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【2020春休み】パーティへのお誘い

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【2020春休み】パーティへのお誘い

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・料理コンテスト(設営編)


 二階の料理コンテスト兼パーティのメイン会場もまた、コンサートホールに劣らず広かった。設営開始時点では、テーブルも何もないため、よりそのように感じられる。
 その中で、参加者の数が多くても対応出来るだけの調理器具を運ぶのは骨の折れる作業だった。電気コンロ(IH)だけでなく、業務用炊飯器(五十合炊き)なんてものもある。
「これはこっちでいいのか」
 涼がエミカに確認を取る。コンサートの方も同時並行で設営が進んでいるはずだが彼女は最初、こちら側に来ていた。
「うん、そこ置いといて。この辺は厨房スペースになるからね」
 どうやら会場の三分の一ほどが調理場として使われるようだった。参加者は料理を作っている様子が見れるらしい。
「エミカちゃーん、テーブルはどのくらい出せばいいかしら?」
 アルメリアが呼び掛ける。
「とりあえず五十でお願いねー」
 女性陣がテーブルを並べていき、その間に男性陣が調理器具をトラックから運び出してくる。男手がこちらは少ないために、途中からは台車とエレベーターを活用になった。もっとも、運搬用のエレベーターの存在をエミカは知らなかったらしく、涼とにゃん丸が偶然に発見したのだが。
「えーっと、これで三十。あと二十ですぅ」
 メイベルが知らせる。パーティ用の円卓はそれほど重くはないものの、数が多い。それなりに時間もかかる。
「うん、いいペースだね。これなら食材届くまでに会場が出来上がっちゃうよ」
 エミカは上機嫌である。何もせずに眺めているだけかと思いきや、テーブル運びを率先してやっていた。
「ちょっと待っててねー」
 エミカがどこかに走っていく。と思うと、すぐに戻ってきてメイベルに何かを手渡した。
「なんですかぁ〜?」
「てーぼーくろーすだよー。これを敷いてってちょーだいな。なくなったらホールの入口に置いてあるからねー」
 白いテーブルクロスを手渡した。よくよく見ると、少ない人数ながらきちんと役割分担が出来ていた。セシリア、フィリッパ、アルメリアが一台ずつテーブルを運んでくる間に、メイベルがクロスを敷いていく。その一方で厨房も次第に出来あがっていった。
「時間は……七時半。食材が来るのが八時半だから、早いくらいだね。よし、テーブルが全部終わったらしばらく休憩!」
 エミカが宣言し、そのまま会場を出ようとした。
「俺達はどうすればいいんだ?」
 涼が尋ねる。
「二人ともお疲れーい、厨房は……うん、八割方大丈夫そうだねー。うん、女の子達と一緒に休憩でいいよ」
 気前よく言い放つエミカ。ただ、その後の言葉は気にかかるものだった。
「ま、今のうちに休んどいた方がいいよー。この後の食材運び、結構大変だからね」


            ***


 八時半になり、外に出る一行。
 ちょうど食材を載せたトラックが来るところだった。
「はい、集合ー!」
 スタッフが全員集められる。
 コンテナが開くと、そこには確かに食材があった。どうやらトラックもそれ専用らしく、中に入ると冷気が漂っていた。
「これ、どこに運べばいい? さっき上見てきたけど、冷蔵庫とかはないみたいだよ」
 鮮度を保っておかなければいけないため、このまま会場に野ざらしにするわけはないだろうと正悟は考えた。
「うん、会場に冷蔵庫はないよー」
「じゃあ、どうするのかな?」
 ちょうどそこに軽トラックがやってくる。荷台には業務用の冷蔵庫がいくつか載っていた。
「レンタルしたから、あれ持ってってね♪」
 そうは言っても、業務用冷蔵庫をそのまま運ぶのは簡単な事ではない。。
「これを上に持っていけばいいんですか?」
 早くに動いたのはクリスだった。
「そだよー。ほら、女の子がやるってのに男子がぼさっと突っ立っててどうすんの? 早く早く!」
 ぐいぐいと一人ずつ男性陣の背中を押していく。
「く……これはキツイな」
 さすがに一人で持っていくのは無理があった。並の力なら、一台につき四人がかりでやっとである。
「はいじゃー女の子達は冷蔵庫の準備に合わせて食材を運んでってねー」
 冷蔵庫の数に対して食材の量が多く、全部は入りきらない。料理コンテストが始まってから、会場の食材が切れそうになり次第ここから補充するという事らしい。
 機材搬入よりも時間が掛かりそうであり、到底九時半までに手の空きそうな人はいない感じだった。しかもエミカが用意したマニュアルはコンサートの方だけであり、料理コンテストの方は口頭で指示を出すしかないため、彼女が関係者受付を行うのも難しい。
 時刻は九時十五分、気が早い人ならばそろそろ会場にやってきてもいい頃だった。

            
            ***


:(パーティ! パーティ !楽しみだな〜。薔薇学の金持ちイケメンゲットするんだ〜)
 ちょうどそんな時に会場に現れたのは、にゃん丸のパートナーのリリィ・エルモア(りりぃ・えるもあ)だった。気分よさげな様子から、張りきってここまでやってきたらしい。
「ちょうど良かった。リリィ!」
 その姿を室内からガラス越しに見たにゃん丸が合図を送る。どうやら自分がスタッフをしている事は伝えていなかったようだ。そのままメインゲートから外に出て、彼女を引っ張っていく。
「……で、なんであたしが受付しなくちゃいけないのよ!」
 早く来ればたくさんの人と接する機会があるだろうと思っていたのだが、まさか手伝いをさせられるとは思ってなかったようだ。
「ほら、受付ならここに来る全男子とお話できるぞ!」
 話せるとはいえほんの一瞬の事なのだが、それでも多くの美男子と接する事には変わらない(と願いたい)ため、この場は承諾した。

 
 ちょうど二人がこのようなやり取りをしてる間に、ちらほらと人が空京フォーラムのメインゲート付近に集まり始めていた。時刻はもう九時半になろうとしていた。


・受付開始


「おはようございます!」
 リリィが受付に座って一人ずつチェックしている。この時、まだ食材の搬入に手間取っており、他のスタッフは見張りから警備巡回に仕事が切り替わったカロルくらいだった。
 入口は裏口も含めて全部で四つあるものの、二つは締め切っている。パーティ開始時間になったらそちらも開放するらしい。
 受付は二つのホールを繋ぐロビーに置かれた。ここはそのまま運営本部としても使われる。
「翔太さん、私は料理コンテストに出るので少々失礼します。一般会場は十一時みたいですので、申し訳ありませんがそれまでお待ち下さい」
「わかったよ。何を作るか楽しみにしてるよ!」
 小林 翔太(こばやし・しょうた)とパートナーの佐々木 小次郎(ささき・こじろう)がやってきた。しかし、翔太は参加者でないためまだ会場に入る事は出来ない。
(きゃー、佐々木小次郎!? イケメン!)
 待望のイケメン出現にリリィは興奮していた。
「料理コンテスト会場は二階になっております!楽しんで来てくださいねっ」
 満面の笑みで案内する。
「おはようございます……あ、料理コンテスト出るんだね?」
 次に現れたのはレミ・フラットパイン(れみ・ふらっとぱいん)だ。互いのパートナーが友人同士であることから、顔見知りではあった。
「うん、料理が趣味のあたしとしては腕の見せ所だからね」
 こちらはパートナーの鈴木 周(すずき・しゅう)とは一緒ではないようだった。それにはある理由があったが、それは他者の知るところではなかった。


            ***

「あれ、なんで寝てたんだ……?」
 周が目を覚ましたのは、一般開場になるくらいの時間だった。
「違ぇよ、料理コンテストに出るとかぬかしたレミを止めようとして、鈍器で殴られて気絶してたんだ!」
 そのまま飛び起き、自室を駆け出していく。
「パーティは確か十一時開場、だったよな? くそ、間に合うか!?」
 彼がこれほどまでに必死な理由。
 それは、パートナーのレミが壊滅的な料理の腕前だからであった。しかも当人に自覚がないというのだから始末に負えない。
 パーティ会場を地獄絵図のような光景にしないためにも、彼は先を急いだ。