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伝説の焼きそばパンをゲットせよ!

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伝説の焼きそばパンをゲットせよ!
伝説の焼きそばパンをゲットせよ! 伝説の焼きそばパンをゲットせよ!

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 次第に風紀委員の腕章をつけた生徒が姿を見せる。購買の手伝いをするもの、購買部付近で立つもの、校内を見回るものと、それぞれの担当に分かれた。
「すみませんが、ここで何を?」
 風紀委員のリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)中原 鞆絵(なかはら・ともえ)は、購買部の前に立つ教導団の軍服を着た女性に声をかけた。
「私? 怪しい者じゃないわよ。空京大学の書類をこちらに届けに来たの」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、関係者用の身分証明書を見せる。
「そうでしたか。お手数をおかけしました」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は、身分証明書を確認すると、会釈して離れる。
「リカ、明らかに伝説の焼きそばパン目当てですよ」
「そうね。でもルールに反しているわけじゃないし、これ以上は何もできないわ」
「それはそうですが……」
「山葉校長が明日から何か対策を取るっていってるんだから、それに期待しましょ」
 同様に、風紀委員の黒木 カフカ(くろき・かふか)滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)は、高柳 陣(たかやなぎ・じん)と話していた。
「俺の出る講義は午後からなんだ。文句あるか?」
 風紀委員の2人は、それなら仕方ないとの顔になる。
「それよりさ、あそこの壁からガキが顔出してっけど、あれまずくねぇ?」
 高柳 陣(たかやなぎ・じん)の指差す先には、せいぜい中学生くらいの子が購買部の方を見ていた。乳白金のショートヘアは一見男の子にも見えるが、女の子の制服を可愛らしく着こなしている。
 陣が指を鳴らすと、女の子は3人の方を見て慌てて姿を隠す。しかし少したつと、また顔を出した。
「あっちの方が問題だろ」
 黒木 カフカ(くろき・かふか)滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)は「おーい」と早足で、女の子に向かって行った。2人が近づいて来るのに気付いた女の子は、スカートを翻して駆け出す。それを見て、少し離れたところにいた花京院 秋羽(かきょういん・あきは)ティラミス・ノクターン(てぃらみす・のくたーん)も、女の子を追っかける。
「4人か……まぁ、上出来だな。ティエン、つかまるなよ。後で焼きそばパン分けてやっからな」


 クロス・クロノス、神野永太、火村加夜、マクスウェル・ウォーバーグの4人に、葉月可憐とアリス・テスタインが到着すると、購買部の内外が沸き立った。
 紙袋から取り出された伝説の焼きそばパンが棚に並べられていくと、待ちきれない数人が購買部に近寄る。しかし藤井 つばめ(ふじい・つばめ)新風 燕馬(にいかぜ・えんま)ら風紀委員に「まだですよ」と言われると、大人しく離れるしかなかった。
「こんにちは」
 そんな購買部を訪れたのは、アルラウネに箱を持たせた多比良 幽那(たひら・ゆうな)だった。
「伝説の焼きそばパンを売るのはこちらですね」
「残念だけど、売り出すのは昼休みからですよ」
 断ろうとした藤井 つばめ(ふじい・つばめ)新風 燕馬(にいかぜ・えんま)を前に、幽那は首を振った。
「たった50個では、買えない人が可哀想です。だから買えなかった人向けに、残念賞を持ってきましたの」
 アルラウネが箱を開けると、ソースの香りが立ちのぼる。
「伝説の焼きそばパンほどではありませんが、それなりに満足してもらえるはず。これを無料で配ってくださいな」
 決めかねた風紀委員は、山葉校長に連絡を取る。「大丈夫だって」と許可がでると、幽那の焼きそばパンは箱から出して並べられた。
『マンドレイク焼きそばパン、最高のデビューになりそうね』
 幽那は自身の計画が上手く行くのを確信した。
「悪いっ! 遅れた」
 獣 ニサト(けもの・にさと)とパートナーの田中 クリスティーヌ(たなか・くりすてぃーぬ)が購買部に駆け込んできた。
「いえ、まだお昼まで時間がありますから。こちらを手伝ってもらえますか」
 火村加夜が、2人を招きよせる。加夜の指示に従いながらも、ニサトとクリスティーヌは、自分達が作ってきた焼きそばパンを購買部の中に運び入れる。
『易々と伝説のパンを食えると思うなよッ!』
 ニサト達が作ってきた焼きそばパンは、見た目と匂いこそ伝説の焼きそばパンとほぼ同じだが、コッペパンに挟み込んであるのは、焼きそばならぬ焼きうどんだった。つまり焼きそばパンと思ってかぶりつくと、途端に焼きうどんの食感が口の中を占拠してしまう。
『どさくさに紛れて、この焼きうどんパンを売ってやる。伝説の焼きそばパンが看板なんだから、飛ぶように売れること間違いなしだぜ。そして焼きうどんパンの売上げは、全て俺の懐へ! 笑いが止まらないぜ!』
 やがて昼休みの時間が近づいてくる。購買部の体制が整うと共に、移動喫茶エニグマ、伝説の焼きそばパン争奪実況中継の準備もできつつあった。
「そろそろね、ドレス」
「はい、綾瀬」
 購買部の前で待機している中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)は、パートナーで魔鎧の漆黒の ドレス(しっこくの・どれす)にささやきかける。
「せっかく山葉校長にチャンスを頂いたんですもの。これ以上ないくらいに活用させてもらいましょう」
「はい、綾瀬」
 昨日、風紀委員の打ち合わせが終わった後、綾瀬はチャイムの機械がある場所へと赴いた。そこでドレスのスキル情報錯乱を作用させて、昼休みのチャイムを5分早く鳴るように仕掛けておいた。無論、証拠を残すようなことはしない。
「それにね、ドレス」
「はい、綾瀬」
「授業をさぼるような人や、他者の危険を考えず、真っ先に買おうとする人を取り締まることができるはず。これは風紀委員の任務ともいえるはずでしょう」
「はい、綾瀬」
 ここでも黒い布に隠された目元は見えなかったが、口元には笑みをたたえていた。

『まだ昼休みじゃないのか……』
 健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)は、チラッと時計を見る。彼だけでなく、そわそわしている生徒が何人もいる。皆、目的は間違いなく伝説の焼きそばパンだろう。頭の中で購買部に向かう道を何度もシミュレートした。あとはチャイムと同時に駆け出すだけだ。
 また時計を見る。『あと5分か』と思った途端、チャイムがなった。
「えーっ!」
 叫んだのは勇刃だけではない。クラスの何人も、それどころか他のクラスからも叫び声が聞こえた。
 あわてて飛び出そうとする彼らを、教師が止める。
「おい、まだ昼休みじゃないぞ!」
「でもチャイムが……」
「時計を見ろ。5分あるだろう」
 よくよく見れば、教室の時計も腕時計も、そして携帯電話の時間表示も、昼休みの5分前だった。
「チャイムの故障だろう。良いから席に戻れ!」
 渋々、自分の席につく。他のクラスでも似たり寄ったりの行動が見られた。
 しかし購買部の前では違った。伝説の焼きそばパン目当てに集まっていた大学生などが、購買部に向かって駆け出した。一番乗りは宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)。黒髪を悠然となびかせて、購買部に歩く。
「焼きそばパン、1個ね」
 ほぼ同時に高柳 陣(たかやなぎ・じん)が飛び込んだ。
「焼きそばパン2つと、コーヒー牛乳とフルーツ牛乳」
 そんな2人に対して、藤井 つばめ(ふじい・つばめ)は、すまなそうに断った。
「まだ……昼休みじゃないんですが」
 祥子や陣を始め、購買部に集まった者から「チャイムが鳴ったじゃないか」と抗議の声が上がる。中には購買部に無理矢理押し込もうとする者もいた。
 その時、校内放送が流れた。

 「先ほどのチャイムは機械の故障です まだ授業中です」

 いつの間にか彼らの周囲を、風紀委員の腕章をつけた集団が取り囲んでいた。
「宇都宮さん、でしたね。そう言う訳なので」
 宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、右腕をリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)に、左腕を中原 鞆絵(なかはら・ともえ)に掴まれていた。 
「ちょ、ちょっと、どこへ連れて行くのよ!」
「少し離れてもらいます。公平にってことです」
 高柳 陣(たかやなぎ・じん)も数人の風紀委員にガッチリと動けなくされている。
「きったねーな、引っ掛けかよ!」
 陣は強引に逃げ出そうとしたが、「少し離れてもらうだけです。ただしこれ以上暴れたら、昼休みが終わるまで隔離することになる」と聞かされると大人しくなった。焼きそばパンを楽しみにしているティエンの顔が浮かんだからだ。
『ちっくしょー、こうなったら何が何でも買ってやる』
 そうして引き離された一団は、購買部から離れたところに集められた。有利さを失った彼らは、時計を睨みながら、時間になったら走り出そうと待ち構える。
 購買部の前に立つ中願寺 綾瀬(ちゅうがんじ・あやせ)は、ほんの少しだけ笑みを大きくした。
「あらあら、慌てんぼさんが、あーんなにいたなんて」
 念のためとスキルミラージュで、自らの幻影を待機させる。どの程度の効果があるかは分からないが、多少なりとも足止めにはなると考えた。