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五章 大将

 キリエ・エレイソン(きりえ・えれいそん)たちは盗賊の頭を見つけて、暗がりの中に隠れていた。
 盗賊の頭の身体はまるで岩のように大きく、背中にはこれまた巨大な鎚が背負われていた。
 体中には幾つもの修羅場を潜ってきたことを誇示するように無数の傷跡が存在した。
 そんな頭は、松明のかかった明るく広い袋小路の真ん中で、子分達の報告を待っていた。
「それでは、私が彼を眠らしたら一斉にかかってください」
 キリエはそう言うなり、頭に向かってヒプノシスをかけた。
「ぐ……! お……」
 頭は目を擦り、ぬかるんだ地面に腰を下ろす。
「やった! 皆さん今で」
「ぐおおおおおおおおお!」
 キリエが言葉を言い切る前に頭の咆吼が袋小路に響き渡る。
「誰だ!? そこにいるのは!」
 叫ぶなり、頭はキリエたちが潜んでいる入口に声をかける。
 よく見れば、頭の左の小指はありえない方向に曲がっているのがキリエの目に映りこんできた。
「まさか……指の骨を折った痛みで眠気を飛ばしたっていうんですか……」
「伊達に盗賊のリーダーをやってませんね」
 呆れているキリエに声をかけたのはセラータ・エルシディオン(せらーた・えるしでぃおん)だった。
「こちらの存在がバレた以上、戦うしかありませんね」
 セラータはそう言って、ニャンルーを三体出した。
「さあ、ニャンルーたち。精一杯かく乱してください!」
「「「ニャー!」」」
 ニャンルーたちは甲高い鳴き声を上げると、一斉に頭に目がけて突っ込んでいく。
「俺はパスファインダーで援護しますから、皆さんは気兼ねなく戦ってください」
「うん、それじゃあよろしくね。行くよセレアナ」
「ええ、さっさと片づけましょう」
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は同時に袋小路の中に入り、頭と対峙する。
「なんだぁ? 猫の次は小娘か、一体俺の子分共はなにしてやがるんだ!」
「あら、外見で判断するなんて早計よ?」
「ぬかせ! お前もさっきの猫どもみたいにボロボロにしてやるわ!」
 叫ぶなり、頭は巨大な鎚を振り回してセレンフィリティ目がけて鎚を薙ぎ払う。
 セレンフィリティは身を屈めて鎚をかわすと、まるで地面を滑るような動きで回りこみ、両手に携えた拳銃で頭に目がけて鉛の雨を降らせる。
「ぐおおおおお!?」
 頭は身を縮こまらせて、皮膚から鮮血が迸る。
「だから言ったでしょ? 早計だって。あたしがいくら可愛くても見とれちゃだめだよ、お・じ・さ・ま♪」
 セレンフィリティはわざとらしく胸を抱き寄せて科を作ると、挑発的な笑みを浮かべた。
「……っっけんなぁっ! このガキァ!」
 頭は額に青筋を浮かべると、鎚を真っ直ぐに振り下ろす。
「セレアナ、バトンタッチ!」
 セレンフィリティは銃の弾倉を交換しながら後退しながら、入れ替わるようにセレアナが出てくる。
「まったく……挑発するなら後退しないでほしいわね……」
「よそ見してんじゃねえぞコラァッ!」
 怒号一閃。頭の鎚は風を巻き込みながら振り下ろされて、たたらを踏むとそのまま体ごとぶつかってくるが、セレアナはそれを紙一重でかわしていく。
「そんな大振りな攻撃、当たるわけにはいかないわ」
 言うなり、セレアナの左右の拳が頭のあばら骨を捉え、
「それに……攻撃した後の隙が大きすぎる!」
 続けざまに等活地獄を見舞う!
 体重移動を完璧に行って振り下ろされる拳はキッチリと防御している頭の腕に綺麗な跡を残した。
「調子に……乗りすぎだ!」
 頭はセレアナの拳が振り下ろされるタイミングを読んで、拳を払いのけるとぬかるんだ地面を蹴り上げると泥でセレアナの視界を奪った。
「うっ……!」
 突然の不意打ちにセレアナはなす術もなく動きを止める。
「もらったああああ!」
 咆吼と共に頭の鎚が頭上から振り下ろされて、セレアナを仕留めにかかる!
「セレアナ!」
 セレンフィリティがパートナーの名前を叫ぶのと同時に、頭の背後で巨大な衝撃音が響き、
「ぐおっ!?」
 頭は体勢を崩して倒れた。
「女子相手に目潰しをするとは、見下げ果てたやつよのぅ」
 扇子で倒れている頭を指しながらルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)は険しい表情で頭を睨みつける。
「て、てめえ!」
 頭は起き上がるのと同時にルファン殴り掛かる。
「甘いわ!」
 ルファンはドラゴンアーツでぬかるんだ地面を穿つと、飛び散った土が頭の顔にぶつかった。
「ぐお……ぐ……! てめえ、汚ねえぞ……」
「何を言っておる、そなたが先程したことだろう。この隙にそなたを殴ってないわしの方がまだマシじゃろう。どうじゃ? 少しはあの女子の痛みが分かったか?」
「っざっけんな……この人数で俺をタコにしてる分際で説教垂れてんじゃねえよ!」
 頭は目の土をぬぐい取ると、鎚を担いで怒りに任せて振り回し始めた。
「てめえら腰抜けにこの俺がやられてたまるかよ! 誰か一対一で俺とやり合おうって奴はいねえのか!」
「なら、俺様が相手してやるぜえええええ!」
 叫ぶなり頭の懐に飛び込んできたのはギャドル・アベロン(ぎゃどる・あべろん)だった。
 ギャドルはわざと振り下ろされる鎚の軌道に入り、両手で鎚を受け止めた。
 ぬかるんだ地面に足がめり込み、ギャドルは嬉しそうに笑い声を上げる。
「てめえら、これから先は手出し無用! こいつは俺の獲物だ!」
 ギャドルは叫ぶと大きく息を吸いこんで口から火を吐き出した!
「ぐぁ! ……のやろぉ!」
 頭は火に飲み込まれながらも、何度も鎚を振り下ろし、ギャドルはかわしもせずに愚直に攻撃を受け続ける。
「ふん! その程度の攻撃よけるまでもねえ!」
「ぬかせ!」
 頭が再び鎚を高く振り上げるのと同時にギャドルは頭の鳩尾に拳を深々と突き刺した。
「ぐ……え……」
 頭は鎚を落として、酸素を求めるように口をパクパクさせながら両膝をつき、
「もらった!」
 その隙をついて、ギャドルの踵落としが綺麗に決まり、頭の顔は地面にめり込んだ。
「久々に血が滾ったが、俺様に勝つなんざ100年……いや1000年はえぇんだよ!」
「あーあー、派手にやってくれたね彼には訊きたいことがあったのに」
 やれやれとため息をついてギャドルに近づくのは長尾 顕景(ながお・あきかげ)だった。
「さあさあ、脳筋の出番は終わりだよ。跡のことは私に任せないさい」
 顕景は頭に近づき倒れている頭を仰向けの状態にした。
「てめえら……よくも……」
「うん、意識はあるみたいだね。それじゃあ訊くけど、私たちはペンダントを探してるんだけど何か知らないかな? 場所を教えてくれたら逃がしてあげてもいいけど」
「……知るかよ……そんなもん……ただ宝が置いてある場所は部下の情報である程度把握してる。その情報は俺たちを逃がすことと交換してやるよ」
 頭は倒れながらもニヤリと笑みを浮かべた。
「なるほど……ただの筋肉バカじゃないみたいだね」
「さあ、どうするんだ? モタモタしてると俺の部下がゴミだと思って壊しちまうかも知れないぜ?」
「……まあ、君を捕まえてもこっちに大した旨みはないからね。分かった、その条件を呑もう」
 頭は腰に提げた袋から地図を取り出して顕景に渡すと、今度は完全に気を失った。
「さ、必要最低限の情報は手に入ったし、本当に盗賊たちが目当ての品を壊す前に行動しようか?」
「おうよ! まだまだ暴れさせてもらうぜ!」
 顕景の言葉にギャドルは豪快な笑い声で答えると、袋小路にいた七人は頭から離れていった。