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探索! 幻の温泉奥地に奇跡の温泉蟹を見た!

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探索! 幻の温泉奥地に奇跡の温泉蟹を見た!

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■深い森の奥底で

 ――さて、探検隊はしばらく探索を続けていたが温泉蟹はおろか、温泉の見つかる気配すらまったくなかった。そんな状況に次第にジョニスは焦りを覚える。
(いかん、いかんですよ……さっきから撮っているビデオカメラの映像、無作為に探索しかしていないものばかり。このままじゃいけない……早く温泉蟹を見つけて、成果を録画しないと!)
「すみません、先急ぎます!」
 焦りは行動を起こす起爆剤となる。いてもたってもいられなくなり、ジョニスは慌てて先へ進もうとするが……。
「うぉぅっ!?」
 制服の襟を掴まれ、勢いのまま盛大にすっ転ぶジョニス。「あたたた……」と視線を掴んだ犯人のほうに向けると……そこにはブルーズ・アッシュワース(ぶるーず・あっしゅわーす)がいた。
「慌てるな、一人で先走っても何もいいことはないぞ」
 やれやれ、とジョニスの襟を離すと、ジョニスは何とか起き上がる。
「す、すみません……」
 暴走していたことに気づいたのか、恥ずかしそうに謝罪するジョニス。……ブルーズの傍らには、なんか優雅そうに探検記録をまとめている黒崎 天音(くろさき・あまね)の姿が。
「未知の存在に突き進もうというその気持ち、分からなくないよ」
「ですよね、ですよね!」
 天音の言葉に同調するジョニス。ブルーズは頭が痛くなった。
「まったく……大荒野の遺跡探検でもこんなに疲れたことないぞ」
「おやブルーズ、お疲れみたいだねぇ」
「お前みたいなのがもう一人増えればさすがにな。これ以上疲れs――」
「ジョニス、あそこにあるのは珍しい草花だと思わないかい?」
「あ、本当だ! ちょっと近づいて調査してみましょう!」
 その場を離れる、ジョニスと天音。とはいっても天音は自分では動かず、ブルーズに肉体労働系の指示を出すだけである。
「――こら、お前たち! また勝手に行動するな!」
 ……ブルーズの気苦労は絶えそうにない。
 そんな様子を見ていた甲斐 英虎(かい・ひでとら)は、探検部が廃部寸前だということを思い出す。そして、何かを考えているようでもあった。

「ふぅむ、この辺りの水質はあそこと同質のものですか。なるほどなるほど……」
 探索の途中で見えた沢に寄り、水質を調査しているのは叶 白竜(よう・ぱいろん)である。自ら山岳部を主催しているだけのことはあり、こういった未調査地域の地質に興味があったようだ。
 むき出しになってる土を掘っては地質を調べ、沢の蟹を見つければ今回の温泉蟹との関連性を推察する。
「今回の蟹、この沢蟹が巨大化したものだとすれば……水質は良さそうですし、餌の独占による異常成長したものとも考えられますね。そしてこの水質ならば水源も良質なもの。きちんとした温泉の管理も不可能ではないですね……」
 ぽつぽつとそんなことを呟きながら、さらなる調査をするため奥へ奥へ進んでいく。――その様子は実に真面目、刻苦勉励の鑑といえよう。
 だが、その様子を後ろから見ている姿があった。白竜のパートナーである世 羅儀(せい・らぎ)だ。その視線はなんだか腹が立っているようにも見える。
「……任務や調査とかのレベルじゃないだろ、これ。完っ全に楽しんでるな……山歩き、したかっただけなんじゃないのか?」
 白竜に聞こえるようにそんなことをポツリ。しかし当の本人は聞こえない振りをしているのか、鼻歌なんか歌いながら調査を続けている。……わずかに羅儀のコメカミに怒りマークが。その腹立つ怒りを紛らわすように、ワイヤークローで川魚を捕獲し、後の食料に備えておく。
「このままだとあいつ、他の人たちとはぐれかねないぞ……放っといても大丈夫だとは思うが」
 文句を言いながら(もちろん白竜は聞き流している)も、奥へ奥へ進む相方を追う羅儀。と、その時……やや遠目の崖のほうを見てみると、その崖へ歩いていく二人の人影を確認した。
「ん、あれは……」
「ああすみません、ここからは私一人でも大丈夫なので羅儀は本隊のほうに戻って、足場に目印をつけるなどのサポートに回ってもらえますか?」
 人影の正体を確認しようとした羅儀だったが、白竜からそんな指示が飛んでくる。もう一度人影のいたところを見ると……その姿はなかった。
「あ、ああわかった。すぐに向かう」
 白竜の指示を受け、探検隊のほうへと戻ることになった羅儀。だいぶ一行とは離れてしまったが、大きな音の鳴ってる方向へいけば辿り着けるだろう。そんな移動の最中、羅儀は自身が見た二人の人影が気になって仕方なかった……。

 ――時は少し戻る。探検隊とは少しだけ離れた場所を探索していたのは滝川 洋介(たきがわ・ようすけ)とそのパートナー、百科事典 諷嘉(ひゃっかじてん・ふうか)の二人。ちょうど諷嘉が迂回路になりそうな道を発見し、洋介が道を切り拓いている途中だった。
「この道をいけば、蟹と戦わずして温泉に辿り着けるはずですぅ〜」
「ああ、そうだね! よーし、後から来る人たちのためにもどんどん切り拓くぞー!」
 洋介はバッサバッサと草木を切り拓いて道を作りながら、諷嘉と共に奥へと進んでいく。
 ……そしてしばらくした後、その切り拓かれた道を歩く二人の人影が。芦原 郁乃(あはら・いくの)とパートナーの荀 灌(じゅん・かん)である。
「あ、道ができてるみたい。……でも、もう少し大きく迂回できないかな?」 と、郁乃はすでに切り拓かれた道とは少し外回りの道を指す。荀もうんうんと頷き、二人は切り拓かれていない森の道をひた進むこととなった。
 ――そしてしばらく。……郁乃は、途方に暮れていた。
「失敗したぁ〜! これならさっきの道を進んでたほうがよかったかも……」
 進めど進めど温泉らしき雰囲気は無し。どんどんうっそうとした風景が続くばかりである。
「しかもなんだか上り坂みたいだし……どうなっちゃうのよ……」
 後ろを歩く荀も少しだが疲れが見え始めている。果たして、二人はどうなるのだろうか……。

 ――一方、探検隊のほうでは動きがあった。緋桜 ケイ(ひおう・けい)が森の中で蠢く大きな影を発見したのだ。それとほぼ同時に、木の上から蟹を探していたレキと上空からの探索をしていたユキノが探検隊へ合流する。どうやら、ケイと同じように蠢く影――もっとも、蟹の甲羅が見えたのだが……を見たため、全員に知らせるべく降りてきたようだ。
 近づけば……確かにそこにいるのは写真に写っていた温泉蟹そのものである。右鋏が肥大化しており、シオマネキという蟹に近い印象を受ける。
「あ、あれです! あれが温泉蟹に違いありません!」
 ジョニスの確認も取れた。となれば、温泉もすぐ近くにあるだろう。実際、『超感覚』を使って探索していた数人が温泉の気配や硫黄の臭いを確認したのだ。
 ここは素早く温泉を確保するべく、温泉蟹討伐部隊と温泉探索部隊(という名の、温泉堪能し隊)に分かれて同時に行動することとなったのだった。