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第8章 みんなで手芸くらぶ「糸と布とで織りなすものは」


「手の込んだ力作が続いた所で、ちょっとシンプルなPVを紹介しましょう。
 プログラムNO.9、『みんなで手芸くらぶ』」

 画面に、丸い刺繍枠に張られた真っ白な綿の布が現れた。
 左手が枠に添えられ、右手は黄色の糸を通した針を持つ。
 BGMには、オルゴールにアレンジをされたバッハの曲が流れていた。
 針が布の裏から通されて、糸を出す。糸は針に導かれ、形を作り出していく。
 映像がオーバーラップ。少し作業が進んだものに変わる。黄色の糸は形を作る。風に流れる女性の少し長い髪。
 また映像がオーバーラップ。ベージュの糸を通した針が動いて、形を作る。作ったのは顔の輪郭。
 オーバーラップ。顔の下に、オレンジ色と緑の刺繍。草花――いや、タンポポが数輪。
 オーバーラップ。物静かな雰囲気をたたえ、楽しそうに微笑む女の子の顔。
 筑摩 彩(ちくま・いろどり)のナレーションが入った。
「1本の針と糸から、1枚の布から、生まれる世界がある。みんなで手芸くらぶ」
 BGMが終わり、刺繍枠が外されると、隠れていた部分に文字が刺繍されていた。
「みんなで手芸くらぶ   手芸  >検索」


「シンプルですが、味わい深い映像でした。これを企画されたのは、部長さんですか?」
 差し出されたマイクに対し、彩は気まずそうに笑いながら「いいえ」と答えた。
「シナリオを考えてくれたのは、パートナーのイグえもんです」
「誰がイグえもんですか!」
 隣に座っていたイグテシア・ミュドリャゼンカ(いぐてしあ・みゅどりゃぜんか)はすかさずツッコんだ。
「すると、そちらも『手芸くらぶ』のメンバーなのですか? イグえ……えーと……」
「イグテシアです……わたくしは『手芸くらぶ』とは縁もゆかりもございませんでしたが、彩が少しばかりピンチと聞きまして、知恵を貸しただけです。
 もっとも、私は刺繍で風景画みたいなのを作れば、と言ってたんですが……」
「うん、目の前に布が来たら、何か電波が来ちゃってさ。せっかく考えてくれたのにゴメンね、イグえもん」
「だから誰がイグえもんかと……まぁ、形にしなければ落ち着かないほどの何かを思いついたというのなら、そちらを優先するべきでしょう。さすが部長、みごとな技でした」