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なし

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レッツ罠合戦!

リアクション公開中!

レッツ罠合戦!

リアクション

「こちらなのだよ」
「違うだろ」
 ニクラス達の集団の先頭を颯爽と歩いているグラシデア・ポーター(ぐらしであ・ぽーたー)が、自信満々に道を間違えて、隣を歩く獅子神 刹那(ししがみ・せつな)に思いっきり首根っこを掴まれました。
 グラシデアは何をするのだ、という目で刹那を見ますが、刹那は気にする様子もなく先陣を突っ切って歩いていきます。
「罠なんて全部踏みつぶしてやるぜ!」
 刹那はにんまりと笑うと、その長い赤い髪を靡かせながら通路の先へと突き進んでいきます。
「あ、刹那お姉ちゃーん!」
 刹那と同じく静麻のパートナーであるレイナ・ライトフィード(れいな・らいとふぃーど)が慌てて引き留めようとしますが、刹那はお構いなし。
 そのまま一目散に突っ走って行き――

 ずぼっ。

 ――落ちました。落とし穴に。綺麗に。
「あああっ、お姉ちゃぁーん!」
 レイナが慌てて追いかけていきます。
「どうだ、これが必殺、ザ・漢探知だぜ!」
「何が漢探知だ……」
 静麻が後列ではぁ、と溜息を吐きました。
「お姉ちゃん、ほら箒……って、何でそんなびしょびしょなの?!」
 レイナが落とし穴を覗き込むと、刹那は何故かぐっしょりと濡れそぼって居ました。
 洋服だけでなく、髪や、露出している肌という肌が、ぺとりと濡れています。
「……落とし穴の中に、何か仕込まれてたんだ……」 ローションかな、と言いながら刹那は肌をぬぐいます。ねとりとした液体が豊満な肢体に絡みついて、なんというか実にいやらしい。
 ――お察しの通り、先ほど陽子が落としていったローションです。良い感じに綺麗なお姉さんが引っかかってくれたようです。
 レイナが差し出した魔法の箒でなんとか浮上してきた刹那ですが、その姿に一部男子諸君の目が釘付けです。
「あっ……あ、あんま見るんじゃねえ!」
「そうですわ、どうせ見るならこの私を……ね?」
 例に漏れず鼻の下を伸ばして刹那の事を眺めているニクラスの隣で、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)が鼻に掛かった声で囁きます。
 その声にニクラスはびくぅっと肩を跳ねさせて、亜璃珠の方を振り向きます。
 亜璃珠はくすりと笑うと、ニクラスの腕にそっと自分の腕を絡ませて、ゆっくりしなだれかかります。
「えっ……あ、あの……」
 ニクラスは思わず赤面します。今まで女性とこんなに接近したことなどありません。心拍数も急上昇。
「うふふ……相変わらず、可愛いのねぇ」
「か、可愛い?」
「こんなに赤くなっちゃって」
 ふふふ、と艶めかしく笑う亜璃珠の笑顔に、ニクラスはすっかり目を白黒させます。
 暫くそのまま亜璃珠に寄り添われて歩いていたのですが。
「あら危ない」
「うぎゃぁあああっ!」
 突然鼻先を横切った矢に、ニクラスは情けない悲鳴を上げました。
 注意が散漫になっていた所為で、皆が避けて歩いていた足元のスイッチを思いっきり踏んだのでした。
 立て続けに壁から飛んでくる矢を、ニクラスの回りのみんなが叩き落とし、或いは切って捨て、ニクラスを守ります。が、一本だけ落とし切れなかったものが――
 ざく。
 ニクラスの肩口に突き刺さりました。
 耳をつんざく男の悲鳴が辺りに響きます。
「まあ大変! ほら、見せてごらんなさい?」
 慌てて駆け寄った亜璃珠が、ニクラスの上衣をがばちょと剥ぎ取ります。別の意味でニクラスが悲鳴を上げました。
「あら……思ったより貧弱なのねぇ……」
「おねえちゃん、もう、なにしてるですかー!」
 よよよと涙目になっているニクラスを見かねたか、ヴァーナー・ヴォネガット(う゛ぁーなー・う゛ぉねがっと)が亜璃珠をニクラスから引きはがします。
「ニクラスおにいちゃん、だいじょぶですか?」
 ヴァーナーは丁寧に傷を検分すると、手早く必要な処置を施します。そこはプリーストの面目躍如といったところ。
「あ……ああ……痛ェ……」
 踏んだり蹴ったりなニクラスは、すっかり座りこんでしまいました。
 もう、なんで俺がこんな目に、とか何とか、弱音が口から漏れ聞こえてきます。ホラ行くよ、と先頭の方から刹那が声を掛けますが、いじけたニクラスは立ち上がろうとしません。
 するとヴァーナーはニクラスにぎゅーっと抱きつきました。
「元気出してね、おにいちゃん!」
 そう言うと、ニクラスのほっぺたにおまけのアリスキッス。……この場合、ハグがおまけでしょうか。
「お、おうっ!」
 アリスキッスの効果でなんとかやる気を取り戻したニクラスは、よっこらせと立ち上がります。
 再び進み出す一行ですが、先頭を歩く二人――グラシデアと刹那――が片っ端から罠を作動させるのでなかなか進みません。まあ、お陰で後方を歩くニクラスは無事なのですが。
「まあ、お陰でゆっくり材料採取が出来て良いのだがのぅ」
 ニクラスのさらに後から、大きなカゴを背負ったガーゴイルを連れて着いてくるのは万願・ミュラホーク(まんがん・みゅらほーく)です。大きなカゴには、その辺に自生しているキノコやらシダ植物らしき何かが放り込まれています。
「……何を集めてるんだ?」
「パンの材料であるよ」
「その……虫もか?」
「食べられそうだからの。美味そうじゃろ」
 カゴの中身を覗いたニクラスの顔が少々引きつります。そ、そうか、と絞り出すような声で答えます。
「しかし、このペースでは先頭の二人が保たないじゃろ」
 さっきからぎゃぁとかひゃぁとか、絶え間ない悲鳴が響いています。
「仕方がないの。一番罠に掛からない方法、スタート」
 そう言うと万願は、材料の入ったカゴをガーゴイルから回収し、ガーゴイルを列の先頭に立たせました。
「おお、これで罠が発動してもガーゴイルが犠牲になるだけってことだね!」
 万願の隣を歩いていたライカ・フィーニス(らいか・ふぃーにす)が、ぽん、と両手を打ち合わせます。
 そのついでに、持っていたバナナの皮をぽん、と来し方に放り投げました。
「そう言う事じゃ。便利じゃろ」
 さて行くぞ、と言う万願の声に、一行は再び歩き始めます。
 するとライカは再びバナナの皮を放り投げます。
「何してるんだ?」
「何って、罠仕掛けてるんだよ?」
 ニクラスに問われたライカは、あっさり答えました。
 振り向いてみると、ニクラス達が歩いてきた道々に、まるで目印のようにバナナの皮が点々と残されていました。