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輝く夜と鍋とあなたと

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輝く夜と鍋とあなたと
輝く夜と鍋とあなたと 輝く夜と鍋とあなたと

リアクション

「えっ!? カマクラで鍋デートですか?」
『今日の夜、空京自然公園の広場でそういうイベントがあると友人に聞いてさ。俺の手料理も振る舞いたいし……どうだ?』
「行きます!」
『そう言ってくれると思ったぜ! じゃあ、19時に広場の入り口……だと混みそうだな』
「そうですね……」
『じゃあ、広場の近くに噴水があったろ? そこでどうだ?』
「わかりました、では19時に噴水で」
『おう』
 御茶ノ水 千代(おちゃのみず・ちよ)は恋人のセシル・レオ・ソルシオン(せしるれお・そるしおん)からの電話を切ると、いそいそとクローゼットへ向かった。
「どれを着て……あ、今はまだ9時前ですし……うん、ちょっとだけ頑張ってみましょう」
 服選びを手早く済ませると、千代は台所へと急いで向かったのだった。

 19時、5分前。
 千代とセシルは同時に噴水に到着し、そのまま広場へと一緒に歩いて行く。
 カマクラも確保すると、セシルは早速、持ってきた荷物をコタツの上に出した。
 手作りの餃子、手打ちうどん、海鮮、ご飯、とっておきの麦焼酎(蒼空酒造 鍋奉行)。
 海鮮は今日、千代に連絡してから市場を探しまわり、選んできた新鮮な魚介類。
 その魚介類も入った手作り餃子は野菜もたっぷり。
 ご飯はこの場で酢飯にし、ヒラメ、タコ、ズワイガニ、紋甲イカ、サーモンを一緒に巻いて、海鮮巻きずしになった。
 水炊き餃子鍋も同時進行で作っていく。
「こんなに沢山……」
「だってさ、千代、軍事訓練とかでハードだろ? しっかり栄養のあるものを作ってやりたかったんだ」
「嬉しいです! ちゃんと味わって食べますね!」
 鍋が出来あがると、焼酎を開け、乾杯する。
「これ……フルーティーでいくらでも飲めそう!」
「だろ! 鍋奉行って名前だけあって、どんな鍋料理とも合うしな! さ、食べてくれ!」
「ん……美味しいっ!!」
「千代のためだけに作ったんだからな、当然だ」
 味わいながらゆっくりと食べていく。
「本当にこの焼酎と鍋……よく合いますね」
「そうなんだよ! 分かってくれるなんて嬉しいぜ!」
 酒も進み、すでに2本目だ。
 まあ、主に飲んでいるのはザルのセシルなのだが。
 鍋が終わり、巻きずしも食べ終わると、締めとして、鍋の中に手打ちうどんを投入、しばらく煮込むと白くてつやつやしたうどんが出来あがった。
「うどんってセシルくんが作るとこんなにも美味しくなるんですね」
「そりゃあ……千代を想いながら打ったからな」
 直球な言葉が千代の胸を貫く。
 うどんも食べ終わると、千代は何やら鞄の中から取り出し、セシルに渡した。
「これは?」
 セシルは手渡された包みを開けると、そこには不格好だが、美味しそうなクッキーが出てきた。
「あの……形は悪いんですけど……お菓子なんて初めて作ったから……でも、味は大丈夫だと思いますよ?」
「え……千代手作りのクッキー?!」
 セシルの目は今まで見たことがないくらい輝いていた。
「うわぁぁぁっ、食うのもったいねー! このまま永久保存したい! 宝石箱に入れてずっと持ち歩いて、ふとした時に眺めたいー! って、でもそれやったら腐るよな! その方が勿体ねぇ……! いただきます!」
「どうぞ」
 千代はどぎまぎしながらセシルが食べ終わるのを待つ。
「……」
「も、もしかしてまずかった!?」
 セシルが無言になったのを心配して千代が声を掛けたが、まだ無言状態。
「なんか胸が一杯で言葉が出ないや。ホントありがとな千代。クッキーはなくなっても、この気持ちは一生忘れないからさ」
 どうやら感極まって言葉が出なくなっていただけらしい。
「そ、そんな! セシルくんの作った料理だって凄く美味しかったです! ありがとうございます! 料理って……セシルくんのならいくらでも入りそうです。あの……気に入ったのならクッキー、また作りますから」
「マジで!? よっしゃーーっ!」
 千代の言葉に思わずガッツポーズをとった。
「……なぁ、千代。今だけ、我儘きいてもらってもいいか?」
「なんでしょう?」
 セシルはコタツから少し出ていた千代の太ももに自分の頭を載せ、瞼を閉じた。
 いわゆる、膝枕だ。
 千代の膝の上にはいつもと違う、力の抜けたどこか疲れた顔。
「ごめん。なんか、少し休みたい。俺、いつも何かを目指して走ってるのが好きだからさ。今まで疲れたなんて思ったことなかった……」
 その言葉を聞きながら、千代はセシルの髪を軽く撫でていく。
 その手が心地よいのか、セシルの表情が少しだけ和らいだ。
「……でも千代。お前と出逢ってさ……お前の前だと、素顔になれてる気がする。知らなかった自分をたくさん見つけた。俺、無意識に頑張ってたのかな。休める場所を、探してたのかな……」
「そんな頑張って、前だけ見てるセシルくんが……好きですよ。それに私だってセシルくんといると休まりますから……お互い様です」
「そうか……」
 千代の言葉を聞き、さらに表情は柔和になる。
 その唇に千代がキスを落とした。