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リアクション
第二章:オアシスは危険が一杯!
シャンバラ大荒野の一角にあるキマク・オアシスはこの地域最大のオアシスであり、遊牧民らの貴重な水源となっている。(尚、キマクというのは遊牧民らを取り仕切るキマク家から取られている)
そのオアシスには新入生達が在校生の影に怯えつつも、喉の渇きや汗でベタついた体を何とかしたいと思い、フラフラと集まってきていた。
もちろん、そんな絶好ポイントを見逃す生徒はシャンバラ教導団にはいない。
オアシスの窪地に隠れたローグの相沢 洋(あいざわ・ひろし)と上空待機するメイドの乃木坂 みと(のぎさか・みと)のペアも、虎視眈々と新入生達を狙っていた。
「目標補足、狙い撃つ」
パワードスーツを着込んだ洋が額から滑り落ちてくる汗も気にせず、パワードレーザーの引き金を引く。
レーザーが注意力の落ちた新入生に見事に命中する。
「ぐっ!?」
断末魔の叫びと共にバタリと地面に倒れる新入生。
傍に居たもう一人の新入生が、慌てて倒れた新入生に駆け寄る。
「お、おい! 大丈夫か!?」
しかし、そう叫んだ彼も一瞬で氷漬けにされる。
上空で待機していたみとが汗を拭いつつ、降下してくる。
「全く、洋さまも人が悪いですわ。わらわは白い肌が黒くなるのは嫌ですのに、上空待機だなんて作戦を……」
文句を言いながら降下してくるみとに、洋のレーザーで狙撃された新入生が顔を上げる。
「くぅ……上からと木陰からか……」
「まだまだですわね?」
倒れた新入生の手足を更に氷術で氷漬けにして、動けなくするみと。
「ごめんなさい。腕輪は頂いていきますね」
新入生の傍にしゃがみ込んだみとが腕輪のロックを外そうとする。
「暫くは動けないでしょうけど、この暑さです。すぐに氷は溶けますよ?」
そう新入生に微笑むみと、その背後で先程氷漬けにされた生徒が火術の構えを取る。
「その赤い腕輪貰ったぁぁ!」
「えっ!?」
慌てて振り返るみと。
様子を伺っていた洋が咄嗟にレーザーの出力ゲインを最大にして狙い撃つ。
――バシュゥゥッッ!!
思わず目を閉じたみとだったが、火術を喰らった形跡はない。
「馬鹿な!! ……はっ!?」
続けて放たれた一撃が、氷漬けの新入生にトドメを刺す。
「ど、どういうこと?」
目をパチクリさせるみとを見て、思わず安堵の溜息を漏らしたのは洋であった。
「ふむ……最大出力で放てば……火術を相殺出来るものなのだな。貴重なデータだ」
銃口から上がる煙をフゥと吹いた洋がそう言って立ち上がる。
未だに放心状態のみとの傍にパワードスーツをガシャガシャいわせながら歩いてくる洋。
「これで腕輪は規定数集まった。帰還するぞ?」
「洋さま……今のは、助けて下さったのですか?」
「……レーザーの性能評価試験をしないとな」
洋はそう言って、みとの頭をワシワシと撫でる。
「……ありがとうございます」
顔をほんのり赤らめたみとの頭を、洋が少し強く撫でる。
そんな洋とみとの様子を横目で見ながら溜息をつくのは、バトラーのリアトリス・ウィリアムズ(りあとりす・うぃりあむず)であった。
「いいなぁ。僕も恋をしたら強くなれるかなぁ?」
オアシスの木陰に止めた小型飛空艇に体を預け、うーんと伸びをするリアトリス。
彼女の傍には青い腕輪をつけた新入生が一名、横になっている。
「あの……?」
「あぁ、まだ起きたら駄目だよ? 君、熱中症で倒れたんだから」
リアトリスは新入生の傍に突き立てたクレセントアックスに武器から冷気を放つアルティマ・トゥーレを行い、心地良い冷気を新入生に送ってやる。
「でも私、ここにいたら狙われるし……」
「僕はお手伝いだからよくわからないけどさ、訓練よりもまずは君の体を大切にしないと、ね?」
「……はい」
うんうんとニッコリ頷いたリアトリスは、水筒からおちょこ一杯程の水をコップに注ぎ、新入生の口元に寄せる。
その瞬間、彼女らの近くで銃撃音が鳴り響いたのであった。
リアトリスが驚いた顔でそちらを見やると、オアシスに接近を開始したナイトの佐野 葵(さの・あおい)と、ヴァルキリーでセイバーのルナ・レイトン(るな・れいとん)が走って駆け抜けていき、その背後をアーティフィサーセツ・キョウマ(せつ・きょうま)がハンドガンを片手に追いかけていた。
「あぅー、いきなりこんなことさせられるなんて聞いてないよー、軍隊って大変なんだね……」
黒髪のポニーテールを左右に勢いよく振り回しながら走る葵。
「オアシスで水浴びっていうのは魅力的な提案だけど、そういう考えの子を狙って罠を仕掛けたり待ち伏せしてる人がいるんじゃないかしら? ……って私、言ったじゃない!!」
葵の傍をバーストダッシュで走るルナが批難の声を上げる。
「だって、汗かいて気持ち悪かったんだもん!」
ビュンビュンとセツの放つ弾丸が二人の腰や顔の直ぐ傍を通過していく。
「とにかく! ルナさんが腕輪着けてるんだから、やられちゃ駄目よ!?」
「どっちにしても階級に興味がないんだから、水浴びさせてよ!! 第一、気配を殺して後ろからなんて卑怯よ」
ルナが後ろから追いかけてくるセツに叫ぶ。
「私の戦略よ、放っておいて!!」
そう反論するセツであったが、彼女の目は前を走る葵達ではなく、近くで商売をしていたフェルブレイドの神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)とウィザードのレイス・アデレイド(れいす・あでれいど)が売る魅力的な食べ物の方に向けられていた。
前日の訓練開始と共に基本的にオアシスから動かなかったセツなので、配給された1日分の食料で乗り切れる予定であったのだが、まだまだ育ち盛りのため微妙に足りず、今になってお腹と頭の狙う標準に確実なズレを起こしていた。
特に、翡翠達が売る串刺しにされた羊か何かの肉がジュウジュウといい音と匂いを立てているため、彼女はもう我慢の限界にきていた。
「皆さん、頑張って下さいね。しかし厳しいですね、この歓迎は」
のんびり呟きながら、コゲないように串を巧に返す翡翠。
「全くだ。この暑いのに、みんなよくやるぜ? 殺気だって、こえ〜よ」
翡翠の隣でレイスが串に刺した蛇を、火の上に置く。
「ちょっと待って下さい……レイス? それは?」
「蛇だぜ?」
「それはわかります。ですがそんな攻撃的な配色の蛇、食べれるんでしょうか?」
「翡翠、もちろん俺は食わないぜ? でも誰かが買うだろう?」
「あのね……」
頭を抱える翡翠の傍でじっと串刺しの蛇を見つめるレイス。
「先程もその辺の草で団子を作って、お客さんに怒られたでしょう?」
「ああ、なんでだろうな?」
本気で首を傾げるレイスに、溜息を漏らす翡翠であった。
「でも、今度は自信作だ!」
元気よく言ったレイスが翡翠に串刺しの蛇を見せる。
「一本下さい!」
ハッとした翡翠とレイスが振り向くと、目を血走らせて肩で息をするセツが立っている。
「ほらな?」
翡翠にドヤ顔を向けるレイス。
「違うでしょう? どうぞ、少し休んで体力つけて下さいね」
レイスを押しのけた翡翠が、セツに微笑みながら串焼きを渡す。
「ありがとう! これでまだ戦えるよ!」
串焼きを頬張りジーンと幸せそうに咀嚼したセツが、キリッとした顔で先程まで追走していた葵とルナの背中を見やる。
「頑張って下さいね!」
「コレはいらないのか?」
翡翠とレイスの声に頷き、勢いよく走りだしたセツであったが……。
――ズボッ!!
数歩進んだ所で謎の音を残し、翡翠とレイスの視界から消える。
「……」
「ヤツは判断を間違ったな」
引きつったままの笑顔で固まる翡翠の隣で、レイスが蛇の串をクルクルと回す。
そこにやって来るのは、サムライの朝霧 垂(あさぎり・しづり)である。
「ったく、オアシスは教導団だけのものじゃないだろ?」
ブツブツ言いながら垂はセツが忽然と消えた地点まで歩いてくる。
「あーあー、またこんなデカイ落とし穴掘りやがって……おーい、生きてるー?」
耳に手を当てて穴の中の反応を聞く垂。
その様子を興味津々にレイスが見物にやって来る。
「どうだ?」
「ああ、生きてるみたいだぜ」
レイスが垂の腕に輝く赤い腕輪をチラリと見やる。
「いくら訓練でこの土地を使うとは言え、オアシスは大荒野で行動する沢山の人々が使用するんだ。罠なんか設置して、関係の無い人々を巻き込んだらどうするんだよ、全く!」
「在校生なのに、後方支援なのか?」
「まぁな……トラッパーと超感覚で仕掛けられたオアシスの罠を探し出し、掃除(無効化)していく方が忙しいんだ。でも掃除が終わったら、水着に着替えてオアシスでのんびりと泳ぎたいな」
そうレイスに笑いかけた垂の目がふとレイスの羽にとまる。
「羽か……今、この穴に落ちたヤツを運べないか?」
「断る」
「言うと思った」
即答するレイスに苦笑した垂が、穴の中のセツに声をかける。
「今から助けてやるからな、もうちょっと待ってろ」
垂が汗を拭う。
「どっちにしてもオアシスで水浴びしなきゃならないみたいだぜ……」
垂が穴の壁面に手をかけて、ゆっくりと降りていく。
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