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【学校紹介】李梅琳式ブートキャンプ

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【学校紹介】李梅琳式ブートキャンプ

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第三章:闇に蠢く者達

 シャンバラ大荒野は、時折狼の遠吠えが聞こえるようなごくありふれた夜を迎えていた。
 地面が隆起して形成された谷の麓には仮設テントが設けられ、審判役の生徒達や情報分野に長けた生徒達が出入する訓練本部となっていた。
 簡素なパイプ椅子の背もたれをきしませたセイバーのゴットリープ・フリンガー(ごっとりーぷ・ふりんがー)が少し遠い目をしながら目の前のモニターを眺めている。
 今回の訓練においては、彼はオペレーターとして訓練本部に配属されていたのであった。
「懐かしいですね。私も当時は血反吐を吐きながらこの訓練をしたものです」
 モニター上では、各自の腕輪に付けられたコードが映し出され、その位置情報と、生存・敗北の文字が多数並んでいた。
 周囲に他の生徒がいない事を確認したゴットリープがタッチパネル式のモニターを操作する。
 彼のパートナーでもある『天津幻舟』と『綾小路麗夢』の横に示された『生存』の文字を見て苦笑いするゴットリープ。
「(ホントは在校生の僕が手を貸したりしたらマズイんだけど、今回だけは特別だよ)」
 ゴットリープはかつて自身が新入生として訓練を行った際に、親切な先輩の一人が教官には内緒で手助けをしてくれた事を思い出し、自分も可愛い後輩たちのために一肌脱がなくては、と決意し、こっそり彼女らに近づく在校生の情報を教えていたのである。
「(……と、また夜中を狙って夜襲をかける在校生がいますね、さて……)」
 ゴットリープが椅子から立ち上がるのと同時に、本部のテントに本訓練の審判役を務めているナイトのマーゼン・クロッシュナー(まーぜん・くろっしゅなー)と、機晶姫でセイバーの本能寺 飛鳥(ほんのうじ・あすか)が険しい顔でやって来た。
「お疲れ様です。どうしました?」
 マーゼンが少し疲れ切った顔でゴットリープを見る。
「訓練で不正行為を働いた者がいましてな」
 マーゼンの言葉にゴットリープの体がピクリと反応する。
「全く、在校生が新入生を装って訓練に参加したり、新入生を倒して手に入れた腕輪を別の新入生に不正に譲り渡したりする行為が多すぎる!」
「へ、へぇ……」
「不正行為に頼って訓練に合格したところで得られるものなど何も無い。反対に、自分の力を出し切って困難の克服に努めたならば、たとえ不合格となったとしても、得られるものは大きい筈だ。そうは思わないか?」
「え、えぇ……まぁ」
 ゴットリープが背後に映るモニターを気にしながら、マーゼンの言葉に相づちを打つ。
「発見した場合は、ただちに李少尉に報告、不正行為に関係した新入生を失格とし、在校生には罰を与えるように進言しているのだが……しかし今回の件はどう報告すればよいものか?」
 眉間に皺を寄せ、深い溜息と共に目を瞑るマーゼン。
 傍にいた飛鳥がマーゼンの顔を見て言う。
「あたしは失格とかそう言う問題じゃない気がする。倫理観がズレてるだけだよ」
「そうだな……あぁ、飛鳥はまた任務に戻ってくれ」
「了解! 腕輪を揃えた生徒の許に赴き、腕輪を手に入れたときの状況を質問するんだよね?」
「頼む。……それと」
 踵を返した飛鳥がマーゼンを見る。
「わかってるよ。規律に厳しいが、同時に公正な在校生として任務に当たれ、でしょ?」
「そうだ」
 頷いた飛鳥が軽やかなステップで本部から立ち去る。
「さて……」
 ゴットリープを見てマーゼンが呟く。
「君には、そんな彼女の処遇の対応をお願いしたい」
「彼女?」
「表にいる」


「暑い中お疲れ様です。元気になってくださいね」
「お、ありがとうございます」
 訓練本部に詰める在校生達に笑顔でコップにジュースを注いで渡して回るのは、サイオニックのオリガ・カラーシュニコフ(おりが・からーしゅにこふ)である。
「丁度喉渇いてたんだよねー」
 そう言ってコップを一気にあおる在校生。
「いかがですか? お味は?」
 カランと、地面に落ちるコップ。
 ゴットリープが訓練本部傍の別のテントを覗くと、奇妙な格好で固まった生徒達がいる。
「何しているんです? 彫刻ごっこですか?」
 一人の生徒が全身筋肉痛のように肢体をプルプル動かしながら口を開く。
「カラシニコフの銃弾をくらったような衝撃……」
「は?」
 マーゼンがゴットリープの傍に現れる。
「彼女の特製ジュースを飲んだ新入生および在校生が次々と病院送りになっているのだよ。だが彼女には悪意は全くなく、本部に連れてきたのはいいのだが、その処分に困っている」
「……はぁ」
 オリガが笑顔で二人の元にやって来る。
「いかがですか?」
「君はそれを自分で飲んだことがあるのかね?」
「ええ、以前、天御柱学院で特製ジュースを振舞ったときは「超能力に目覚めた」「死んだ母親と会ってきた」と絶賛のお言葉を頂きましたの。教導団の皆様のお口にも合うと良いのですけれど……」
「ちなみに、それの材料は?」
 ニコリと頷いたオリガが話す驚愕のレシピは、マーゼンとゴットリープをしばし呆然とさせる物であり、そのレシピは類似品を製造できぬよう静かに封印されたのであった。