たるし当たらんもんは当たらんじゃろ…エステルー、そこにおると巻き込むぞー…まぁ別に巻き込まれても構わんがの」

「今、避けるですぅ!」

「……っ!? ちょ、どこ触ってんのよ!」

 避けたと同時にリアクライスにエステルは抱きついた。

「だってリアは戦闘できないでしょぅ? エステルが守ってあげないとぉ」

 意味不明にリアクライスにべたべた触り、触りすぎだと突っ込まれると、守っていと言い張るエステル。

 そして。

 蠢く触手へとリアクライスを押し飛ばす!

「きゃああああ!!! ちょっと、なんでこんな事するの!?」

「よっしぃ! 狙い通りですぅ!」

「エステル、おぬしグッジョブすぎるのう……」

 もがけばもがくほど、沢山の触手に絡まれていくリアクライス。

「……っ、う……あ…」

「んふふふふ、いいわよぉリア、可愛いわよぉ〜…」

「エロい絵面じゃな……助けるのが勿体無いわ」

「──何で見てるだけなのよ! …っ、……助け、なさいよ!!」

「うーん、なんか助けるのが勿体無いわねぇ…」

「ステフのバカー! エステルのアホー!!」

 泣き喚くリアクライスに苦笑して、いつ頃格好良く助けに入ろうかと目で画策するシュテファーニエとエステルだった。

  ◇

「すっごい……」

 高画質デジタルビデオカメラを回しながら、どりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)は溜息をついた。
 なんてエロいんだろう。これが真剣に戦いを挑んだ戦士の成れの果てなんだ。
 どりーむは素直に感動していた。

 触手に絡まれた色んな人の映像は、保存版にしなきゃ☆

 自分に襲い掛かってくるタネ子の触手は、仕込み竹箒でばっさばっさ切っていく。
 恐れるものは何もない。
 目的は、触手が絡む姿をこの目に焼き付けるのみ!

「やだっ、どり〜むちゃん助けて〜」

 隣で、根や触手を魔法で攻撃していたはずのパートナーふぇいと・てすたろっさ(ふぇいと・てすたろっさ)が、いつの間にか触手に捕まっていた。

「いいわっ! ふぇいとちゃん素敵よ、こっち向いて!!」

 助けるどころか、更に興奮してビデオカメラで撮影し続けるどりーむ。

「ひ、ひどい〜」

 ふぇいとの泣き声が悲しく響いた。