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第6章 百合園サッカー&フットサル部「サッカーしようよ!」



「さて、次は少し華やかなコミュニティのPVを紹介します。
 プログラムNO.7、百合園サッカー&フットサル部」

 画面には、巨大なサッカー場が映った。隅の方に小さく、「『第一回蒼空杯サッカー大会記録映像』より」と文字。
 広大なフィールドの真ん中に群がる人の中からシュートが撃ち出される。砲弾のような勢いのシュートは、立ちふさがるディフェンダーの体を吹き飛ばす。さらにボールに追いついた者が、キックと、そしてスキル「遠当て」を重ねて威力を増大させた。そのパワーは、壁代わりに発生した氷塊さえ、粉々に打ち砕いて余りあった。
 爆発的な加速を得たシュートは、受け止めたゴールキーパーの体をも浮かせた。キーパーごとボールがゴールに叩き込まれる所を別なプレーヤーが後ろから支え、横に投げ出す事で点を取られる事を辛うじて止めた。
 場面が切り替わる。ガラ空きになったゴール前を、小さな人影が拙いドリブルで進んでいく。それに向かい、ゴールから飛び出してくるプレーヤーがひとり。直後、ドリブルしていた人影が煙に包まれ、ただでさえ小さなシルエットが幼児同然のそれへと変わる。
 応戦に来ていたプレーヤーが呆気に取られた瞬間、小さな小さな人影はその横を抜けた。蹴り出されたボールは、コロコロと転がってネットを揺らす。直後、小さな人影に次々と折り重なっていくプレーヤー。
 ──切り替わる画面。
 スパイクの靴紐を結び、立ち上がって彼方のゴールを見据えるのは芦原 郁乃(あはら・いくの)。足元のサッカーボールを蹴り出し、「バーストダッシュ」でドリブル。走り抜ける郁乃の姿にCG処理で残像がつく。映像が3〜4秒静止し、「小さい牙/芦原 郁乃」の文字が下に表示された。
 映像停止解除。郁乃、シュート。勢いの乗ったボールは真っ直ぐゴールに向かって飛んでいく。ゴールキーパーレロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)、「超感覚」「殺気看破」「先の先」「軽身功」で前に飛び出し、弾道上に飛び出し、「鳳凰の拳」でボールを殴り飛ばす。インパクトの瞬間、CG処理で周囲に衝撃波が飛び、同心円状に画面が波打つ。映像が3〜4秒静止し、「超攻撃的守護神/レロシャン・カプティアティ」の文字が下に表示。
 殴り飛ばされたボールを追うネノノ・ケルキック(ねのの・けるきっく)。転がったボールをトラップした瞬間、映像が3〜4秒静止し、「音速のファンタジスタ/ネノノ・ケルキック」の文字が下に表示される。
 カメラ目線で鋭い眼光をくれた後、ネノノはカメラに向かって「轟雷閃」シュート。直後、映像が停止、ネノノのナレーションで「共に掴もう、喜びを。百合園サッカー部」。
 画面全体に「百合園女学院サッカー&フットサル部」の文字が被さった。
 静止解除。カメラに向かってボールが飛び込んできて画面は暗転し、直後、夕映えに染まるグラウンドを郁乃、レロシャン、ネノノらが肩を組み、並んで歩いて行く後姿が映った。
「百合園サッカー&フットサル >検索」の文字が入った。 


「すげー」
「ボール止めた人間、死んでるんじゃないのか?」
「パラミタのサッカーってのはあんななのか……」
「命張る覚悟がなきゃ、ここじゃサッカーやっちゃダメなんだな……」
 横で交わされる感想を耳にしながら、ルキノ・ラウェイルはひっそりとツッコんだ。
(あれサッカーちゃうわ。サッカーの形をした別の何かやねん)

「百合園サッカー&フットサル部、ネノノ部長。一言お願いします」
 差し出されたマイクにネノノは答えた。
「このPVでは、サッカーを通じて分かり合える喜びを伝えたいと思いました。PVにも出ている郁乃さんとも、サッカーを通じて知り合ったんです……尺の都合もあったんでしょうけど、もっと色々お見せしたかったですね」
「ありがとうございます。では、芦原郁乃さんにとって、サッカーとは何でしょう?」
 話を振られた郁乃も答える。
「一言で言うのは難しいですけど……『きっかけ』だと思います」
「きっかけ、ですか」
「はい。運動音痴だった私ですが、サッカーの試合をきっかけにして新しい仲間や素晴らしい人達と出会えました。共に競い合い、高め会う事ができる百合園サッカー&フットサル部。女子の皆さん、一度遊びに来て下さい」
 ネノノも続けて、
「今のPVでは紹介しきれないくらいの楽しさと面白さがありますよ。見学も大歓迎、待ってます」

「はぁ……すげぇなあ、芦原さん」
 映像を見ていたマイト・オーバーウェルムは感嘆したように息を吐く。
 「確かに」と隣に座っていたルイ・フリードも頷く。
「あのドリブルがCG合成でないとしたら、見事な成長、いや、進化と言ってよいでしょうね。かつては運動音痴だったと聞いても、信じる人はなかなかおりますまい」
「……いや、本当の成長や進化はそこじゃねぇ」
「と、言いますと?」
「これだけの人の前で、大画面で堂々と『小さい』って言われてるのにあいつ怒ってないんだ」
 マイトの台詞に、ルイは瞠目した。
「……なるほど、それは確かに劇的な成長ですね」
「男子たるもの三日会わざれば、とは言うが……」
「いや、あの人は女の子ですが」
「さすがの俺も知らなかったぜ。サッカーってのはそんな力があったんだな……」
「『小さな牙』、ですか……」
「いや、いずれは『小さな英雄』にさえなると、俺は思う」
「その暁には、もう『小さい』なんてバカにすることはできないでしょうね」
「あぁ、例えどんなに背丈が低くてもな」

 いつの間にか、郁乃の表情が強張っていた。
「ちょっとあそこら辺に試合申し込んでくる」
 そう言うと、肩を怒らせてマイトとルイの座ってる方に向き、ノッシノッシと大またで歩き出す。
「ちょっと待って。ちょっと、郁乃さん、落ち着いて」
「ほら。あの人たち、あなたの事ほめてるんだからさ」
 ネノノとレロシャンが郁乃を羽交い絞めにした。

「……マイト部長が思うような成長はしていなかったようですね」
「そうみたいだな……じゃ、おれは先に失礼するぜ」
「? どうしたんですか?」
「いや、身の危険感じて急用を思い出したんでな」
「本音と建前が同時に口に出ています、部長」