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リアクション
混乱の最中、その男は笑っていた――
「パラミタ杉花粉か……良いことを聞いたぜ」
花粉から逃げるべく、大勢の人間が校内へ避難して来ている。
その流れを遡り、ジガン・シールダーズ(じがん・しーるだーず)は外に出ようとしていた。
「おい、そこのお前……どこへ行くつもりだ?」
……周りの人間と異なる行動をするジガンに気付く者がいた。
おそらく花粉にやられたのだろう……ふんどし姿のラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)だ。
「見ての通り、外は花粉で危険な状態だ……お前もこうなりたくなかったら……」
「へっ、花粉なら大歓迎だ、俺はこれから森に行って、パラミタ杉から直接花粉を大量ゲットしてやるつもりなんだからな」
そう答えたジガンは時期外れのサンタクロースと見まごう程の巨大な袋を持っていた……どうやらその袋に花粉を詰めるつもりらしい。
「パラミタ杉から……直接……だと」
ラルクの目が驚きに見開かれる。
この状況でそんなことをする理由は……少なくともラルクには、その目的しか思い浮かばなかった。
「まさか……おまえ、ワクチンを作れるのか?!」
滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)もまた、同じ結論に至ったらしい、洋介の放ったワクチンの一言に、一気に周囲の目が集まる。
「みんなを助ける為に一番危険なパラミタ杉の群生地まで一人で行こうとするなんて……すごい勇気だよ」
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)が賞賛の声を上げる。
「そちが特効薬を作れるというのか? わらわもそれを所望す……ぶぇっくしょい!」
鼻炎持ちの月彌之 咲耶姫(つくみの・さくやひめ)も期待に満ちた目でジガンを見つめていた。
「はぁ? 知るかよそんなもん、俺は俺のやりたいようにやるだけだ」
(何言ってやがんだこいつら……俺は別に人助けなんざ眼中にないっつーの!)
都合よく解釈する周りの人間を鬱陶しそうに払いのけるジガン、だが……
「そうだよな、やる前から諦めてちゃ何も始まらない」
「ったくよ、一人でかっこつけやがって……水臭いぜ」
「へ?」
そのまま立ち去ろうとしたジガンの手を、洋介とラルクの二人ががっちりと掴んだ。
「お、おい……放……」
「俺達も行こう、それで治療薬が作れるかどうかなんてわからない、でも可能性は0じゃないんだ」
声高に宣言する洋介。
「そうですね……出来ないからといって、それがやらない理由にはならないです……今私達に出来る精一杯の事をやりましょう」
イナ・インバース(いな・いんばーす)がそこに手を重ねる。
「詩穂も行くよ、森の中なら役に立てると思うし」
そう言うなり服を脱ぎ始める詩穂、いつ症状が出ても良いようにあらかじめ脱いでおく作戦のようだ。
「お、お前ら……」
……よく考えれば先程のジガンの返答は、ツンデレ発言に聞こえなくもない。
まったくその気のないジガンを中心に盛り上がる一同。
あきらかに全員、勘違いしていた。
「けっ、勝手にしやがれ」
(……どのみち俺は俺の目的を果たすだけだ、せいぜい利用してやるぜ)
そんな彼の内心など知る由もなく、スギ花粉採取部隊は意気揚々と出発するのだった。
「やれやれ、今頃材料集めか……」
右手の薬瓶を玩びながら天真 ヒロユキ(あまざね・ひろゆき)は物陰からその様子を見ていた。
彼らがこの薬瓶の中身を知ったら、どんな顔をするだろうか……そんなことを想像するのはなかなか面白い。
「まぁ、たとえコイツがあったとしても、行かない理由にはならない、よな?」
先程のイナの言葉を嘲笑いながら、ヒロユキは薬瓶の中身を飲み干した。
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