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竜喰らう者の棲家

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 加夜とともに、シズルは走る。暗く硬い、遺跡の通路を。
 その前を行くのは、三つの影。そう──彼女たちはコアたちと二手に別れ、無事に救助隊の面々と合流をすることができた。……どうにか。
 アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)と、その相棒であるウーマ・ンボー(うーま・んぼー)。その背にまたがる花妖精、ペト・ペト(ぺと・ぺと)
 一見独特の外見の三人が先行をし、道を切り開き、シズルたちはそのあとを追う。彼らの武器には、岩竜忌草をすり潰した汁を塗ってある。
 ガスほど広範囲にどうこうできるわけではないが、その武器によって彼らは的確に、後方からのガスによる支援を受けながらドラゴンイーターたちを撃退していく。
 時折危なっかしく、魚のような姿のウーマの背中からぺトが、落ちそうになったりもするけれども。
「よし。これで、調査隊の端末と救助隊の端末のリンクが繋がった──回復したはず。お願い」
「ああ」
 そしてシズルは加夜とは反対の側を走る二人組へと、自身の端末を渡す。
 受け取った救助チーム、レリウス・アイゼンヴォルフ(れりうす・あいぜんう゛ぉるふ)は、隣のハイラル・ヘイル(はいらる・へいる)と頷きあい、端末に向かい言葉をつなぐ。
「救助チームのアイゼンヴォルフです。みんな、聞ける人たちはよく聞いてください」
 彼が告げるのは、岩竜忌草からの言葉。スキルを活用し、彼らから得た情報だった。
 救助隊の面々が実感しているように、事実として岩竜忌草に対しある程度の抵抗力を持つドラゴンイーターの研究は、この廃棄された施設においてなされていた。
 その成功例はけっして多くないけれども、そうやって生み出されたそれら個体が、僅かながら残り、遺跡内部のドラゴンイーターたちの中に混じっている。
 見分ける手段は、ない。
「!」
 言ったレリウスの後方、頭上から数体、小型のドラゴンイーターが天井を破り襲い掛かる。
「邪魔すんな。……続けてろ」
 そう、背中を押して。後ろを固めていた一団の先頭──氷室 カイ(ひむろ・かい)は彼らを先に行かせる。
 ドラゴンイーターたちへと投げつけるのは、小さな瓶に小分けにした岩竜忌草のガスだ。それはうねる竜喰らいたちの身体に直撃すると同時粉々に砕け、その一帯を中身のガスに包み込んでいく。
「ほら、お前らも行った行った」
 見とれがちに足を止めている面々がちらほら、いる。カイはそんな面子に先行を促しつつ、自分は愛刀・虎轍を抜く。
「ベディ。ルナ」
 飛び掛り、斬り捨てる。自身の契約者たる二人、サー・ベディヴィア(さー・べでぃびあ)ルナ・シュヴァルツ(るな・しゅう゛ぁるつ)とともに。
 あっけなく、ドラゴンイーターたちは三人によって片付けられた。
 先に行った一団の後姿を、目で追う。このまま歩調を緩めて、ドラゴンイーターの殲滅をしながら戻ってもいいが──それとも素直に、彼らを追うか。考えていると、端末が鳴ってそれをカイは取り出して。
 耳元に持って行った瞬間、いつの間に切り替わっていたのだろう、レリウスでもシズルでもなく、別行動中だと彼女の言っていた調査隊がひとり、コア・ハーティオン……情報収集チームの一団を率いていたはずの、コアの声が耳を打つ。

『抵抗力のある個体の情報は、了解した。感謝する。こちらも裏付けとなる資料を発見した』

「各々の端末にデータを送る。ドラゴンイーターたちの肉体スペックデータと、遺跡内部の、施設の詳細マップだ」
 通信機に向かい話しかけながら、コアは隣に目を移す。
 鈴鳴 傑(すずなり・すぐる)エミリエル・ファランクス(えみりえる・ふぁらんくす)のペアが、各々手にした端末へと詳細なデータを打ち込んでいた。そして、送信。これで通信端末を落としてでもいないかぎり、遺跡内の全員に必要データが行き渡ったはず。頷きあう、傑とエミリエル。
 その様子を確認したコアは、今度は自身の端末を通話状態は維持したまま、すぐ脇に控えていたロア・ドゥーエ(ろあ・どぅーえ) へと渡す。
 ここからは、戦術の説明だ。
「あー。調査隊のロアだ。データはみんな、行ったな? だったら今見る余裕のあるやつ、地図を見てもらえるか」
 言いつつ、ロア自身、自分の端末に地図を呼び出していく。
「紅い点が、今俺たちのいるところだ。……んで。ここからが重要だ。もうひとつの蒼い点。この地点に、どうにかしてドラゴンイーターの連中をおびき出してほしい」
 わりと、無茶な頼みであるという自覚はロアにもある。
 だが、彼の補足をするように、パートナーたちが横から端末に向かい口々に、言葉を挟んでいく。
「ちょうどそこが、おあつらえむきに奴らを一網打尽にできる場所だ。その地点に、奴らを追い込んで。貴公らも集結してほしい」
 レヴィシュタール・グランマイア(れびしゅたーる・ぐらんまいあ)が、鷹揚に要求をする。
「負傷者や、脱出を優先したい者はそちらを優先してくれていい。だが現状として、この場にいる我々だけでは追い込むにも殲滅するにも戦力としては不足なのだよ」
 崩れた壁と、天井の向こう。瓦礫に埋もれた先の、更に先であるその場所を遠く見つめるようにしながら、彼は続ける。
「私の契約者がダウジングして見つけた好機なのだ。協力を頼みたい」
「僕からも、お願い」
 もうひとり──やはりパートナーのイルベルリ・イルシュ(いるべるり・いるしゅ)も、彼の言葉に続く。
「ドラゴンイーターたちの耐性はどうやら、遺伝するみたいなんだ。ここで叩いておかないと、彼らがもし遺跡の外まで出てきたらこの一帯の動物たちがこの山に住めなくなっちゃう」
 少なくとも、岩竜忌草への耐性を持つ個体だけでも、これ以上増えることのないようにしなくては。
「だから、頼む」
 そして改めて、ロアが端末に向かい頭を下げる。
「皆の力を──……」
「しっ」
 と、不意にイルベルリが彼の声を遮り、通路へと続く入り口のほうに視線を注ぐ。
「誰か、来る」
 そんなにすぐに誰か来てくれるとは、思っていない。
 一体誰だ? まさかとは思うが、鏖殺寺院の連中が遺跡の、施設の内部に残って──……?
「あ」
 しかし幸いにして、彼らの一瞬の警戒は杞憂に終わった。
 ひょっこり顔を出したのはひとりの少女、それも調査隊の面々にとっては顔を見知っていた、そんな相手であったから。
 そういえば、はぐれたままになっていた。セシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)。目撃情報もなく、一体今までどこにいたのだろう?
「よかったぁ。皆様一体、どちらに行かれたのかと。合流できて、ほっとしましたわ」
 彷徨っていたのだろうか? ……いや、しかしそれにしては着衣も殆ど汚れていないし、ドラゴンイーターから逃げ惑っていたという様子もない。
「そうだ。せっかく会えたのですし、皆様、お茶にいたしましょう」
 ……にしても。なんて、マイペースな。皆の顔に広がるのは呆れと言うよりも、苦笑。