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八森博士とダンゴムシの見た夢

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八森博士とダンゴムシの見た夢

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1.けしからんダンゴムシ

 ツァンダ東部から数キロ離れたところで、羽高魅世瑠(はだか・みせる)は退屈にしていた。
「ダンゴムシ、まだー?」
 パートナーのフローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)もまた、退屈そうに言う。
「さあね。どこかで油でも売ってるんじゃないの?」
「ねーねー、ムシさんやっつけてどうするのー?」
 と、同じく魅世瑠とパートナー契約を交わしているラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)が口を開いた。
「やっつけて……どうするんだ?」
 と、フローレンスへ振る魅世瑠。
「え、あたしに聞く? とりあえず、そこの穴に落として……」
 数メートル後ろ、ツァンダへ向かう道の途中に大きな落とし穴があった。巨大ダンゴムシもすっかり入ってしまいそうな大穴だ。
「痛めつけておしまい、でしょ?」
「だそうだ」
「あ! じゃあ、ラズ、ムシさんがいたくないようになおしてあげる!」
 無邪気にそう言ったラズを見て、魅世瑠とフローレンスは顔を見合わせた。
「やっぱ、自然に帰すのが一番だよな」
「うん」
 一方、大穴の中では魅世瑠のもう一人のパートナー、アルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)が待機していた。底よりも上方に作った岩棚の中で、恋人の弥涼総司(いすず・そうじ)と二人きりである。正確には、総司の胸ポケットに彼のパートナー、ガンマ・レイ(がんま・れい)もいるのだが。
「なかなか来ませんわねぇ、総司さん」
「そうだな。他の連中にやられてんのかもな」
 と、上を見上げる。薄曇りの空のせいで、心なし寒いように感じる。
「また大きくなったんじゃないか?」
 ふとアルダトの方を見て、総司は彼女の胸へ手を触れた。
「やん、総司さんったら……」
 と、身をよじらせて抵抗するアルダト。総司は彼女を後ろから抱き締めると、胸を揉む手に神経を集中させた。
「いいだろ、久しぶりなんだし」
「駄目ですわ。ダンゴムシが来たら、どうし……っ」
 艶っぽい声をアルダトがあげた時、地面が揺れた。

「やっと現れたな、ダンゴムシめ!」
 魅世瑠が勇ましくダンゴムシと睨みあう。だが、そこにいたのは一匹だけだった。それも三十メートルはあろうかと思うほどの、巨大なダンゴムシだ。
 彼女たちから放たれる殺気を感じ、ダンゴムシはわずかに後ずさった。
「ムシさん、わるいことはしちゃだめだよ!」
 と、ラズがダンゴムシへ適者生存を使用する。その圧倒的な威圧感に怯えたダンゴムシは、後方に逃げようとして気づく。
「逃がしはしないよ!」
 フローレンスの放った火術が迫っていた。逃げ場を失ったダンゴムシは何を思ったのか、丸まることもせず、前方へ強行突破!
「え、嘘っ!?」
 魅世瑠とラズは避けきれず、突き飛ばされて穴へと落ちた。

 一方、ダンゴムシは穴の前で立ち止まり、頭部だけ中へ入れる。大きな触覚が辺りを探り、様子を見ていた総司とアルダトへと近づいてくる。
 予想外の大きさに二人は動けなくなっていた。そして触覚がアルダトを察知する。
「きゃあ!」
 最も弱いところを突かれ、アルダトが悲鳴を上げた。それを合図に、総司がガンマ・レイを叩き起こす。
「何てことしやがる!」
 眠りから覚めたガンマは目の前に見たことのない顔を見て驚いた。
「おい、どうなってんだ!?」
 構わずに総司が引き金を引く。触覚に弾が当たると、ダンゴムシはすぐに頭を上げた。
 アルダトの前に立ち、なおもダンゴムシを狙う総司。
「逃げるなんてムシのくせに卑怯だぜ!」
 と、空へ向かって撃ちまくる。ガンマは状況を理解したが、それと同時に思う。
「目覚めて早々、これはないだろ……」

 地上ではダンゴムシが穴を通り過ぎて、ツァンダへと向かっていた。
 フローレンスは作戦の失敗を確信し、その場に立ち尽くす。
「あーあ、行っちゃった」

 SPリチャージが間に合わず、ガンマが弾切れを起こすと、総司は我に返った。
「怪我はないか?」
 と、ガンマを足元へ放り、アルダトを見る。
「ええ、大丈夫ですわ。総司さんの方こそ……」
 彼氏を心配する彼女に、総司はふっと微笑みを浮かべる。
「いや、俺は大丈夫だ」
 そして、熱く抱擁しあう恋人たち……。存在を忘れられているガンマは、ぼそりと呟いた。
「まるで悪夢だな」