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退行催眠と危険な香り

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退行催眠と危険な香り

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18 :名無しの情報提供者:2020/05/16(土) 15:22:30 ID:1lUm1nng
実際に見てきた。以下特徴と感じたこと
・綺麗な空色のショートカット
・身長は低くて痩せてて、貧乳
・人当たりは良いけど、妙に優しすぎる
・あんま美人って感じじゃないけど、笑うと可愛い
・アロマキャンドル焚いてた

2.

 芦原郁乃(あはら・いくの)は紐の付いた五円玉を手にうろうろしていた。
 催眠術がブームになっている今、それを使って自分をからかうクラスメートに仕返しをしようと考えたのだ。郁乃は何度も催眠術に関する本を読み、復習もバッチリ、準備は万端である。
「郁乃、催眠術勉強してるんだって?」
 と、ふいに後ろから声をかけられ、郁乃はびくっとしながら振り返る。
「そ、そうよ。どこで聞いたの?」
 そこにいるのはまさしく郁乃の探していたクラスメート。
「さあね。そんなことより、勝負よ」
 と、クラスメートが紐のついた五円玉を取り出す。「どちらが早く相手に催眠術をかけられるか」
「う、受けて立つ!」
 郁乃もすぐに紐の先を持って、相手へ差し出した。
「えっと、私が三つ数えたら……どうしようか?」
「犬になるのは?」
 近くにいた他のクラスメートが提案し、相手が郁乃に向かって五円玉を振り始める。
「先手必勝よ。さあ郁乃、よくこの五円玉を見てー。いち、に、さん……!」
 郁乃も負けじと五円玉を揺らし始めるが、相手の顔が何故だか認識できなくなる。「犬になるのよ、郁乃」
 犬、イヌ、いぬ……犬?
「郁乃様?」
 彼女を探しに来た秋月桃花(あきづき・とうか)は、床に両手をついてお座りしている郁乃に目を丸くした。
「成功だわ! 本当に犬になっちゃった」
 勝負の行く末を見守っていた周囲が笑い声をあげる。
「わん!」
 と、吠える郁乃。「え、犬?」
 桃花が状況を理解しようとすると、郁乃犬は何を思ったのか、桃花へ飛び付いた。勢いよく床に尻持ちをついてしまう桃花。
「え、ちょっと、郁乃様!?」
 まるで本物の犬のようにぺろぺろと桃花の顔を舐めはじめる郁乃犬。よく懐いているのは良いが、しつけがなっていない。
 桃花は動揺しながらも、催眠術をかけたクラスメートへ言う。
「元に、郁乃様を元に戻してっ……!」
 クラスメートは不満そうな顔をすると、郁乃の顔をぐいっと自分へ向かせ、五円玉を揺らす。
「郁乃、元に戻るのよ。いち、に、さん……」
 それまで虚ろな目をしていた郁乃がはっとする。その様子にまた周囲が笑いだし、郁乃は首を傾げた。
「あれ? え、何があったの?」
 催眠術をかけるどころか、催眠術に踊らされた郁乃であった。

 トレルの元にやってきた神野永太(じんの・えいた)は、ソファに座るなり言った。
「あんまり、催眠術って信じてないんですが」
 トレルは構わずににっこり笑う。
「そういう方は多いので、大丈夫です。それで、ご用件は?」
「ああ、えっと……」
 と、永太は視線を逸らして言う。
「トラウマがあるわけじゃなくて、その、悩みっていうか」
「悩み相談ですか?」
「その……自分のことが、よく分からないんです」
 トレルが永太へ向かい合う。
「そうですか」
「好きな人が、っていうか……その、自分でもそれが本当か、とか」
「そういう時は、あまり考え過ぎない方がいいですよ」
 と、トレルは言う。永太はじっと彼女を見た。
「そうでしょうか?」
「はい。自分の気持ちが知りたいなら、まずはゆっくりと心身ともに休むことが大切です」
「休む、ですか。やっぱり疲れてるのかな」
 と、永太は溜め息まじりに頷いた。
「それでも心がもやもやするなら、またいらしてください。お薬を出すことはできないけれど、助けになることはできると思います」
 そう言ってにっこり笑うトレルを見て、永太もまた笑みを浮かべた。
「分かりました。ありがとうございます」

 永太と入れ替わりに部屋へ入ってきたのはキルティス・フェリーノ(きるてぃす・ふぇりーの)東雲秋日子(しののめ・あきひこ)要・ハーヴェンス(かなめ・はーべんす)だった。連れが二人もいるとは珍しい、と思いながら、トレルはソファから離れた椅子を指さす。
「お名前は?」
「キルティス・フェリーノです」
「今日はどういったご用件で?」
 トレルの問いにキルティスは要を指さす。
「彼の描いた絵が怖くて見られません」
「は?」
 指さされた要は何とも言えない顔をした。キルティスのトラウマは要の作り出す絵、それはとても恐ろしく、おぞましいものだと言うが……。
「ああ、キルティのトラウマってそーいうことなんだ」
 と、秋日子が呟く。
「えっと、じゃあ、そちらの方、お名前は?」
「要・ハーヴェンスです」
「要さん? あの、絵を見せていただけますか?」
 と、トレルは紙とペンを彼へ差し出す。キルティスはすでに目を逸らし、要そのものを怖がるかのように怯えている。
「あ、はい」
 要は少し考えると、描き始めた。
 数分後、出来上がった作品をトレルへ見せる要。ぱっと見ただけでは、それが何か分からなかった。というよりも、何かダークな雰囲気が漂っている。
「……要、この絵、どう見ても悪魔にしか見えないんだけど、何これ?」
「え、あの……悪魔じゃなくて、知り合いの守護天使を描いたつもりなんですけど……」
 彼の脳内で何が起きたのか、守護天使の翼らしきそれは刺々しく描かれ、表情も何か企んでいるような、悪魔の笑みにしか見えない。
「だ、だから怖いんですっ!」
 ちらっと絵を見ただけで背を向けたキルティスがそう叫ぶ。
 トレルはまじまじと守護天使らしき悪魔を見つめると、キルティスへ振り返った。
「でもこれ、すごく上手ですよ。芸術作品としてみたら、怖くなくなるんじゃないでしょうか?」
 秋日子が苦い顔をする。これが芸術? とでも言いたげだ。
「だってほら、細部もきちんと描かれてますし、芸術にはシュールレアリスムというもの、が……」
 言いながら再び絵を見て、ぱっと顔を逸らすトレル。彼女もまた、要の絵が持つおどろおどろしい雰囲気に打ち勝てなかったらしい。
「げ、芸術、ですか?」
 キルティスがそっと振り返る。
「いやあああああ! やっぱりトラウマです! 誰が見たってトラウマになりますよぉ!」
「そうですね……やめましょう」
 と、トレルは絵を直視しないように紙を取り上げると、くしゃくしゃに丸めてゴミ箱へ捨てた。
 秋日子と要が苦笑する。キルティスのトラウマは当分治せそうにない。