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静香様とラズィーヤ様の夜桜お花見

 静香様とラズィーヤ様のお花見は、エリス達の作った特等席で行われた。
 和傘も飾り付けられ、夜桜の風情を醸し出している。
「綺麗だね。桜。ねっ、ラズィーヤさん」
「そうですわね。情緒というものを感じますわね」
 お互い桜の感想を言い合う桜とラズィーヤ。
 もちろん、二人の周りには不逞の輩を排斥するべく、白百合団の数名が警護していたが。
 神楽坂 有栖(かぐらざか・ありす)ミルフィ・ガレット(みるふぃ・がれっと)ロザリンド・セリナ(ろざりんど・せりな)、達だ。
 だが白百合団の武勇伝は有名なので、不逞の輩は今のところ現れていない。
夜桜お花見会も時間が過ぎ滞りなく終わりそうな時間になってきた。
 そんな時、ロザリンドがおずおずと静香に言った。
「あの……その……。桜井校長、もしよろしければ……時間がありましたらですが、一緒に散策できませんでしょうか?」
「夜桜の散策? いいね。じゃあいっしょに行こうか?」
「私達もご一緒していいですか?」
「あ! 俺も」
 有栖とミルフィも続き、静香が見たことのない蒼空学園の生徒も名乗りを上げた。
「キミは?」
「静香校長初めまして。俺は、蒼空学園の如月 正悟(きさらぎ・しょうご)。そちらの白百合団の方々に見張られてたんだけど害意はないって認めてくれたみたいだから、俺も一緒したいな」
 正悟が青年らしい笑顔を見せる。
「もちろん歓迎だよ。じゃあ、散策に行こう。ラズィーヤさん、ここはお任せしたよ」
「分かりましたわ。静香さん」
 にっこりほほ笑むラズィーヤを背に静香達は散策に出かけた。
「噂の校長は行っちまったのか」
「あなたは?」
 ラズィーヤが上品に尋ねるが少女は横柄な感じを崩さず。
シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)、こっちは、パートナーのリーブラ・オルタナティヴ(りーぶら・おるたなてぃぶ)、よろしくな」
「私に挨拶するならよろしくお願いいたしますくらい言ってほしいものですわね。わたくし、礼儀知らずは嫌いですの」
 とげを含んだラズィーヤの言葉。
「そんな無碍にするなよ。あんた、パラミダの歴史に詳しいんだろ。このリーブラのことについて知らないか?」
「知りませんわ。本物のリーブラと纏っている雰囲気が全然違いますもの。リーブラだのシリウスだの名前負けもいいところですわ」
「なんだとぅ!」
 ラズィーヤに殴りかかろうとしたシリウスに白百合会のランスが構えられる。
「名前負けと言われたくなければ精進するんですわね」
 それだけ言うと、ラズィーヤはシリウス達に興味を無くしたのか、抹茶を飲み始めた。
 シリウスは舌打ちしてリーブラと帰るしかなかった。
一方その頃、散策に向かった一行は、夜桜と星空の競演に感嘆の声をあげていた。
「ほらさ、百合園女学院の人と話すことって滅多にないし、校長となると話すのなんて無理だと思ってたんだ」
 そう言う正悟に静香は笑いながら。
「校長も生徒も一緒だよ。キミとはまたいろんな話をして、蒼空学園の話とか聞きたいな」
 静香は軽く首をかしげてかわいらしく言う。
 自然と正悟の顔が何故か赤くなる。
「静香様」
「何かな?」
 ロザリンドが遠慮がちな声で。
「夜の桜、綺麗ですね。来年も皆で一緒に見る事ができましたらいいですよね。その時は私と桜井校長との関係も少し変っていたら嬉しいのですが……」
「ホント綺麗。あのね、関係っていうのは見えないところでいつもめまぐるしく動いているんだよ。だから、変わらない関係なんてないんだよ。ね」
それを聞いたロザリンドは静香を抱きしめたい衝動にかられたが、理性でどうにか我慢した。
(「私、やっぱり好きなんですね……」
 静香達から少し離れた所で有栖とミルフィは夜桜に囲まれていた。
「白百合団の警備があったから、ゆっくり見物なんて出来ると思ってなかった」
 有栖が笑うのを見てミルフィも満足そうに笑うのだった。
 一方、ラズィーヤ組はラズィーヤを囲んで歓談が行われていた。
 「ラズィーヤさんって4月生まれだったんですね。私、ブリジットに教えてもらうまで、誕生日が4月3日なんて知りませんでした」
 橘 舞(たちばな・まい)が興奮気味にラズィーヤに言う。
「言って回ることじゃありませんから」
「たく、本当にツインドリルじゃなかった、ラズィーヤも素直じゃないわね。自分の誕生日を祝って欲しいなら、そういえばいいのよ。ちょっと過ぎてるけどね。私も分別はあるから、何歳の誕生日おめでとうとは言わないわ」
 ブリジット・パウエル(ぶりじっと・ぱうえる)が淡々と言うと、ラズィーヤも表情を変えずに。
「感性の低い方は残念ですわね。それと、私、イベントに私情を挟む趣味はございませんの。誕生日は関係ありませんけど、御礼だけは言っておきますわ。礼儀ですから」
「そう。なら、付け足しておくわ。私の誕生日は7月26日よ」
 ブリジットはそう言うと、
 ラズィーヤに背を向け、夜桜を鑑賞し始めた。
「ラズィーヤさん何をなさるおつもりですか?」
 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)がラズィーヤを問い詰めるが、ラズィーヤはにっこり微笑み。
「何も? 人助けをしたいだけですわよ」
「本当ですか~?」
「本当ですわよ。それにしても桜は綺麗ですわね。美しい日本の文化ですわ」
 ラズイーヤが桜が舞い散る姿を見ながら言う。
「桜って咲いてる時もきれいですけど、すぐ散っちゃうのも日本だと素敵だって思われてるんです。一瞬の美っていうんでしょうか」
「一瞬の美。美しい言葉ですわね」
「二十歳を超えている方が少なくて、お酒を飲み合う相手がいなくて寂しいですわ」
 神倶鎚 エレン(かぐづち・えれん)が愚痴る。
 実際今回の夜桜お花見会での未成年の飲酒喫煙は0だった。
 理由として一番大きいのは、パラ実の、羽高 魅世瑠(はだか・みせる)アルダト・リリエンタール(あるだと・りりえんたーる)フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)ラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)達の見回りだ。パラ実生でもしっかり良識を持っているのを自分たちで証明してみせた。
「夜桜綺麗です。みんなたたかったり、傷ついたりしているけど、この花弁が散る姿を見たら、平和になると思いませんか?」
 ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が、この世界の平和を祈る。
 桜がいつか散るように。夜が朝を迎えるように。戦いという日々がいつかなくなるように。
「……そうね」
 ラズィーヤがいつになくまじめな声で頷いた。