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猫耳メイドが大切なあなたのために作ります♪

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「やっと見つけました」
「あんた……」
 会場を抜け出していた長原 淳二(ながはら・じゅんじ)は、細い路地でようやくジヴァ・アカーシ(じう゛ぁ・あかーし)を見つけた。
 ジヴァは不機嫌そうな表情で淳二を睨みつける。
「劣等種があたしを追いかけてきて、なんの用よ」
 ジヴァに問われて淳二は改めて考えた。
「……なんかそうしなきゃいけない。そんな気がしたんです」
「はぁ!? あんたバカ?」
 淳二は胸を駆け巡る感情をうまく説明できなかった。だから、感じたままに事実を述べることにした。 
「俺は家族が何なのかわからないんです。だから聞いてみました。話を聞いて、そしたらあんたに伝えなきゃいけないことがあるって……胸がモヤモヤしだしたんです」
「伝える? 何を?」
「あの人はあんたのために親子丼を作っていました」
「……」
 イーリャ・アカーシ(いーりゃ・あかーし)が自分のために親子丼を作っていることを聞かされたジヴァは、胸の奥がざわつくような感覚があった。
 ジヴァは淳二の次の言葉を待った。――だが、沈黙だけが流れる。
「それだけ?」
「はい」
「……くだらない。もう行くわよ」
 ジヴァがムシャクシャして呆れて、人混みの中へと歩いて行った。
「まだモヤモヤしている」
 残された淳二は、伝えたいことは伝えたはずなのに、まだ胸のモヤモヤが治らなかった。


 菅野 尚志(すがの・なおし)涼介・フォレスト(りょうすけ・ふぉれすと)から渡されたレシピで、一人親子丼を作り始める。
「えっと、これを入れて……」
 尚志はレシピ通りに進めながら、自分なりのアレンジを加えようとネルソー・ランバード(ねるそー・らんばーど)が取ってきた怪しい調味料を入れた。
 その結果――
「できたですぅ。どれどれ…………まずっ」
 失敗した。
 尚志は失敗した親子丼を葬ろうと爆弾をセットする。
 そして鍋から離れようとする尚志は、一度鍋を確認するために振り返り、誰かにぶつかってしまった。
「うわっ……!?」
 勢いよくぶつかってきたその人物によって吹き飛ばされて倒れた尚志は、顔を上げて近くに自分の鍋があることに気づいた。
 慌てて逃げようとする尚志。だが、間に合わず――爆発に巻き込まれた。
 煙に包まれる尚志。そこへ涼介が走ってきた。
「大丈夫、何があったの!?」
 尚志は心配する涼介に事情を話した。 
「なんだ……。だったら今度は俺が見てるから、もう一度頑張ろうぜ」
 笑って申し出る涼介に、ボロボロになった尚志はコクリと頷いた。

 一方、尚志にぶつかったルシェン・グライシス(るしぇん・ぐらいしす)は、辛うじて爆発に巻き込まれなかったものの、代わりに尻を強打していた。
「いたた……」
 榊 朝斗(さかき・あさと)はルシェンが爆発に巻き込まれたものだと思い、慌てて近づいてきた。
「ルシェン、大丈夫!?」
「……ええ」
 無事なルシェンを見て朝斗が胸を撫で下ろす。
 立ち上がろうとするルシェン。
「あら? カメラは……あぁ!!」
 周囲を見渡したルシェンは、爆発に巻き込まれて砕け散ったカメラを発見した。
「そ、そんな……」
「ルシェン……元気出して」
 朝斗はルシェンを励ましながら、自身の痴態が映ったカメラが壊れてくれことを嬉しく思った。
 ルシェンの肩がフルフルと震えていた。
「この悲しい気持ちはどこかに吐き出すしかない……」
「え、な、なに?」
 ルシェンはふらりと立ち上がると、朝斗の手を縛り、目隠しをした。
 そして、朝斗はルシェンに腕を掴まれて強制的に歩かされると、どこかの部屋に入れられた。
 扉を開け閉めしる音が聞えてくる。
 ルシェンの名を呼ぶが返事はなく、朝斗が大人しく待っていると、ようやく目隠しがはずされた。
「ったくなんの真似だよ、ルシェ……え?」
「メイドさんいらっしゃ〜い」
 目の前にいたのはルシェンではなく、戎 芽衣子(えびす・めいこ)富永 佐那(とみなが・さな)だった。
 朝斗は恐怖を感じながら、首を回して周囲を確認した。
 朝斗がいたのはオレンジ色の裸電球が室内を照らす、大人4人が入るかどうかほどの薄暗い個室だった。
 木製の格子が中央で部屋を二つに隔てており、その格子の向こう側にも朝斗がいる場所と同じような空間が見えていた。そしてそこにはシスター姿のルシェンが座っていた。
「これはどういうことなんだよ、ルシェン!?」
 格子に顔を近づけて尋ねる朝斗に、ルシェンは透き通った声で優しく答える。
「ようこそ、ルシャンの懺悔室へ。ここは私が招集した天使達によって、あなたを弄び、私の心を洗う神聖な場所です」
「それ絶対洗われないでしょ!」
 叫ぶ朝斗の縛られた手に、佐那がスカーレッド・マテリアを持たせて魔法少女あさにゃんに変身させた。
「あっさにゃ〜ん。お楽しみタイムですよ」
 佐那から逃げ出そうとしたあさにゃんは、芽衣子に後ろから羽交い絞めにされる。
 いつの間にか佐那と芽衣子は和解していた。
 その様子をルシャンは両手の組み合わせて祈るように静かに見守っていた。


 大きな鍋から美味しそうな匂いがしてくる。
「さてそろそろ騨さんを迎えにいこうかな」
「でしたら私もいきます」
 ルカルカ・ルー(るかるか・るー)と一緒にアイビス・エメラルド(あいびす・えめらるど)が早見騨がいる喫茶店に向かった。
 喫茶店の前に到着すると、ルカルカが勢いよく扉を開けた。
「騨さんいますか〜? って、あら?」
「よぉ、やっと完成か?」
 中に入ったルカルカは、コーヒーを頂いているクロイス・シド(くろいす・しど)を発見した。
 ルウネ・シド(るうね・しど)を探しに行ったクロイスとケイ・フリグ(けい・ふりぐ)は、騨と話をしているルウネを見つけ、そのまま足止め役に回っていたのだった。
「うん。迎えに来たんだよ」
「わかった。じゃあ行こうか……」
「待ってください」
 クロイスが立ち上がろうとすると、アイビスが前に出て騨に質問した。
「騨さんはあゆむのことをどう思っているのですか?」
 騨は突然の質問に少し恥ずかしそうにしながら、アイビスの質問に答えた。
「どうって別に普通に大切なパートナーだけど?」
 するとアイビスは続けざまに質問を投げかける。
「大切って、それはどのくらいですか? 友達? 兄弟? 恋人?」
「いや、それは考えたことないけど……」
「考えてあげてください。あゆむは騨の大切な家族でしょう」
「……そうだけど」
 アイビスに睨まれ、騨は困ってしまう。
 何て答えたらいいか悩む騨。重い空気が喫茶店内に満ちる。
 するとルカルカが助け舟を出してくれた。
「ねぇ、ルカは思うの。そういうって自然と気づくものじゃないかな?」
 ルカルカに言われてアイビスが暫く考えて答えた。
「……確かにそうかもしれません」
「だったら、無理やり答えを出すものじゃないんじゃない?」
「ですが……」
 アイビスは彼女なりに騨とあゆむのことをどうにかしたいと考えていた。
 あゆむが騨のことで悩まないように、自分に何かできることはないかと……。
 黙り込むアイビス。するとルカルカが手を叩いてアイビスと騨の顔を上げさせる。
「ほらほら、急がないと親子丼が冷めちゃうよ」
「親子丼?」
「そう、親子丼だよ。きっと騨さんも大満足だよ♪」
 ルカルカは騨の手を掴んで、会場へと走り出した。

 そして騨が到着すると、ようやく親子丼大食事会が開催されたのだった。