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リアクション
「あ、気が付いた?」
「う……ここは……静香せんせー?」
少しして目を覚ましたヴァーナーに静香がそっと鏡を差し出して本日何度目かの説明を始める。
ちょうど同じ頃、雪だるま頭になってしまったルイ・フリード(るい・ふりーど)が和輝たちのもとをエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)とエオリア・リュケイオン(えおりあ・りゅけいおん)と共に訪れていた。
「エルらしき人物を目撃した?!」
「実は私が街を歩いていたときのことなんですが……」
ルイが街を訪れた時、すでに多くの数の雪だるまヘッドがあちこちにいたという。雪だるま王国民のルイとしては、これだけの雪だるま頭人口、一人くらいは雪だるま王国民がいるだろうと探していたらしい。アルと同じようにルイも迷子になってしまい、一緒に王国まで帰ろうとしていたのだ。
そんな時、すぐ前を歩いていた女性が小さくくしゃみをしたかと思えば、ルイは街中で突風に襲われ白い雪が辺りを一瞬で覆う様を目の当たりにしたのだ。
「あら……ごめんなさい……」
前を歩いていた髪の長い細身の女性が振り返ってルイをしげしげと見つめ、そして一言そう告げたのだ。そのまま何事もなかったかのように人ごみの中に消えてしまった。
彼女が立っていた場所以外を白い雪が数メートル四方埋め尽くしていたがその時はルイには何が起こったのかまったく理解できていなかった。しかし、何やら頭が重くやけに通行人の視線を感じる。不思議に思っていると観光客の子供だろう、指をさされて雪だるまだーと叫ばれ、そこでようやく異変に気付いた。
どうしたものかと悩んでいたところに街を訪れていたエースとエオリアの二人に出会ったというわけだ。
「しかし、ラグランツはどうしてここに俺たちがいることが分かったんだ?」
和輝たちは街外れの方にひっそりと設置された休憩スペースを陣取っていたのだった。確かに雪だるま頭が何人も揃って休憩している様は、何とも滑稽な光景だ。何かの団体か、もしくはイベントでもあるのかと思ってしまう人もいるだろう。そうやってあまり目立ちたくなかったのもあって、あまり人が来ない、広場から遠い位置にある休憩スペースに来ていたのだ。
「ふふ、そんな簡単なこと」
「単純に女の子に声かけまくったんですよ、この人は」
整えられた赤い髪をかき上げて格好付けるエースに呆れながらエオリアが溜息混じりに呟いた。
「ヴァーナーさんはどうしてここに?」
頭の重さにようやく慣れてきた静香がヴァーナーに声をかける。
「あ、そうでした! コンテストの開始時間もうすぐですから、静香せんせーもゆっくり会場に向かって来てくださいって伝えてくださいって」
「え、もうそんな時間? 今日は挨拶しなきゃいけないんだったー! 呼びに来てくれてありがとうね」
みんなもせっかくだから会場においでよ、と言い残し、ぱたぱたと石畳を駆けていく静香。頭が重いからなのか余程時間が迫っているのか知らないが、姿勢を低くしたその走り方は、割と本格的な走り方にすら見える。あまり速くはなかったが美しいフォームで静香は会場へと駆けていった。
「せっかくだし、僕たちも会場に向かいませんか?」
エオリアの提案にルイもヴァーナーも頷いた。和輝は余程人ごみが苦手なようで、ここにいるから楽しんできてくれと告げると、重い頭を机に突っ伏してしまった。
「アル、また遊ぼうね」
「アルはきっと将来すごい妖精になれるですよぅ〜。頑張ってくださいですぅ!」
アニスとルナはすっかりアルと打ち解けたらしく少し寂しそうに別れを告げるのだった。
「エース、僕たちは先に会場に向かいましょう。来るかどうかは分かりませんが、警備の方に迷子の放送を流してもらうのはどうでしょうか」
既に何度か迷子の放送がかかっているのを思い出してエオリアは提案した。
「アルちゃんは、ヴァーナーさんとルイさんと一緒にゆっくりとお祭りを見ながら歩いてきてください。ちょうど今が一番混雑してると思いますし」
イベントが始まる前の特設会場は恐ろしく混雑している。始まってしまえば多少は落ち着くのだろうが、それまでは人で溢れている。そこに小さい子を連れて行くのは大変だと判断しての提案だった。実際にもう既に何人も迷子になった子供もいるし、せっかくのお祭りを迷子保護された状態でちっとも楽しめないよりは今の状態の方が幾分マシだろう。
「でも大変じゃないですか? 会場といっても広いだろうし」
ルイが心配そうに尋ねるが、肝心のエースはもはや女性に会えるということでテンションが上がりまくっていてちっとも苦ではなさそうだった。
「何してる。早く行くぞエオリア。アルの美人なお姉さまが心配でいてもたってもいられなくなってもしも泣きだしてしまうようなことがあったらどうするんだ?」
あの調子ですからと苦笑して、エオリアはエースと共に会場へと先に向かった。
「じゃあボクたちものんびり行きましょう〜」
ヴァーナーとルイに連れられて、アルは嬉しそうに屋台を見回す。
ホットチョコレートを飲んで顔をほころばせたり、仮装用のフェイスペインティングを興味津々に見つめ、試しに何か描いてみるかと筆を貸されたり。青系の流麗でシンプルな模様を小さな雪だるまの小物に満足気に描き終えると、店の主人もいいセンスだと褒める。
せっかくだからもっと大きな頭に描いてごらんよ、とルイが真っ白な後頭部を差し出せば、ボクもとヴァーナーが身を乗り出す。
「ちっこいの、俺より客取れるかもしれねぇなぁ。いい腕してるぜ」
ルイには赤で、ヴァーナーには黄色でそれぞれ流れる模様を描きあげたのを見て、店主がアルの頭を撫でる。
広場まで続く道にそって並んだ様々な出店をゆっくりと見て回りながら少しずつ会場へと近づいていった。
「来てないですか、ありがとうございます」
エオリアは会場に着いてすぐに迷子の放送を入れてもらったのだが、やはり効果はないようだった。観光客が溢れかえっている中でそんなに簡単に見つかるのならばもうすでに見つかっていてもいいはずだ。いくら何でも置いて帰ったりはしないだろうから、少しでも人が帰る頃には見つかりやすくはなるだろうが、どうせなら早く合わせてやりたいものだ。
気合を入れて聞き込みを再開しようとするエオリアの目に、薔薇を一輪渡しながら女性ばかりに声をかけるパートナーの姿を見つけて再び溜息を吐くのだった。
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