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夜桜を見る前に

 桜井静香がパートナーのラズィーヤ・ヴァイシャリーの発案の元、『夜桜お花見会』の招待状を各校に出し、当日が来ていた。
 まだ日は、沈んでおらず、空京の桜植林特別スペースでは、テキヤの準備をしている者、静香達の特等席を作っている者、様々だった。
 その中に、百合園女学院の生徒清良川 エリス(きよらかわ・えりす)がいた。
 彼女は、静香にお花見を楽しんでもらいたい、静香に喜んでもらいたいという一心で、静香とラズィーヤの特等席を用意していた。
 大きな和傘や、茶室を想像させるような大きな幕。
 もちろん、静香達の食すお菓子にだって手は抜いていない。
「夜店の食べ物は味付け濃すぎるものも多いですよって、落ち着いて食べはることの出来る、料理を用意してきましたえ」
「エリス、早く準備を終わらせて、おやつにいたしましょう」
 パートナーの邪馬壹之 壹與比売(やまとの・ゐよひめ)が、準備が終わった花見席に座り、エリスが準備している姿を眺めながら言ってくる。
「壱与はんも手伝ってくれはると助かるんどすけどなぁ」
 軽くため息をつく。
「わたくしに手伝えとおっしゃるの? 仮にも女王の私に?
 エリスはもう一つため息をついて、もう一人のパートナーがいないことに気づく。
「壱与はん。ティアは、どこ行ったんどす?」
 ティア・イエーガー(てぃあ・いえーがー)の居場所を壱与に尋ねるが、壱与は気だるそうに。
「なんだか楽しそうに、含み笑いしながら歩いてらっしゃいましたから、何か企んでるんじゃないんですの?」
「不安要素は潰しておきたいんですけど、身内にいるとなると困りましたなぁ……」
 言いつつエリスは3度目のため息をつくのだった。

ラズィーヤ様一行ご到着

 パートナーのこれからの行動を不安に思っているのは、エリスだけではなかった。
 多分、今回参加する者の中で最も無事に終わってもらいたいと願っている人物、静香は、夜桜を楽しみにしながらもラズイーヤの上機嫌が不安でたまらなかった。
(「はあ、ついに今日になっちゃった。ラズィーヤさんが何をするかと思うとため息しか出てこないよ。けど、うちの学校の生徒や他の学校の生徒さんもたくさん来ているから、ボクが不安がっている訳にはいかないよね。みんなが、楽しめるように笑顔でいなくちゃ」)
 そんな静香の胸中を知ってか知らずか、傾き始めた夕日を眺めながら。
「静香さん。今日は天気もいいですし、寒くもないですし。絶好の夜桜観賞日和でしてよ」
 ラズィーヤはこれから始まる宴が待ち遠しくてたまらないように、瞳を輝かせ、笑顔で静香に話しかける。
「そうだね。いいお天気になってよかったよね。みんなが楽しんでくれるとボクも嬉しいし……」
「何を言ってますの、静香さん! 今日の主役は静香さんあなたでしてよ。桜の観賞会なのですから。姓に桜の文字をお持ちの静香さんが今宵の主役ですわ」
 ラズィーヤに熱く語られるが、静香としての本音は。
「そうだね。ボクも楽しむよ。だけど、主役がボクだけってのは違うかなあ。人生の主役はみんなそれぞれ自分でしょ。それに、今日だけの主役って言うなら、一番は夜桜だよ」
「静香さんの意見ももっともですわ。私、感動しましたわ」
「ほら、もう日が沈むよ。夜桜お花見会の開始だね」
「そうですわね。楽しい会にいたしましょうね……うふふ」
 ラズィーヤの微笑に不安をかられながらも静香は、みんなが今日一日を素敵な日にしてくれることを祈っていた。