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竜喰らう者の棲家

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竜喰らう者の棲家

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7/

 そして。
 そこは、この遺跡内に建造され、破棄された研究施設において最も広い場所だった。
 天井には、それが後付で新造されたものであるとわかる無数の金属管──パイプラインが縦に横に走り。
 それらを追うように、通路もまたその広間から四方に向かい伸びる。
 その、広い中央へと地響きじみた唸りが近付いてくる。
 無論やはり、それも四方から。ここへと通ずる四つの通路、すべてから。
「……こっちだっ!」
 最初に飛び込んできたのは、ひとりのドラゴニュートだった。
 ゴルガイス・アラバンディット(ごるがいす・あらばんでぃっと)。彼は駆け抜けてきた勢いを殺し、広間の中心部へと陣取る。
 彼を、追いかけてくる。あるいは他の仲間たちがこの付近まで誘い込んでくるであろうドラゴンイーターたちをひきつけ、この場に引きとどめておくために。
 彼は、餌となりここに残るのだ。
「……来たか」
 やがて、地響きは近付いてくる。
 篭った音から、明確に、クリアに聞き取れる轟音へとその音質を変えながら。
 彼らの巨体からすれば狭すぎるほどの岩の通路を、我先に。夥しい数のドラゴンイーターたちが、広間へと集結してくる。
 その数は、あまりに圧倒的。ゴルガイスがいくら屈強とはいえ、たったひとりでは文字通り、竜喰らいたちにとってはただの獲物でしかない。
 ……本当に?
「いいや、違うな。この場で獲物になるのは。狩られる側なのは、奴らのほうだ」
 そのために追い込んだのだから──……不敵に笑いながら、柱の影より姿を見せたのは、ゴルガイスの契約者。グラキエス・エンドロア(ぐらきえす・えんどろあ)だった。
 彼は二人の男を従え、ゴルガイスへと歩み寄る。やはり契約者。アウレウス・アルゲンテウス(あうれうす・あるげんてうす)と、ベルテハイト・ブルートシュタイン(べるてはいと・ぶるーとしゅたいん)とともに。
「さあて……これで役者は揃ったな。善玉も、悪玉も」
「貴公のその言い方、むしろこちらが悪役に見えるのではないか?」
「そう言うな。ベルテハルト」
 グラキエスと吸血鬼のやりとりに、うむ、と頷くアウレウス。
「それにしても、思った以上に走らされたぞ、グラキエスよ」
「当初の予定通りなら、お前を餌にここに追い込む、お前はここにいるはずだったんだしな」
 思った以上に連中が飢えていた。だから目に付くものに見境なく襲い掛かっていたから──餌から出向くより、なかった。
「だが。これで、チェックだ!」
 グラキエスが指を打ち鳴らす。瞬間、蠢くドラゴンイーターたちの足元、床が崩れ落ち、瓦礫と化して彼らを絡めとる。
 もちろん、偶然ではない。これは罠だ。彼らの仕掛けた罠の、第一陣。そして第一手。
 罠はこれでけっして終わりでない。彼らは各々の手にした剣を投擲する。
 ドラゴンイーターへでなく。天井のパイプライン目がけて。それらは寸分違わず金属の管を突き破り、そこに満たされていた「もの」を室内へと噴出させていく。
 それは、ガス。万一の場合に備え施設のありとあらゆるところへ噴霧できるよう張り巡らされた、岩竜忌草のガス──……!
「今だ! 隔壁を下ろせ!」
 グラキエスの合図に、今度は遺跡そのものが揺れて地響きを起こす。
 そしてぽっかりと口を開けていた四方の通路が、シャッターによってその口を閉じていく。
 ドラゴニュートを、餌に。
 ドラゴンイーターの退路を断ち。
 たっぷりと、岩竜忌草を浴びせ、殲滅する。
 これが彼らの罠であり、皆の力をひとつにしての三段構えの作戦だった。
 発端となった、加夜のプランも。
 二手に別れた調査隊の、情報収集チームの得たデータも。
 また、グラキエスたちに続くように物陰より各々姿を見せた救助隊の面々といった戦力たち、そのいずれもが、この作戦には必要不可欠だった。
「やりました、大成功ですっ」
 ここの隔壁装置がまだ活きている。そのことを確認した彼女、調査隊とは別に、個人として遺跡内に侵入していたディーヴァ、葉月 可憐(はづき・かれん)の功績もまた、同様。
 作戦への協力要請が出されたとき、まさに彼女はパートナーのアリス・テスタイン(ありす・てすたいん)とともにこの大広間へと足を踏み入れたところだったのである。
「やったねぇ、可憐」
 そのパートナー、アリスと抱き合い、はしゃぐ可憐。
 そんな二人とは対照的に、ドラゴンイーターたちは程度の差こそあれ、濃密かつ大量の岩竜忌草に悶え、苦しんでいる。
 ガスに満たされた、そしてガスの逃げ場のないこの密閉空間はまさに、彼らにとって生き地獄以外のなにものでもない。
「さあ……蹴散らすぞっ!」
 グラキエスの咆哮が、号令だった。
 負けようもない。勝敗はもはや、誰の目にだって、明らかだった。