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花粉注意報

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大きな杉の木の下で――

「へぷっ!」
 個性的なくしゃみをしながら師王 アスカ(しおう・あすか)は風景画を描いていた。
 目の前には樹齢数百年はあろうパラミタ杉の大樹が雄大にそびえ立っている……格好の題材だ。

「今日は花粉がよく飛んでるにゅ〜 でも、お空が黄色く染まって綺麗にゅ」
 その花粉に苦しめられている人々も多いのだが、滅多に見れない光景をキャンバスに描くまたとない機会だった……
 アスカはノリノリで絵筆を走らせる。
 と、そこへ……大きな地響きが森にこだました。

「エロ杉め、絶滅させてくれる!」
 ようやく森にたどり着いたエヴァルトとコルデリアがパラミタ杉を切り倒して廻っているのだ。
「どうやら先客がいるみたいだ……俺達もいくぞ」
「さぁ、始まるザマスよ!」
「いくでガンス」
「フンガー!!」
「……勘弁してくれ」

 つぐむ達が加わったことで伐採速度は上昇……次第に近づいてくる地響き。
 アスカの所まで到達するのも時間の問題だった。

「……ここは木を守るにゅ、ビックバン・ホルベックス!」
 描きかけの絵をそのままに、アスカが立ち上がった。

「切って切って切りまくるザンス」
「フンガー」
 ミゼとガランが片っ端からパラミタ杉を切り倒して廻る。
「坊ちゃん、切り倒した杉はここに集めるでガンス」
 ある程度拓けた所で切り倒した杉を積み上げる真珠、後で業者に引き取ってもらう手はずになっているのだ。
 口調こそ問題があるものの、抜群のチームワークだった。

 つぐむ自身も光条兵器『デュリゲイヌ』の銃剣でパラミタ杉を切り倒す……だが……
「殺気?!」
 ……気配を感じて飛びのくつぐむ。
 飛びのく前に彼がいた場所に、何かが突き刺さった。
「……鉛筆?」
 何の変哲もない、ただの鉛筆……しかしそれが深々と杉の根に突き刺さっていた……余程の力で投げられたに違いない。
 だが鉛筆に木を取られている場合ではなかった。
 パワードスーツ越しに周囲を見渡すつぐむ……その視界が、赤く染まった。
「うわ、なんだこれ……血?」
 一見、血に見える液体だが、匂いが違う……油絵の具だ。
 しかし気密性の高いパワードスーツから匂いがわかるわけもなく……
 動揺するつぐむの隙をついて、アスカは一気に接近した。
「!!」
(……やられる)
 つぐむがそう思った時……
 アスカはパワードスーツのヘルメット部分……開放スイッチに手をかけた。



「坊ちゃん?! しっかりするザマス!」
 ……ミゼが異変に気付いた時には、すでに手遅れだった。
 血溜まり……もとい、赤い絵の具が飛び散る中……

「かい……かいかい……くしゅん!」
 ……花粉症に加えて、漆にかぶれたつぐむが、身体を掻き毟っていた。



「貴様、俺の邪魔をするつもりか!」
「森林破壊はダメにゅ!」

 ……死闘はまだ続いていた。
 今度はエヴァルトへ襲い掛かるアスカ。
「その人、ヘルメットを狙ってきてマース、気をつけるデース!」
「むぅ……」
 杉を切り倒した疲労が溜まった所へ、花粉対策を狙ったピンポイントな攻撃。
 さすがにこれは分が悪い。

「そろそろ観念するにゅ!」
「やらせるかっ!」
 周囲に撒かれた絵の具がエヴァルトの視界を奪う。
 だがエヴァルトは渾身の力を込めて絵の具もろとも周囲をなぎ払った。

 ……クリアになる視界の中、エヴァルトが見たものは、自分に向かって倒れてくるパラミタ杉だった。
「あ、危ないデース……ふぇくしゅっ!」
 とっさにエヴァルトを助けようとするコルデリア……くしゃみをしてしまい、タイミングが大きくずれる。
 その結果、倒れる木を押し込み、勢いを更に加速させてしまうのだった。
「ぬおおおぉぉ!」
 木の下敷きになるエヴァルトを前に……
「大自然のおしおきにゅ!」
 と、勝ち誇るアスカだった。

「あいつ、何やってんだ?」
 そんな光景を蒼灯 鴉(そうひ・からす)が目撃していた。
 帰ってこないアスカを心配して迎えに来たのだが……これは……
「あ、鴉にゅ」
 どうやらアスカも鴉に気が付いたようだ、手を振っている。
「……にゅ?」
 怪訝な顔になる鴉……たしかに『にゅ』って聞こえた。

「迎えに来てくれたにゅ?」
「ま、まぁな……さっさと帰るぞ」
「帰るにゅ」
(く……かわいい……いかんいかん!)
「花粉でこんなに汚しやがって……風呂にでも入ったほうがいいな……お……ちょうどいい所に」
 ちょうど良く、森の中に佇む温泉旅館を見つけた鴉だった。



「やれやれ……やっと終わったか……」

 騒ぎの収まった森の中、猪を撫でながらその男は呟いた。
 アキラ・セイルーン(あきら・せいるーん)アリス・ドロワーズ(ありす・どろわーず)は戦いに巻き込まれた動物達を避難させていたのだ。
「みんな、もう大丈夫ヨ」
 ……動物達が森の中へ帰っていくのを見届けると、二人は新たな仕事に取り掛かった。

「ほんじゃーま、一丁行きますか? アリス」
「おー、がんどこ行きまショー」
 一本一本、切り株へ接木していくアキラ。
 てくてくと苗を運んでくるアリス。

 ゆっくりと、地道に……植林活動を続ける二人。
 一瞬で失われた木々だが、代わりが育つには時間がかかる。
 しかし数年もすれば、ここは再び緑に溢れることだろう。

「アキラ、これ、どうしまショ?」
 つぐむ達によって山と詰まれた倒木を指差すアリス。
「材木業者が来るだろ、持ってきやすいようにしといてやるか……」
 加工を始めるアキラ、業者が欲しがらない樹皮部分には後できのこでも植えよう。
 作業をしながら、きのこ鍋の味を想像するアキラだった。