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リアクション
小型飛空艇の中でレオンの話を聞いていた黒龍が、ふーんと頷く。
「それで、その新入生の軍団はどうなったんだ?」
「良い所までいったんだけど、在校生達にみんなやられた。兵士の数が同数なら軍事学校の在校生の実力は伊達じゃなかったぜ」
「その、恵琳も?」
「ああ、恵琳さんは最後に俺らを逃がすために、一人で相当な数相手に闘ってくれたんだ……でも多分……」
「成程な、それで逃げ延びれたのか」
「全員で華々しく散る事より、一人でも生き残る方が大切なんだってさ」
少し寂しそうに遠くを見つめていたレオンだが、突然、黒龍の肩を叩く。
「おい……!」
「なんだ?」
「あれ、オアシスだぜ?」
レオンが指差す先を黒龍も見るが、小さな点があるくらいしか見えない。
「本当であろうな? 実は蜃気楼とか言うオチは嫌だぞ?」
「信じろって! オレ、目だけはいいんだ!」
黒龍が無言で、小型飛空艇の操縦桿を横にきるろ、その横を並走するようにユニコーンに引かれた馬車が近づいてくる。
馬車に乗ったサイオニックの宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が黒いロングウェーブの髪をなびかせつつ、ニコリと二人に笑いかける。
「ハーイ! そこの新入生、食事なんていらない?」
「なんだ……?」
「在校生?」
「私は卒業生よ。二人共お腹減ってないかしら?」
祥子が両手に食料品を掲げると、レオンがゴクリと唾を飲み込む。
「そういや、卒業生が訓練の支援に来てくれるって聞いたぜ?」
「そーそー、腹が減っては戦は出来ぬよ?」
「待て、レオン……先輩よ、失礼だが、その袖長の服を少しめくってはくれないか?」
黒龍の言葉に、祥子が少し眉をひそめる。
「信じてくれないの?」
「この訓練はありとあらゆる状況を想定したもの、と聞いている。罠かもしれんであろう?」
「おいおい、先輩のご好意には甘えておくものだぜ? いっただっきまーす!」
レオンが祥子から簡素なクッキーのような食料を受け取り、口に入れる。
「はい、召し上がれ〜。あ、それと、オアシスには気を付けなさいよ? 敵対する立場の女性を襲って下着だけ奪っていく恐怖と屈辱の存在がいるみたいよ」
「あんたも被害に……?」
「……まさか」
そう言った祥子がチッと舌打ちしたのが見えたためか、黒龍が慌てて小型飛空艇を加速させ、祥子の馬車を置き去りにしていく。
食料品を口にほおばりながら、レオンが祥子の方を振り向いて手を振っている。
「どうどう!」
馬車を止めてレオン達を見送った祥子が苦笑いする。
「うーん、さすがにみんなそろそろ用心深くなってきたわね……これも梅琳の計画のうちかな?」
そう言って祥子が袖長の服を捲ると、赤い腕輪の傍に青い腕輪が二つ付けられていた。
「レオン……だったっけ? あの子はそんなに長くは生きられないタイプね」
祥子が馬車に積んだ食料品の傍に『しびれ粉』と書かれた小さな瓶がそっと備えられている。
「さぁーて、アタシもあと一つ、頑張って奪っちゃおう!」
エイエイオー、と手を元気に振り上げた祥子は馬車の手綱を強く握り締めるのであった。
キマク・オアシスの近くの荒野にて、新入生数名を相手に激戦を繰り広げているのは、フェルブレイドの橘 カオル(たちばな・かおる)と、剣の花嫁でナイトのマリーア・プフィルズィヒ(まりーあ・ぷふぃるずぃひ)であった。
「キミ達の実力みせてもらうわよ!!」
そう好戦的な台詞を残し、マリーアが両手で抱えた乾坤一擲の剣が唸りを上げて新入生二人をまとめて吹き飛ばす。
「チェインスマイト!?」
そう認識した瞬間に吹き飛ばされる新入生。
マリーアの攻撃を避けようとするも、カオルの奈落の鉄鎖が続けざまに新入生を狙う。
「強敵だ! 退避するぞ!!」
「あ、キミ達! 待ちなさいよ!! ホラ、カオル!? 追うわよ?」
「え……ああ、うん」
「何? その気の抜けた顔? ヤル気あるの?」
「ああ、うん……」
退避していく新入生達を見て、どこか気の抜けた声を出すカオル。
「(っとにカオルったら空回りしまくってるわね。これからもあるんだったら李少尉にちゃんと言ってらっしゃいよ?)」
そう言いたいマリーアであったが、今のカオルに言うのは少し酷か? と考えて口をつぐむ。
既にカオルの腕には赤い腕輪の傍に二つの青い腕輪が付けられている。
「あと一つで、任務終了なのよ? あたし、はやく終わらせてご飯おもいっきり食べたいなー」
「オレも腹減ったぜ……でも、それより梅琳に直接会って謝りたいんだ」
「新入生達の腕輪を奪取したら、引き渡す時に李少尉に会えるんじゃない?」
マリーアの言葉にカオルがパッと目を輝かす。
「そうか……それもそうだな」
頷き合う二人の傍にやって来るのはバイクに乗ったモンクの毒島 大佐(ぶすじま・たいさ)である。
「我は今腹減りの声を聞いた気がしたのだがな?」
ヘルメットを取り、フゥと息を吐く毒島。
「在校生?」
「シャンバラ教導団の生徒達が腹ペコで訓練をしていると聞き、暇なので商売でもして見ようかと思ったのだよ。因みに腕輪もない、そもそも団員生じゃないからな」
そう言い、バイクのサイドカーからトローリーケースをイソイソと引っ張り出す毒島。
「食料ならあるぞ。毒もない」
カオルとマリーアが毒島が開いたケースを覗き込むと、レーション、水、医薬品等が綺麗に並べ等ている。
「レーション? 随分本格的だな」
「軍の払い下げ品だ、賞味期限が近いからな、格安で販売している」
マリーアがラベルの無い小瓶を指差す。
「これは?」
「細菌兵器」
「……本当?」
「使ってみるか?」
こわばった顔でブルブルと頭を振るマリーアを見て、毒島が歪な笑みをこぼす。
「そうか、残念だ」
実際のところ、毒島もその小瓶の中身は何か知らない。商売に出発する前に部屋の片付けをしていたら偶然発見し、とりあえず詰めてきた物なのだ。
「じゃあ、オレは水を貰うぜ? いくらだ?」
水の瓶をカオルが毒島にかざす。
「100だな」
「た……高いな、本来の価格の3倍だぜ!?」
「橘よ、山小屋で販売される飲料水の値段を知らぬ歳でもなかろう?」
「手間賃てことか……」
しかし、この暑さのためかカオルはしぶしぶ財布を取り出す。
「毎度有りだな」
余談になるが、この訓練の最中に信頼性と実用性に富む毒島の商品はかなりの稼ぎを叩き出すことになり、後に彼女はシャンバラの生徒達の間で豪商人と呼ばれることになる。
ともあれ、気温は毒島の売上の如くメキメキと上がり、訓練はその実施期間の半分を超えようとしていた。
この時点で、在校生の3倍の人数がいた新入生達は既にその半数を失う事になっていた。
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