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第10章 雪だるま王国「スノーマン」

「さて、スノーすなわち雪つながり。次のPVはストーリー仕立ての大作です。
 プログラムNO.11、『雪だるま王国』。
 今回の上映では、ネットやTVにてブツ切りで配信・放送されていた場面を順序通りにつないで流します。そして、そのストーリーが、ついに結末を迎えるとの事です」


 鈴の前奏の後、済んだフルートの音がクリスマスソングのメロディーを鳴らし始めた。
 雪が降りしきる街角。道の脇に作られた雪だるま童話 スノーマン(どうわ・すのーまん)
 そんな雪だるまに眼を止めた少女秋月 葵(あきづき・あおい)は暫く見つめた後に、
「寒いでしょ、はいこれ」
と、帽子やマフラーをかけてあげた。
 その後、少女が「ただいま」と帰宅すると、「おや、お前のマフラーや帽子はどうしたんだい?」と両親が問い詰めてきた。
「雪だるまがとっても寒そうだったから、あげちゃった」
「この子は何てばかなんだろう」
「雪だるまのところにすぐ取りに行ってらっしゃい」


「両親ひどすぎねぇ?」
「いや、雪だるまに防寒具くれてやる方がどうかしてる。親は間違っていない」
「お前、つまんねーヤツって言われた事ないか?」
「夢は夢だってさっさと分かった方がいいんだよ、本人の為にもな」

 両親に叱られた少女は、ふたたび街角に戻り、雪だるまと向かい合った。
 雪だるまが少女に語りかけて来た。
「優しくしてくれて、ありがとう。お礼に君の願いを叶えてあげるよ」
 少女は答えた。
「私、旅をしたいわ。いろんな所を見てみたいの」
 少女が歩き、雪だるまはそれに合わせて進んで行く。
 それに合わせて、背景が森、街、王宮などと移り変わる。
 そして、徐々に雪だるまは溶けて小さくなっていく。
 雪だるまはとても小さくなり、身に着けていた帽子やマフラーもボロボロになった。
 それでも二人は旅を続け、画面には春の訪れを告げる小さな花が写る
 人通りの多い街の中、ついに雪だるまは完全に溶けてなくなってしまった。


「……うぅっ」
「……ぐすっ。かわいそうだね」
「だから言っただろう、夢は夢だってさっさと気付けと……!」
「脚本書いたのはどこのどいつだ。ハッピーエンド以外俺は認めん!」
「くそっ……こんな見え透いた手に引っかかる自分がすげぇ口惜しい……」
「素直に感動しろよ、お前」
 観客席のあちこちから、押し殺したすすり泣きの声が聞こえてきた。
 が、その中にあってレイナ・ミルトリア(れいな・みるとりあ)はボソリと呟いた。
「失敗しましたね」
「? どうしてですか?}
 リリ・ケーラメリス(りり・けーらめりす)の問いに、レイナは答えた。
「多少くどくなったとしても、この場面ではやっぱり周りを完全に暗転させて、上からスポットライトを当てるべきでした」
 レイナもまた「雪だるま王国」の一員で、いま流されているPVには「特殊効果」で制作に参加している。
「あと、複数のカメラを別々の方向から同時に回して、葵さんにもっと緊張感や孤独感を与えた方が効果的でしたね」
「はー、ずいぶん本格的ですねぇ」
「前世紀の日本の映画監督が使っていたメソッドです。まぁ、カメラを一台しか用意できなかったのですから、言っても詮無い事ですけど」

 一方、このPVの監督を努めていたクロセル・ラインツァート(くろせる・らいんつぁーと)は、
(フフフ、完璧ですね)
と、周囲の反応に気を良くしていた。
(極限までに無駄を省いた構成、1カットごと1コマごとに積み上げていった叙情性の伏線、それらが真価を発揮する時がついに来ました。
 さぁ皆さん、これから迎える衝撃の結末に、存分に胸を打ち震わせて下さい。
 そして、深遠なるスノーマニズムをDNAと魂とにしっかりと焼き付けるのです!)

 涙を流しながら少女がボロボロのマフラーを拾い上げると――
 突然画面が暗転。


 暗い講堂の中、スピーカーから日比谷 皐月(ひびや・さつき)の声が響き渡った。
「このPV鑑賞会は、我々魔王軍が乗っ取った! これより魔王軍のPVを上映する! 各員、しっかりと目に焼き付けろ!」