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吸血通り魔と絵画

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吸血通り魔と絵画

リアクション

5.

「モモちゃん!」
 戻ってきたヤチェルは何人もの女の子を連れていた。
「ヤチェルさん、おかえりなさい」
 と、モモ。やっぱり彼女は良い人だ、五人も女の子を連れてきてくれた……!
「って、あれ? 何でカナ君がここにいるのよ?」
 モモから少し離れたところで待機していた叶月は、目を合わせることなく言う。
「もうやめろ」
「え?」
 ぶっきらぼうな言い方しか出来ない叶月の代わりに、エルザルドが説明をする。
「モモちゃんが血を吸うと、相手は高熱にうなされちゃうんだって」
「そうなんです。私、言いそびれてしまって」
 と、申し訳なさそうにモモも言う。
「ほらな。やっぱり副作用があった」
 牙竜はそう言って得意げにする。口を閉じてしまったヤチェルの前へ、綺人が出た。
「女の子の血って、集めてどうするの? それと、女の子じゃなきゃダメなの?」
「血は絵の具にするんです。私のパートナーが、女の子の血は神聖だって思い込んでいて」
 と、俯く。その様子を見たセレンフィリティはときめきを覚える。あたしの好みのタイプ――!
 ヤチェルは決心すると、微笑んだ。
「みんなはここで待ってて。まだ人数、足りないでしょ?」
「あたしも協力するわ」
 そう言って、モモへにっこり笑いかけるセレンフィリティ。ヤチェルに対する対抗心がむき出しである。
「……あ、ありがとうございますっ」
 と、モモは頭を下げた。
 そして再び蒼空学園へ向かうヤチェルとセレンフィリティ、セレアナ。
 叶月もまた苛立つが、何を言ってもヤチェルの意思が変わらないことも分かっていた。
「それで?」
 と、エルザルドが叶月へ問う。
「ヤチェルちゃんを待つのかい?」
「……うん」
 叶月は頷いた。
「ところでお譲さん、俺と良いことしない?」
 と、モモへ近づくソール。
「え? あ、あの、血をくれるのでは……?」
 首を傾げるモモへソールは言った。
「俺が女に見えるのかい?」
「……え、でも」
 と、モモはヤチェルの連れてきた人たちを見渡す。一人、二人、三人……。
「五人、ですよね?」
「あ、わたくしは違います。吸血鬼さんに聞きたいことがあって来ただけです」
 と、瀬織。じゃあ四人? と、確認するモモを見て、クリスも人数を数えてみる。
「人型をとっている魔道書は、吸血鬼にとって吸血対象になるのですか?」
「それは……吸ったことがないので分かりませんが、なると思います。魔道書さんも血が出るでしょう?」
 そしてにこっと笑うモモ。
「アヤ、やっぱり間違われてます! アヤは女の子ではありません!」
 と、クリスが叫ぶ。モモは目を丸くしたが、納得した。
「それでは、三人ですね?」
「だから俺は女じゃないって――」
 喚くソールだったが、モモの目にはそう見えるのだから仕方がない。

「それは大変だ! ボクも協力するよ」
 と、鳥丘ヨル(とりおか・よる)
「ありがとう」
「モモっていう吸血鬼は、よっぽど腹ペコなんだね」
 呟いたヨルだったが、ヤチェルの耳には届かなかった。

「女の子発見!」
 と、立ち止まるヤチェル。
「え、何よ?」
 ステファニア・オールデン(すてふぁにあ・おーるでん)は思わず後ずさった。
「女の子の血が欲しいの。協力してくれない?」
「血、ですか? それは女の子じゃないと――」
「ダメなの。女の子の血は神聖なのよ!」
 即答されてしまい、コンラッド・グリシャム(こんらっど・ぐりしゃむ)は苦笑いをする。
「ただね、血を吸われると高熱が出ちゃうの」
「……それは、ちょっと嫌ね」
 と、ステファニア。高熱を出したら授業に後れを取ってしまうではないか。
「そうよね。ごめんね、ありがとう」
「え、ちょっと!」
 すぐに駆け出したヤチェルを見て、ステファニアはコンラッドへ言う。
「あの子、確かあれよね? ショートカット同好会の」
「松田ヤチェルさんですね。今日も暴走してるようだけど……」
 顔を見合わせた二人は、すぐに彼女の後を追った。

「ヤチェルん!」
「ルカちゃん!」
 話を聞いて駆けつけたルカルカ・ルー(るかるか・るー)へ、ヤチェルは言う。
「女の子の血がどうしても欲しいの。高熱が出ちゃうんだけど……」
「高熱くらいどうってことないわ。ヤチェルんの頼みだもの、断る理由はないでしょ?」
「ありがとう、ルカちゃん!」
 と、ハグする二人。ルカルカの協力を得て、ヤチェルは再び走り出す。

「吸血鬼かぁ。確か、吸われた人も吸血鬼に――」
「ううん、モモちゃんの場合は高熱を出すだけなの」
「え、高熱?」
 ミルディア・ディスティン(みるでぃあ・でぃすてぃん)は目を丸くした。協力するとは言ったが、まさか高熱が出るだけとは。
「やっぱり、嫌かしら?」
「んー、でも高熱くらいどうってことないでしょ。もうオッケーしちゃったし」
 と、笑うミルディア。

 リリィ・クロウ(りりぃ・くろう)は誰もいない教室でぼーっとしていた。
 季節が変わり、徐々に気温の上がってきた景色を横目に溜め息をつく。今更後悔したって遅いのだが、後悔せずには居られなかった。
 その様子を退屈に眺めるナカヤノフ ウィキチェリカ(なかやのふ・うきちぇりか)
「女の子の血が欲しいの。誰か協力してくれないかしら?」
 ふいに廊下から聞こえてきた声に、リリィがはっとする。血……? それって、それってもしかして、献血ですか!?
「はーい! わたくしが協力しますわ!」
 と、すぐさま教室を飛び出し、挙手をする。ナカヤノフも慌ててリリィの後に続く。何を考えているのか分からないが、一人で向かわせるのは危険だと直感したのだ。
 通り過ぎようとしていたセレンフィリティがにやりと笑った。

「血、ですか?」
「そう。ただ、モモちゃんに血を吸われると熱が出ちゃうの」
 橘綾音(たちばな・あやね)は少し悩む。ヤチェルは必至そうだし、高熱で済むのなら悪い話ではないかもしれない。
「分かりました。協力します」
 にこっと笑えば、ヤチェルが「ありがとう!」と、嬉しそうに声を上げた。

「吸血鬼さんが困ってるんだもん。協力するよ」
 と、筑摩彩(ちくま・いろどり)は言った。
「イグーも協力するでしょ?」
「……そうですわね。わたくしも協力して差し上げましょう」
 イグテシア・ミュドリャゼンカ(いぐてしあ・みゅどりゃぜんか)はそう言うと、ヤチェルの顔をじっと見る。
「ありがとう、二人とも!」
 と、喜ぶヤチェル。イグテシアは信じることにする、ヤチェルと吸血鬼のモモが穢れのない少女であることを。――もし、何か裏があろうものなら、絶対に許しはしない。
「でも血を吸った相手が熱を出しちゃう吸血鬼って、今まで聞いたコトないなぁ。モモちゃんだけなのかな?」

「じゃあ私も、その子に血をあげるよ」
 そう言った漆髪月夜(うるしがみ・つくよ)に、封印の巫女白花(ふういんのみこ・びゃっか)がびっくりする。
「え、月夜さんもですか?」
「ありがとう、そう言ってくれて助かるわ」
 と、喜ぶヤチェル。
 そんな彼女とは裏腹に、樹月刀真(きづき・とうま)は不安に思っていた。高熱を出すと知らされているのに、血を提供だなんて……。