天御柱学院へ

なし

校長室

蒼空学園へ

PV作ろうぜ!

リアクション公開中!

PV作ろうぜ!

リアクション



第2章 天御柱学院銃撃戦闘研究会「Gunner × Gunner」



「あー、客席のそこの方。鑑賞会はまだ始まったばかりです。香港映画じゃありませんので、NG集が流れても終わりというわけではありません。
 続いてプログラムNo.2、天御柱学院銃撃戦闘研究会PVです」

 スクリーンに映ったのは、天御柱学院校舎の裏庭、並木や植え込みに囲まれた広場である。
 その真ん中、地面に置かれた机を囲み、立っている6人の学生達。
 机の上には、様々な拳銃が並んでいた。全部で12丁。人数で割れば、ひとり2丁の計算だ。
 その中のひとり、天司 御空(あまつかさ・みそら)が口を開いた。
「さて、それでは皆さんには殺し合いをして頂きます」
 他の者達がうろたえているのに構わず、御空は言葉を継ぐ。
「各々好きな拳銃を二丁づつ取って行ってください。弾はそれぞれ8発。これより30秒後、状況を開始します。それではスタート」
 言った直後、御空は手近の自動拳銃を二丁手に取り、机の前から走り去って行く。他の5人も、思い思いに銃を取り、草むらや木立の陰に姿を隠す。

 ──白滝 奏音(しらたき・かのん)のナレーションが入った。
「行われるのは、銃撃戦闘研究会有志による模擬戦闘。いわゆるサバイバルゲームです。
 試合時間は1時間。
 参加者6人を3対3の2チームに分け、各員それぞれ、弾丸の8発入った拳銃を携行、弾丸の補給はなし。
 手足に被弾する接触達成2回、あるいは頭や胴体等急所に被弾する直撃達成1回でゲームより脱落。
 チーム編成は、Aが天司御空、藤堂 裄人(とうどう・ゆきと)柊 真司(ひいらぎ・しんじ)。Bが比賀 一(ひが・はじめ)クド・ストレイフ(くど・すとれいふ)ミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)
 先に相手チームを全員脱落させた方が勝ちです。
 なお、PV映像は記録映像を一部抜粋したものとなっています。同じ場所の映像を1時間もずっと見るのは疲れますからね。
 それでは、私達銃撃戦闘研究会の活動のひとコマをどうぞご覧下さい」──

 物陰に隠れる御空に、カメラが迫る。御空の眼がカメラに向いて、手の自動拳銃を掲げて見せた。
「ガンファイトで一番最初にやることは、何だと思いますか?」
「何でしょう?」
 問い返す台詞はルルーゼ・ルファインド(るるーぜ・るふぁいんど)のものだ。カメラは彼女が持っている様だ。
「やはり遮蔽物の陰の位置を確保したりとか、相手の位置を把握したり、でしょうか?」
 ルルーゼの答えに御空は首を振り、掲げている自動拳銃のスライドを引いて見せた。手元から「かちゃっ」と金属の噛み合う音が鳴った。
「初弾をちゃんと装填する事です。弾の出ない銃には意味はありません、絶対忘れちゃいけない事です」

 映像切り替わる。木立によじ登り、葉が生い茂る枝の中に位置を取るミリオンにカメラが近寄った。
「……あぁ、オルフェリア様は撮影も担当されているのですか」
「変わった形の銃ですねぇ?」
 オルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)の声が入った。どうやらこの映像を映しているのは彼女の様だ。
「あぁ、これですか?」
 ミリオンが手にしているのは、ライフルの銃床だけを取り外し、それをむりやりくっつけたような形の自動拳銃。
「ショルダーストックをつけているだけです。取り回しは多少面倒になるかもですが、ライフルみたいに構えて狙いやすくなるアドバンテージを取りました」
「拳銃でも狙撃ができるんですねぇ?」
「さすがに精度はライフルに譲ります。けど、戦場では僅かなアドバンテージが生死を分けることも珍しくはありません。
 見ていてください。あなたの為に戦います」


「キャ──────ッ!」
 観客の一部から黄色い声が上がった。
(美形ってのは得だねぇ……)
 観客の一部にイラッとした空気が流れた。

 映像が切り替わり、画面は裏庭全景を映した。
 広場を挟み、両側にAチーム、Bチームが陣取っているのがよく分かる。
「状況開始」
 白滝奏音の宣言。
 だが、銃声は鳴らない。
 また映像が切り替わった。カメラは地面に近い位置でじりじりと進み、同じように匍匐前進している柊真司に迫った。
 茂みの中を這い進む真司は、制服を脱いで迷彩柄のTシャツを着ていた。左手にはやはら迷彩塗装を施したラウンドシールド。
 不意に、右手の拳銃がカメラに向き、「……おどかすな」と息を吐いた。
「すみませぇん」
と、答える声は、サイファス・ロークライド(さいふぁす・ろーくらいど)のものだ。
「こんな風に、虫や蛇みたいに這いずっているのは、PV見る人には不恰好に見えるだろうな」
「いえ。そんな事はありませんよ」
「ならいいんだが……戦場では生き残ることが一番重要、カッコよさを追求するのはバカか達人のやることだ。上着を脱いだのも、制服の白さが目立つのを避けるため。魅せる動きが求められているが、俺にはいつものやり方しかできない。
 ……本当はスラックスも脱ぎたいんだが、カメラに映るというので自重した。
 このカッコつけが、命取りにならないよう祈るばかりだ」 


「脱げー!」
「生き残る為だ!」
「スラックスの白は目立つぞー!」
 観客席の一部から一斉に声が上がった。
(薔薇学の人間かな?)
(多分な)
 観客席の一部で、ヒソヒソと声が交わされる。

 スクリーンでは、ついに戦端が開かれた。
 一本の木立の横に、誰かの白い制服の袖が、ひらひらとなびいた。
 直後、銃声があちこちから鳴り始める。木立や壁に着弾すると、べっとりと水色の塗料がくっついた。
 奏音のナレーションが入った。
「実際には赤のペイント弾で本映像を記録しましたが、参加者への着弾時に残虐に見えるかも、ということでCGにて加工処理をしてあります。
 CG処理は、如月正悟氏に協力を頂きました。ここでお礼を申し上げます」

 映像が切り替わり、藤堂裄人のアップを映した。裄人は木立の陰に伏せつつ、無言で手元の拳銃をカメラに向けた。ジャムになっているのを手早く直し、少しぶっきらぼうに言った。
「ジャムっても怒らなくてもいい。怒る前に直せばいいんだ」
「戦場とはシビアなものね」
というサイファスの声にも、「あぁ」としか答えない。
 御空のサインを受けて、藤堂は移動を開始した。身を屈め、頭を低くして小走りに動く様は、いかにも不自由そうで、同時に訓練されている軍人、という印象があった。
 カメラはBチームを映した。画面に大きく映るのは、脱いだ制服を木の陰からヒラヒラさせていたクド・ストレイフ。彼は、弾着がべったりついたのを見て苦笑した。
「初歩的な牽制さ。みんないい反応しているねぇ」
「いいんですか? 相手チームの銃撃で身動きできなくなってるじゃないですか」
 その声はクドのパートナー、ルルーゼ・ファインドのものだ。
「そう。俺は銃撃受けてビビって動けなくなったんで、誰かがトドメ刺しに来ると思うんだよねぇ。
 進行ルートは察しついてるんだけど……そろそろかな?」
 不意にクドがカメラ目線のままで、離れた位置の茂みに無造作に銃を向けた。
 3発の銃声が、その手の拳銃から轟いた。直後、
「うぐっ……!」
「接触達成2回。藤堂、脱落」奏音の宣言。その結果に、「わお」と撃った本人も少し驚く。
「まさか、読んでらしたんですか?」
「向こうから来てもらう方が面倒くさくなくていいだろ? ま、さすがにキルカウントはできすぎていたけどねぇ」
「まったくです」
 クドの傍にある茂みから声がした。クド、すかさず飛びのきつつ、銃を連射。同時に茂みからも火線が飛び、クドの胴体に着弾する。
「直撃達成1回。クド、脱落」奏音の宣言。
 茂みから姿を見せたのは柊真司。クドの弾は、全てラウンドシールドで止められていた。
「なるほど、君は『隠れ身』が使えたんだねぇ?」
「相手があなたでしたからね。至近距離まで近づかなければいけませんでした」
「……この距離で実弾だったら、こんな盾貫いていたのになぁ。ま、仕方ないか」
 胸を青く赤く染めながら地面に大の字になるクド。
 溜息混じりに、ルルーゼが呟いた。
「詰めが甘すぎですわ……」
「3人の戦力の内、一度に二人も突入させるなんてなかなか大胆だね。御空君もやるねぇ」
 クド、そのまま欠伸をして「んじゃ、ちょっと死んでる」と寝に入る。
 と、その場に数発弾着。柊、ラウンドシールドで身を守りつつ、茂みの中に飛び込んでカバーリング。
 カメラは、ミリオン視点に切り替わった。植え込みの中を動くラウンドシールドに、的確に当てていく。とにかく火力を集中させてプレッシャーをかけ、足止めさせて比賀に仕留めさせる算段だ。動きが止まるラウンドシールド。が、何発目かの着弾で、盾がズレて茂みの中に落ち込んだ。
 ――!?
 樹下に気配。カメラも下に向くと、土まみれになり、仰向けになった柊真司がそこにいた。
 次の瞬間、ミリオンは両腕を広げて真司に向かって飛び降りた。
「何ッ!?」
 驚きながらも、真司は手にある自動拳銃のトリガーを数回引き、横に転がった。
 ろくに受け身も取れず、ミリオンの体が地面に叩きつけられる。 


「いや──────ッ!」
 観客の一部から黄色い悲鳴が上がった。
(うるせ──────ッ!)
 観客の一部が、さらに苛立ちを募らせた。

「! ミリオン!」
 オルフェリアの呼びかけに、呻きながらミリオンは体を仰向けにした。
「オルフェリア様……ケガは、ありませんか?}
「ないよ、大丈夫! 私よりも、ミリオンが……!」
「なら……良かった……」
 上を向いたミリオンの胴体には、水色の塗料がべっとりと張りついていた。
「……流れ弾が……樹上の彼女に当たらないようにしたのか……」
 少し離れた位置で片膝立ちになりながら、真司も思わず呆気に取られる。
 その時、弾かれたように真司の体が揺れ、地面に俯せに倒れた。
 背中には、水色の塗料が飛び散っていた。 


「やった──────ッ!」
 観客の一部から黄色い歓声が上がった。
(お前らひでぇ――――――――ッ!)
 観客の一部は心の底から真司に同情した。